いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『N/A』年森瑛(著)の感想②【つらい人に掛ける言葉】(文學界新人賞受賞、芥川賞候補)

つらい人に掛ける言葉

感想①はこちらです。

主人公の友人であるオジロの祖父が、コロナにかかり、入院します

オジロから直接報告を受けた主人公は、どのように声を掛けていいか、悩みます。

オジロにとって重要な友だちだから打ち明けてもらえたのであって、誰にでも言える言葉を言っては駄目だ、何か、含蓄のあること

(中略)

大丈夫?』大丈夫なわけがない。

つらいね』そんなの当たり前だ。

頑張って』頑張るのは医療者とオジロのじいちゃんだ。

きっと良くなるよ』根拠がない励ましをしても気休めにもならない。

無事を祈っているね』祈って何かを成し遂げたつもり

結局、打ち明けてくれた友人への言葉は、主人公から出てきません。

出てきたのは全て、「家族が病に臥せっている人」に向けた言葉でした。

多くの人に使われてきた言葉を使用すれば、友人との関係を安全に保てるのは間違いないと、主人公は考えます。

友だち 家族 病気 言葉』で検索しようとして、スマホを放り投げた。

主人公は、何も声を掛けられません。

すると、主人公のもう一人の友人が、グループチャットにメッセージを入れていました。

大丈夫とかつらいけど頑張ってとか絶対良くなるとか書こうとしたけど全部意味ないからやめた あたしは黙って既読だけつけとく オジロが吐き出したいことあったらここで好きに書けばいいと思う

正直な気持ちを吐露するこの発言は、きっと正解です。

ただ、この正解を言えるのは、最初の一人だけです。グループチャットでこの発言をされてしまうと、発言していない主人公は、同調以外に掛ける言葉はありません。

主人公は、

『うんうん』と頷くハムスターのスタンプにふれる直前で、ちゃぶ台を囲んで黙ってお茶を飲む三匹の動物のスタンプに変えた。ださかった。

主人公は、先を越されてしまいました。先を越して発言した友人を、少しくらい恨んでも悪くないでしょう。主人公は何も言えなくなってしまったのですから。

主人公は、もっと早く、掛ける言葉を友人に相談すべきだったのでしょう。そして、二人の名前を入れて、グループチャットで正解の発言をすれば良かったのです。

ちなみに、『友だち 家族 病気 言葉』で検索したページで、「言葉をかけたい時は素直に自分が思っている事を伝えるようにしましょう」と出てきました。確かにそうだと納得しました。

「大丈夫?」であれ「つらいね」であれ「無事を祈っているね」であれ、自分が思っていることであれば、伝えた後に後悔しないと思います。

自分の言葉を伝えた結果、相手に不快な思いを与えてしまったら、相手から距離を取られるでしょうし、そのときはそのときだと思いました。

ただ、「きっと良くなるよ」は、根拠がなければ使わない方が良い気がします。何をもとに良くなると言っているのか、何も知らないくせに、と相手に不審がられるでしょうから。

N/A

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