いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『スイミングスクール』高橋弘希(著)の感想【泣き叫ぶ我が子を見て「ざまぁみろ」】

泣き叫ぶ我が子を見て「ざまぁみろ」

自分の幼い娘が泣いていても、主人公は無言で見つめています

ふいと口元から、溜息のように、溢れるように、零れました。

ざまぁみろ――

無意識にこぼれ出た「ざまぁみろ」は、愛情とは真逆です。

ちょうど帰ってきた夫が、娘をあやし、主人公は我に返ります。

私の瞳からは次々に涙が溢れ、生温かいものが耳や髪の毛まで濡らしていきました

それ以降、娘が突然泣き叫ぶことはなくなったので、主人公による虐待の加速は免れます。

主人公は、なぜ、泣き叫ぶ娘を見て「ざまぁみろ」と言ってしまったのでしょう

そもそも、「ざまぁみろ」は、誰に向けた言葉なのでしょうか

目の前にいる娘に向けた言葉とするのが順当ですが、いくら我を忘れていたとはいえ、自分の娘に「ざまぁみろ」という言葉を放つでしょうか

以前、主人公は、娘が泣き叫ぶのは病気のサインではないかと思い、病院で医師に見てもらったことがあります

夜驚症というらしく、乳幼児によくある症状なのだそうです。根本的な原因があるわけではなく、脳の作りや性格によるものが殆どで、しばらく様子を見ていれば大抵はすっかり治ると、医師は述べました

一方で、年配の看護師は、

寂しいんですよ、そう言いました。ママがたくさん愛情を注いであげれば、(中略)安心して、ぐっすり眠れると思いますよ

病院の受診後も、娘の夜驚症は続きます。誰にも頼ることができない主人公は、娘と二人きりで過ごします。

不眠のまま、掃除、炊事、洗濯をして、赤子の世話もして、散歩をすることすら儘ならず、私の心身は消耗していきました。

主人公は、娘を無視していたわけではありません。世話をしていました。なのに、夜驚症は治りませんでした。

「ざまぁみろ」の矛先は、娘ではありません

矛先は、愛情を注げばぐっすり眠れるようになると言った、年配の看護師に向いていると、私は考えます。愛情を注いでも、安心してぐっすり眠れないじゃないか、適当なこと言いやがって、「ざまぁみろ――」。

では、主人公は、なぜそこまで年配の看護師を敵視しているのでしょう。

看護師自身の憶測でものを言い、主人公を不安にさせたことは一つの要因でしょう。ただ、それだけではないと思います。

女性なのにきちんとした仕事をもっていることへの嫉妬も、含まれていると思います。

主人公は、大学のときにバイト先で知り合った男性と結婚したので、仕事をしていません。

主人公は他人と境遇を重ね合わせています。娘に対しても例外ではありません。娘と幼少期の自分を重ねています。例えば、スイミングスクールに通うことについてです。

  • 娘:愛犬の死の翌日、娘が通いたいと言った
  • 主人公:母親に連れていかれた。そして突然辞めさせられた

主人公が通っていたスイミングスクールの先生は言います。

平泳ぎを覚えて辞めてしまう生徒が多いけど、バタフライを含めて四泳法だからね子供の頃に、一つの事項を最後までやり通したという経験は、生きていく上で自信に繋がるものだと先生は思うよ。 

主人公は、バタフライを習得せずにスクールを辞めさせられてしまいました。

娘の水泳の上達は早く、主人公は、

もっとゆっくり進級してくれればいいのに、などと考えたりもします。

主人公は、自分が最後までやり通せなかった四泳法を、娘に早く達成してもらいたいとは思っていないようです。

主人公が突然癇癪を起こし、娘をスイミングスクールに通わせなくなるのではないかと、ひやひやします。

収録作『短冊流し』の感想はこちらです。