自殺した弟の代わり
男子高校生の主人公は、クリーニング屋で短期アルバイトを始めます。
そこで、主人公の志望大学に通う女子大生と出会います。
主人公が「英語が苦手」と話すと、その女子大生の家で、勉強会をすることになります。
彼女のアパートは、踏切を越えた向こう側にあります。
彼女には4歳下の弟がいましたが、自殺で亡くしているようでした。生きていれば、年齢は主人公と同じです。
主人公は彼女について、
自分を友達以上には思っていない、或いは、一人暮らしの寂しさを紛らわす為に、自分を呼んでいるのかもしれない、だとしたら、何か特別な感情を抱いても、徒労に過ぎない
と言い聞かせながらも、彼女のアパートに通います。
主人公は彼女に、
死んだ弟を重ねているんじゃないのか?
と訊きますが、彼女は首を傾げます。
主人公の短期アルバイトが終わり、彼女が夏休みに入ると、彼女との交流は途絶えます。
主人公は受験に向け、猛勉強します。
夏休みが明けても彼女から連絡はこなかったので、主人公から連絡をします。受験勉強に明け暮れていた話をすると、
もう話すことが見つからなかった。
と、10分ほどで電話を切ります。
その後、会うことや連絡を取ることがなくなります。
主人公が志望大学に合格後、彼女に電話を掛けると、彼女は部屋の整理をしているようで、
本や家具や家電など、欲しい物があったら何でも持っていっていいよ
と言われたので、彼女の使っていたシュシュをもらいます。
主人公と彼女は、踏切まで歩き、そこで別れます。
大学生になった主人公は、彼女のことを知る学生から、彼女の話を聞きます。
地元の福井に年上の婚約者がいて、大学を卒業したら籍を入れるという話だった
ようです。
それを聞いた主人公は、
自分との関係は、学生時代の最後の一夏の、一寸した火遊びだった
と納得します。
大学からの帰り道、地鳴りのような低い唸りが聞こえ、音の方向へ行くと、彼女の住んでいたアパートが取り壊されていました。青空の下に彼女の部屋が剥き出しになっていて、
彼の近くに廃材の山があった。山から崩れた材木が、足元に転がっている。何やら白い米粒が木肌を這っている。朽ちた木の穴から何匹もの米粒の生き物が這い出てきて、夏の眩い陽光の中に、慌しく蠢いていた。
淡々と事実が積み重なり、一つの小説を構成しています。
主人公に感情の起伏はあまりなく、高校生にしては落ち着ぎ過ぎているように感じました。
ですが、自然の細かな描写が巧みで目に浮かぶので、主人公の造形もこれはこれであるんじゃないかと思わせる説得力があります。
それに、自殺した弟の代わりの存在を、主人公が受け入れているからか、そこまで彼女に固執しなかったのかもしれません。
彼女との付き合いを、大学入学後にできた恋人に軽い気持ちで話していることから、主人公は一つの出来事として捉えているといえます。