いっちの1000字読書感想文

平成生まれの社会人。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『給水塔』岸政彦(著)の感想【大学院に落ちて日雇いの肉体労働】

大学院に落ちて日雇いの肉体労働

著者の岸さんは、大学院に落ちて、日雇いの肉体労働を始めました。

現場には、和服の着物を着てくる細身の若い男性がいました

彼は西成が好きで、東京から大阪に来て、日雇い労働をしていました。

ドカタのおっさんたちから着物を着ていることをからかわれていたが、細身だったが見事な筋肉で、とにかく現場の力仕事が抜群にできる男だったので、そういう変わった奴として、やがて自然に受け入れられていった

仕事ができれば、変わった奴としてでも受け入れてもらえるのは、実力主義の社会だからでしょう。

肉体労働の現場では、性格や人格やコミュニケーションやマナーや何やかやがいくらダメでも、体さえ動けば、誰にでも居場所が与えられる

完全実力社会。私の職場とは違います。

私の職場では、性格や人格はさておき、コミュニケーションやマナーは重要です。

そして年功序列。年功序列の会社は多いでしょう。

役職上位の人よりも、職歴が長い人が、ある意味強いです。

ある意味というのは、役職下位であっても、職歴が長ければ、上位の役職者に敬語を使われる点です。意思決定権は役職上位者にあります。

年功序列と実力主義。どちらが良いでしょうか

私は、年功序列派です。

会社で長く働いているのは、評価してほしいです。勤務態度が問題なければですが。

肉体労働の現場に、着物で来る若い男に、居場所があるのは良いことです

実力次第で、誰にでも輝ける場所があるのは、救いです。今の場所が合ってなかったら、別の場所に移ればいいですから。

ただ、コミュニケーションやマナーは最低限必要です。

私は、敬語を使えない後輩とは関わりたくないですし、仕事を教えてくれない先輩のもとでは、働ける気がしません。

お客さんにはコミュニケーションやマナーが必須でも、同僚には必要ない。そういう意見もあるかもしれません。

実力があれば同僚の手を借りる必要はないので、同僚を気にしなくていい、という考えでしょう。

いくら実力主義の社会とはいえ、最低限のコミュニケーションやマナーがないと、誰も関わりたいとは思いません。

コミュニケーションは不要、実力がすべて

そんな人間と、誰が関わりたいでしょうか。

仕事のときは関わらざるを得ないとしても、仕事以外では関わりません。

仕事がなくなったとき、誰にも相手にされなくなります。

日雇い労働をしていた岸さんは、大学院に入学し、社会学者になっています。

高校のときから社会学か音楽かどちらかで生きていこうとは決めていた

一方で、

大学に就職できる見込みがないので死のうと思っていた

と言います。

30歳過ぎて大学院生だったそうで、私にはできないと感服しました。

先が全く見えない状況では、自分の実力によほど自信があるか、馬鹿でないと続けられないと思います。

岸さんは実力もあり、馬鹿でもあったのでしょう。

私には、岸さんにとっての社会学のような、「高校のときからこれで生きていこうと決める」対象がありませんでした。

一本、筋の通ったものを持つ人に憧れます。

こうなりたいと願う人生を垣間見ました。

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