第165回芥川賞受賞作発表
2021年7月14日(水)、芥川賞の受賞作が発表されました。
ダブル受賞です。
石沢麻依『貝に続く場所にて』
李琴峰『彼岸花が咲く島』
私の予想は、半分当たり、半分はずれました。『彼岸花が咲く島』は予想していたのですが、『貝に続く場所にて』は予想していませんでした。
受賞予想はこちらです。
選評
選考委員の松浦寿輝さんの会見は、NHKの記事からの引用です。
2作品は最初から評価がかなり高く、ダントツと言っていいほど際立っていた。その後の議論でもほかの3作との差は縮まらず、この2作品の受賞となった
決選投票でどちらか一作だけの受賞という話にはならなかったのか(なぜダブル受賞なのか)、経緯が気になりました。
『貝に続く場所にて』について、
ファンタジー的な色彩が強い一方で、大変リアルな風景や人間関係が描かれた文章で、やや読者を拒む面も見られるのではという意見もあったが、日本の慣例的なレトリック文体を離れて、自分の個性的な文章を作ろう、小説にしかできない一つの世界を作り出そうという姿勢が評価された
とあります。「やや読者を拒む面も見られる」というのは、わかる気がします。
本作の凝った文章は、読み進めるのが容易ではありません。芥川賞の受賞をきっかけに本書を手に取った人が、途中で投げ出す可能性は十分にあり得ます。
ですが私は、本作が受賞して良かったと思っています。「個性的な文章」とあるように、時間と記憶が入り混じった、幻想的な街を描く文章は、読んでいて心地良かったからです。
ただ、「小説にしかできない一つの世界」かというと、疑問があります。映像でも再現できると思いますし、むしろ映画で観たい作品だと思うからです。
『彼岸花が咲く島』について、
架空の3つの言語を織り交ぜて、衝突しあったり共鳴しあったりする言語空間を作り上げようとしたことの野心的な冒険性を評価した。言語以外にも習俗を文化人類学的な知見も踏まえて大変リアルに描いていて説得力があり、書き方がやや乱暴だという意見もあったがその力強さとポテンシャルが最終的には評価された
とあります。本作は、架空のものを作り出すところから物語を構築しています。「大変リアルに描いていて」とあるように、架空の島の世界観が、読み手に伝わってきます。
「描き方がやや乱暴」というのは、どこの部分なのか気になりました。終盤、大ノロという女性が、島の歴史(男性が実権を握っていたこと、失敗に終わって実権が女性に移ったこと)を語る場面が乱暴ということかもしれません。語りという一方的な情報伝達ではありますが、私には乱暴に感じませんでした。
結果的に、ダブル受賞で良かったと思いました。
私の第165回芥川賞の予想はこちらです。