いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『命売ります』三島由紀夫(著)の感想【死ぬのに疲れた主人公】

死ぬのに疲れた主人公

主人公が目を覚ますと、病院でした。

主人公は、自殺に失敗したことを知ります

なぜ、自殺を図ったのかというと、

新聞の活字だってみんなゴキブリになってしまったのに生きていても仕方がない、と思ったら最後、その「死ぬ」という考えが頭にスッポリはまってしまった。

正直、自殺の理由はよくわかりません。

ただ、自殺に失敗した主人公には、すがすがしさがあります。

永遠につづくと思われた毎日がポツリと切れて、何事も可能になったような気がした

主人公は勤めていた広告会社を辞め、新聞の求職欄に広告を出します。

命売ります。お好きな目的にお使い下さい。当方、二十七歳男子。秘密は一切守り、決して迷惑はおかけしません

この広告を見た人たちが、主人公の命を買いにやって来ます。

主人公は命を買いにやってきた人たちの依頼を受け、死のうとします。

ですが、死には至りませんことごとく生き残ってしまいます

依頼にこたえた主人公は、金がたまり、心境が変わります。

のんびり贅沢な暮しをしてみて、そのままずるずるべったりに生きたくなったら生きてもいいし、また死にたくなったら商売を再開すればいいのである。

こんなに自由な心境はなかった。

結婚なんかして一生縛られたり、会社勤めなんかして人にコキ使われたりする人間の気が全く知れない

主人公は独身ですから、主人公の自殺を図った理由は「会社勤めなんかして人にコキ使われたりする人間」だったからかもしれません。

主人公の心理状態を推測すると、

  1. 生活するにはお金が必要で、お金を稼ぐには働くしかない
  2. 働くことから逃げる選択として自殺を選んだが、失敗した
  3. 自殺に失敗したから再び生活する必要があるが、働きたくない
  4. 再び自殺することはできないので、「命を売る」ことで死ねればいい
  5. 命を売っても死ねなかったが、お金を手に入れることができたので、のんびりして、また死にたくなったら命を売ればいい

です。

命を売って死のうとしていたはずの心境が、変わっています。

積極的に死にたいとは思っていません

主人公は、住んでいた家から引っ越します。

引越し先で出会った女性から、

あんたは死ぬことに疲れたんだ

と言われます。

主人公が死にたいと思わなくなった理由は、「死ぬことに疲れた」からでしょう

「生きたい」からではなさそうです。

自殺に失敗した主人公が、他人の力を借りて死ぬために「命売ります」と広告を出したのに、いざ他人の力で死ねるとわかったら、主人公は死に抵抗します

これはどういうことなんでしょう。

主人公に、命が惜しいという感じはないのですが、死に抗います。

生きたいから抗っているわけではなく、死にたくないから抗っているわけでもなさそうです。

では、なぜ死に抵抗しているかというと、「死ぬことに疲れた」からなのでしょうが、死ぬことに疲れると、無意識に生物の生存本能が働くのかもしれません

つまり、死に向かうにはエネルギーが必要で、主人公には死に向かうエネルギーがなくなったのだと思います。

死に向かうエネルギーを失った主人公は、生物の生存本能として、他人の殺意から無意識に逃れようとします

「生きたくない」イコール「死にたい」だとしても、「死ぬのに疲れた」イコール「生きたい」ではありません。「死ぬのがこわい」に近いです。

「死ぬのに疲れた(死ぬのがこわい)」主人公は、他人の手で殺されることから逃れようとします。

ですが、主人公が生きることに肯定的になったとは、思えませんでした

命売ります (ちくま文庫)

命売ります (ちくま文庫)

 

調べた言葉

  • 精妙:細かいところまですぐれていること
  • 時宜(じぎ):時期がちょうどよいこと
  • ファイア・プレイス:壁の中に取り付けた暖房
  • 鴻毛(こうもう):おおとりの羽毛、きわめて軽いことのたとえ
  • 厚意(こうい):思いやりの厚い気持ち
  • 周旋(しゅうせん):あっせん
  • ネンネ:年の割に世間知らずで幼稚なこと
  • 古雅(こが):古風で優雅なこと
  • 桃源郷:世俗を離れた平和な世界
  • 畏敬:偉大なものとして、おそれうやまうこと