穴は誰かとつながる存在
主人公は、夫の転勤に伴い、夫の実家の隣に住むことになりました。
田舎で、何もありません。
仕事の求人はなく、主人公は専業主婦になりました。
引っ越しの荷物が片付くと、私は何の予定も宿題もない夏休みを与えられたような気持ちになった。
主人公は、朝、買い物を済ませると、後はずっと家にいます。
ある日、主人公は、草むらから飛び出してきた黒い獣を見ました。
- 黒い毛が生えている
- 大きさは中型の犬か、それよりも大きい
主人公は黒い獣の後を追っていくと、突然、穴に落ちました。
私は穴に落ちた。脚からきれいに落ち、そのまますとんと穴の底に両足がついた。
穴の深さは、1メートルくらいで、主人公の胸くらいの高さです。自力では出られません。穴に落ちたら、誰かの手助けがないと助かりません。
幸い、主人公は、近所の女性に引っ張ってもらえます。
この作品は謎な出来事が多いです。
- 複数の深い穴の存在
- 姑から振込依頼を受けたが、足りないお金
- 子どもがほとんどいない地域なのに、コンビニ店内でたむろする子どもたち
- 夫に知らされていない、義兄の存在
- 夜中、穴へ向かって歩き、自ら穴に入る義祖父
ただ、これはこういう意味ですよと解説されたところで、私はそれを聞きたいわけではない気がします。
主人公が、見知らぬ黒い獣を見たときに抱く感覚と似ています。
この動物が何で、何を食べていて、どういう習性を持っていて寿命がどれくらいでどういう進化をしてきたのかわかったところで私はどうすると言うのだろう。私が知りたいのは多分そういうことではない。
では、主人公が知りたいのは、どういうことなのでしょうか。
推測すると、「なぜ、見知らぬ黒い獣が今ここにいて、誰も何も気にしていないのか」です。
私にとっては、この作品全体が黒い獣のようなものです。
読みやすいのですが、何を表しているのかはわかりません。だからといって、わからない謎について、こういう意味ですよと説明されても、まず疑問を抱くでしょう。なぜなら、謎に対する意味のヒントが作中に示されていないのに、正しい意味はこうだと、断定できるとは思えないからです。できるとすれば、推測です。
私は、謎が多い作品を、こういう世界の作品なんだと、素直に納得して面白がれません。何かしら考えてみたい。なので、推測するしかありません。
主人公は、穴に落ちたことで、近所の人に助けられます。助けられたことで、主人公は近所の人とつながりを持つことができました。
他の人にとっても、穴に落ちたら誰かの手助けがないと出てこれません。
夜中、自らの意思で穴に落ちた義祖父の行動の動機は不明です。主人公の手助けで穴から抜け出しますが、結局死んでしまいます。義祖父の死に喪失感はなく、むしろ主人公に一度助けられて良かったと思いました。
穴は、主人公が誰かとつながる存在になっています。
- 主人公と隣人
- 主人公と義兄
- 主人公と子ども
- 主人公と義祖父
穴にはまったことで、主人公は見知らぬ土地で、人とのつながりを持つきっかけになりました。穴の存在は必要だったのだと思います。
ですが、穴が具体的に何を象徴しているかはわかりませんでした。わからせないのが、この小説の、小山田さんの、たくらみなのかもしれません。
調べた言葉
- のたくる:くねらせてはう
- 面差(おもざ)し:顔つき
- うっそり:うっかり
- 滅私(めっし):私利私欲を捨てる