人生最大の失敗
感想①はこちらです。
感想②はこちらです。
村上龍さんの私小説的小説として読みました。
本書では、主人公の人生最大の失敗が語られています。
よって、村上さんの人生最大の失敗として、読めてしまいます。
わたしは独り暮らしだ。貧乏学生のころ、五歳年上の、かなり収入のある家具デザイナーと三年ほど付き合っていたが、彼女は、わたしが作家としてデビューして、しばらくすると、去っていった。
一人暮らしを「独り暮らし」と書くと、主人公の孤独が伝わってきます。
自分は結婚するつもりなんだろうなと思っていたのだが、別れた。人生における最大の失敗だったとあとになって気づいた。
主人公の人生最大の失敗は、当時付き合っていた家具デザイナーの女性と別れたことです。
主人公は引き留めもせず、話し合いもなかったそうです。
いろいろな女と出会い、付き合ったが、女たちは、若くして成功した作家としてのわたしと出会い、付き合ったのだ。
主人公は24歳で作家デビュー、若くして成功しています。
成功した後に出会ったら、若くして成功した作家という部分を、主人公から捨て去ることはできません。
- 家具デザイナーを「彼女」や「女性」
- 作家として成功してから出会った人を「女」
と、表現しています。
この「女」たちが、成功者に群がる存在に見えたのだと、受け取れます。
家具デザイナーの女性とは、主人公の作家デビュー前からの付き合いでした。
作家として成功する前の主人公は、以下のとおりです。
米軍基地の街に住み、(中略)幻覚剤を大量に服用して警察に留置され、基地の街に住めなくなって、逃げるように東京西郊の街に移り、風呂もなく、トイレ共同の安アパ―トに住み、ほとんど大学にもいかず、単に小説らしいものを書いていた二十歳そこそこ
作家デビュー後と真逆のような生活です。
家具デザイナーの女性は、主人公の小説らしいものは読んでいたのでしょうか。
読んでいたのだとしたら、その小説についてどう思っていたのか、気になりました。
なぜ、彼女が去ってしまったのか、わかりません。
主人公はなぜ、引き留めなかったのでしょうか。去る者追わずの精神でしょうか。
五〇代後半、精神的に不安定になって、若い心療内科医を紹介されて、最初のカウンセリングで、あなたはその家具デザイナーの女性を失ったことをずっと引きずっていますと指摘された。
主人公が家具デザイナーの女性を失ったことを引きずっているのは、彼女が魅力的な女性だから、ではないでしょう。
家具デザイナーの女性が、主人公の成功前に出会った、他には替えのきかない存在だからです。
作家として成功した後に出会った女性が、主人公の成功した部分に惹かれて付き合っていると、主人公が思い込んでいる可能性もあります。
デビュー作で賞を受賞し、若くして資産を得た主人公に寄ってくる「女」たちには、金目当てや名声目当てのように、主人公の目には映っていたのかもしれません。
売れることのデメリットを垣間見た気がします。