かけがえのない他人
主人公の女子高生は、教育実習生の女子大生と付き合っています。
主人公は、「かけがえのない他人」に憧れていました。
ホットケーキを食べたりおてがみを送るような普遍的なことをしていても世界がきらめいて見えるような、他の人では代替不可能な関係のことを、かけがえのない他人同士と名付けていた。
主人公は小学校卒業間際、同級生の男の子と付き合いました。
しかし、主人公が他の男の子と話すと、彼氏になった男の子は、嫉妬を見せるようになります。
彼氏は、
友だちの上に恋人、その上に家族、という三角形があり、(中略)他の友だちとの仲の良さのゲージが貯まると恋人の座を奪われる
と思っていたようです。
主人公は、
かけがえのない他人は、重要度のヒエラルキーの中にはいない特別枠だから、独占する必要も、嫉妬する必要もなかった。一階席の順番がどう推移しようと、二階にある特等席が消えることはないのだ。何者にも代えがたい、すごくやさしくしたいと思える人なのだから。
このような達観した考えを理解できる小学生男子がいるのでしょうか。
彼氏と主人公の考え方の違いで、すぐに別れます。
主人公の考えもわかりますが、彼氏も嫉妬心もわかります。
本作にある考え方の対立には、どちらの言い分にも一理あると思わせます。
例えば、高校生の主人公と教育実習の女子大生の、別れのきっかけです。
女子大生は、主人公と過ごす日々を、SNSで発信していました。
発信を知らなかった主人公は、同級生の友人から教えてもらいます。
主人公は、女子大生がSNSに勝手に投稿していたこと以上に、投稿されることで、主人公が「LGBTの人」「同姓との恋愛関係を望む人」に固定されてしまうのが、嫌だったように思います。
主人公は、「かけがえのない他人」が欲しかっただけでした。
一方、女子大生の言い分です。
同じようにパートナーとの写真をあげてるフォロワーもいて そうやって仲間と連帯して 意思表示をしないと駄目なんだよ 私たちの姿を見て励まされてる人だっているんだ
女子大生は、マイノリティからの立場からの発信で、同じような人たちを励ましていました。実際に救われている人もいました。
しかし、SNSで発信する際、一番大切にするべきな、主人公の意思を確認していませんでした。その点を除けば、女子大生の考えは、非難されるべきではないでしょう。
主人公は、マイノリティであったとしても、味方(かけがえのない他人)が一人いれば十分でした。社会と戦う必要も、世の中を変えたいという思いも、ありませんでした。
主人公は、女子大生に一方的に別れを切り出します。
女子大生は投稿した写真を消すと言いましたが、主人公は関係を断ち切ります。自分の知らないところで自分のことを語られ続けるのが、主人公は嫌でした。
主人公は、
- 女子大生が、主人公の意思を尊重して写真の投稿をやめる可能性
- 女子大生が「かけがえない他人」になる可能性
を一方的に切り捨てます。
主人公の頑固さ、柔軟性のなさに、私は冷酷さを感じました。
主人公は、「かけがえのない他人」を求めつつ、他人に一度の間違いすら許すことなく、相手の言い分も聞かず、自分がいつも正しいと思って生きています。
「かけがえのない他人」を、「自分にとって都合の良い完璧な存在」だと勘違いしているようです。
なので、後日、女子大生に新しい彼女ができたと知った主人公を、奈落の底に落としてほしかったです。一方的に切り捨てたことの後悔を、主人公にしてほしかったです。
タイトルの「N/A」とは何でしょうか。
- 何にも属さない主人公(LGBTなどに括って欲しくない)
- かけがえのない他人がいない主人公
感想②はこちらです。