芥川賞作家の小説の書き方
著者の宮原さんは、新人賞を受賞後、
- 芥川賞候補
- 直木賞候補
を経て、芥川賞を受賞しています。
その後、小説講座の講師をし、村田沙耶香さんを育てたそうです。
芥川賞受賞だけでなく、直木賞の候補にもなっているので、エンタメと純文学のどちらにも精通している作家なのでしょう。
宮原さんは、小説の書き方で、
- 設定
- 展開
- 新局面
を前提に挙げます。
設定とは、
ストーリーの発端のことで、その小説に出てくる主要人物たちの「人間像」や「人間関係」やそれぞれの置かれている「状況」など
展開とは、
設定の中に仕込まれていた要因から、必然的に起こる人間関係の変化の過程
新局面とは、
変化によって人物たちの間に生まれた今までと違う人間関係
と言います。いずれにも登場する人間関係が小説のメインに、私は感じました。
具体例で、「ウサギとカメ」の童話を挙げており、
設定は、
ウサギとカメが登場し、ウサギがカメの鈍足を嘲笑し、カメが競争を挑む
展開は、
競争が始まり、ウサギが油断して途中で一休みして眠り込み、カメはたゆみなく歩き続ける
新局面は、
競争はカメの勝利に終り、両者の力関係が逆転する
に、例えています。
宮原さんは、
「設定」がどう「展開」して、どういう「新局面」を迎えるか
が、小説の肝心なところだと言います。
「展開」「新局面」とは、あくまでも「設定」に真っ向から対決し、それを「乗り越える」ことで実現するものであって、「設定」を取り消すことで実現するものではありません。
「ウサギとカメ」で言えば、競争を持ちかけたカメが競争を放棄したら、「設定」を取り消していると言えるでしょう。
宮原さんは、創作について、
状況の進行のなかで、こうした人物はどうするか、という分かれ道を、その都度、こんな振る舞いはこのような人間には心理的に有り得るか否か、とか、こんな状況でそんなことは物理的に可能か否か、とか検討しながら、不自然な方の道を捨て、必然の一筋の道を辿ることを繰り返して、ゴールまでたどりつく作業
であり、
創作とは、作者が獲得したものを吐き出した結果なのではなく、創作それ自体が、作者が新しく何かを獲得する方法
と言います。
作家がよく言う、「登場人物が勝手に動き出す」は、登場人物の振る舞いを、作家が無意識に検討している結果、生じていることだと、私は思いました。
また小説は、作家の言いたいことを吐き出した結果だと、私は思っていましたが、作家が書きながら考え、考えている過程や結果を綴っていると言えそうです。
宮原さんは、小説を、
「読者にどう感じさせ、どう思わせるか」を目指すもの
と言います。
例えば、花の書き方で、
- 説明:美しい花
- 描写:紫色の小さな花
があります。
「描写」によって書けば、読む人それぞれにさまざまな読み方をしてもらえる可能性が生まれます。つまり作品の持つ幅や厚みがぐっと増すわけです。
(中略)
「美しい花」と説明してしまったら、何百回その文章を読み返したって「美しい花」というたった一通りの読み方しか出来ません。
ですが私は、「美しい花」の方が、読者それぞれ「美しい」を思い描くことができるので、読者の想像の幅が広がると感じました。
むしろ「紫色の小さな花」の方が、読者の想像の余地が狭まる気がしました。
とはいえ、細かな描写の方が、読者の目に浮かびやすいので、「紫色の小さな花」という書き方が、私は好きです。