悪態というコミュニケーション手段
タイトルの「あくてえ」とは、
悪口や悪態といった意味を指す甲州弁
で、主人公である19歳の女性は、悪態をつきます。
主人公が、同居の祖母を「ばばあ」と心の中で呼ぶのも悪態の一つです。
主人公は、
- 祖母
- 母
の三人暮らしで、祖母は母の義母です。
主人公は派遣社員、母はパートで金がありません。
父からの入金は滞りがちです。
父は、浮気をして家を出て、新しい家族と暮らしています。
90歳の祖母は、父の新しい家族で暮らしていましたが、しばらくすると家を出て、主人公の家で暮らすようになりました。
母は、元夫に連絡し、義母を引き取りに来てもらってもいいのに、義母を家に受け入れました。
母は、義母の介護に弱音を吐かず、義母との争いごとを好みません。
主人公は、母の代わりに祖母に悪態をつきます。
皮肉や悪態や嫌味の応酬といった言い争いのみ、あたしたちのコミュニケーションは成立する。
主人公にとって、悪態はコミュニケ―ションの手段です。
祖母に対してだけでなく、浮気をして家を出た父や、彼氏に対しても、悪態をつくことはコミュニケーションの一種です。
誰にも隙を見せたくはなかった。わがままで高慢で強気で怒りっぽく、言葉で相手をなじり、責め立て、憎たらしいあくてえばかりつく手に負えない女だと思われていた方が楽だった。
主人公の悪態について、父や彼氏は本気で怒っているようには見えません。
特に父は、申し訳ないふりをして、主人公のことを流しているように見えます。
ある日、主人公が祖母に悪態をついたとき、父は主人公に耳打ちします。
相手は年寄りなんだから、適当にあしらっときゃいいんだよ。いちいち本気にしてると疲れるぞ
父は、実の母親を適当にあしらっていたのです。
実の母を年寄り呼ばわりし、適当にあしらっときゃいいと言う父は、実の母のことを母だと思っていないのでしょう。
同様に、父は主人公のこともあしらっているのでしょう。
主人公や母は、祖母のことを適当にあしらうことはできません。
祖母に悪態をつく主人公と、祖母に強く言い返せない母。
主人公と母は、祖母に真摯に向き合っているとも言えますが、一方で不器用とも言えます。
主人公は祖母に悪態を続け、母は祖母の言いなりになっている構図に、大きな展開はありません。
悪態をつかなくなる主人公や、祖母に立ち向かう母という展開を期待していました。
どうしようもできない辛い体験を、長々と聞いていたという読後感でした。
また、主人公が小説家や小説志望者だと、小説を読んでいる感が出てしまいます。
物語上、主人公に小説家を目指す必然性があればいいのですが、私は見出すことができませんでした。
小説家になっていないあたしの人生は、まだ始まってすらいなかった。
小説家を目指すのを一旦置き、まずは今の家を出ることを目指すのはどうだろうかと思ってしまいました。
時間軸が直線ではなく、過去の出来事が入り混じって描かれますが、文章が読みやすいので、混乱せずに読むことができました。