現役女子高生の作品
文藝賞に応募があった2360作の第2位です。
受賞作は『水と礫』です。感想はこちらです。
本作『星に帰れよ』の何がすごいって、高校2年生が書いた作品であることです。
反対に、高校2年生が書いた作品だからこそ、優秀賞を受賞したのかもしれません。
作者の新胡桃さんは、中三のときに国語の先生に勧められて文章を書くようになったそうです。先生に勧められるって、相当光るものがあったんでしょうね。
この作品は現代の高校生の日常を描いているので、現役の女子高生だからこそ書けたのかもしれません。
ただ私は、他の若い女性作家の作風との違いを、見つけることができませんでした。
仮に宇佐見りんが本作を書いたとしても、違和感なく読めてしまいます。
なぜかを考えてみると、
- 言いたいことをセリフで言う
- 家族の話、複雑な家庭環境
- 描写が少ない
あたりが、作品に共通していると感じるからです。
特に、登場人物が言いたいことを、感情を爆発させた長ゼリフで説明している点を、顕著に感じます。同時に、それが作者の言いたいことだと推測してしまいます。
登場人物が感情を爆発させて長ゼリフを放つのが、悪いわけではありません。
ですが、その感情に読者として乗れていないと、冷めてしまいます。その登場人物が普段物静かだった場合、「なに急に熱くなっちゃってんの」と、私はまず思います。
感情のこもった長ゼリフを放つ登場人物に向けて、セリフを受けた人物がその熱さを指摘してくれればいいのですが(「なに急に熱くなっちゃってんの」と)、そのようなことはなく、セリフの言い合いもしくはセリフを浴びせられて終わります。
会話のとき、一方がずっと話し続けるのって、現実感がありません。だから違和感を抱いてしまいます。
選評で磯﨑憲一郎さんは、
致命的だと思ったのは、この書き手は「場」や「空間」が全く書けていない。(中略) 公園の場面も距離感がないし、父親との会話がどこで交わされたのかも分からない、これでは小説は立ち上がらない。
と書いています。描写が少ないのは確かなのですが、だからといって、小説が立ち上がっていないとまでは感じませんでした。小説として十分読めましたので、「場」や「空間」が追記されても、この小説の良さは、さほど変わらないのではないかと思いました。
村田沙耶香さんの選評の、
登場人物達が、かなり粗く、生身の人間よりキャラクターに近いものしかどうしても浮かばず
には、同感です。
特に登場人物の女子高生に、
私の事好きっぽい感じだったから、なんとなく
と、好きでもないのに自分から告白する人物がいるのですが(それ自体考えにくい)、
- 相手の下の名前がわからない
- 相手の所属している部活がわからない
点が、作者の作為っぽく感じました。
島本理生さんの選評で、
理解しえない他者と自己の関係を書く、ということが明確に成されていること
が良い点として挙げられております(島本さんは、主人公が自意識の中に逃げ込まないことが一番良かったと書いています)が、それが登場人物の魅力につながっているかはわかりませんでした。