アカデミー賞国際長編映画賞原作
2022年、アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した作品の原作です。
『女のいない男たち』という短編集に収録されています。
短編集のタイトルどおり、主人公は、「女のいない男」です。
主人公は、
- 女優だった妻に先立たれ、
- 都内に一人で暮らしている、
- 50代の俳優
です。
主人公は、車で仕事場に行っていましたが、接触事故を起こし、免許証が停止になりました。
そこでドライバーを雇うことになります。
主人公の車を運転するのは、24歳の女性です。車の修理工場の経営者から、その女性を勧められました。
主人公は経営者の勧めを受け入れたものの、あまり喜ばしくはない提案でした。
車の運転に限って言えば、女性が運転する車に乗ると、隣でハンドルを握っているのが女性であるという事実を彼は常に意識させられた。
主人公はそれを口には出しません。
24歳の女性の運転は申し分なく、正式に主人公のドライバーとして働きます。
彼女は、3日だけ生きた主人公の子どもと、同じ年でした。
主人公の子どもが死んでから、主人公の妻は、共演俳優と不倫をするようになったそうです。
主人公は、妻の不倫を知っていながら、指摘しませんでした。妻から真相を聞かぬまま、妻は病気で死んでしまいます。
妻の死後、主人公は妻の不倫相手の男と何度か会いました。主人公は男の不倫を指摘することなく、男も告白することなく、会わなくなります。
性格は良いかもしれない。ハンサムだし、笑顔も素敵だ。そして少なくとも調子の良い人間ではなかった。でも敬意を抱きたくなるような人間ではない。正直だが奥行きに欠ける。(中略)なぜそんななんでもない男に心を惹かれ、抱かれなくてはならなかったのか、そのことが今でも棘のように心に刺さっている
そんな話を、主人公は24歳の女性に語ります。
女性は言います。
奥さんはその人に、心なんて惹かれていなかったんじゃないですか
(中略)
そういうのって、病のようなものなんです(中略)考えてどうなるものでもありません。私の父が私たちを捨てていったのも、母親が私をとことん痛めつけたのも、みんな病がやったことです。頭で考えても仕方ありません。こちらでやりくりして、吞み込んで、ただやっていくしかないんです
- 不倫
- 育児放棄
- 児童虐待
を行う心理を、病のようなもので片づけていいのでしょうか。やられた側が呑み込むしかないのでしょうか。
主人公は、妻が不倫をしているのを知っていながら、放置していました。
24歳の女性の言うように、仮に不倫が病だとしたら、病気を放置するでしょうか。治療するでしょう。
ここで言う治療とは、主人公が不倫を指摘し、原因を追及することです。その結果、どうしようもできなければ、主人公が離れるか、我慢するしかありません。そのくらいの選択肢は主人公にあるでしょう。
ですが、主人公は何もしませんでした。
つまり、病気を治療せずに放っておいた主人公の側にも問題はあると、私は考えます。
主人公が自分だけ傷ついてる感じを出し、24歳の女性に慰められているさまは、本当に50代の男性なのかと疑ってしまいました。