野間文芸新人賞候補作発表
2022年9月27日、野間文芸新人賞の候補5作品が発表されました。
受賞作の発表は、2021年11月4日(金)です。
以下、候補作をまとめ、受賞予想をいたします。
『ケチる貴方』石田夏穂
初の候補です。
感想はこちらです。
『くるまの娘』宇佐見りん
初の候補です。『推し、燃ゆ』で芥川賞を受賞しています。
感想はこちらです。
『祝宴』温又柔
初の候補です。
感想はこちらです。
『ミシンと金魚』永井みみ
初の候補です。同作ですばる文学賞を受賞しています。三島賞の候補にもなりました。
感想はこちらです。
『ほんのこども』町屋良平
第40回の候補『しき』に続いて、2度目の候補です。『1R1分34秒』で芥川賞を受賞しています。
感想はこちらです。
受賞予想
- 『ケチる貴方』石田夏穂:×
- 『くるまの娘』宇佐見りん:○
- 『祝宴』温又柔(著):△
- 『ミシンと金魚』永井みみ:△
- 『ほんのこども』町屋良平:○
候補作すべて良かったです。
『ケチる貴方』は、候補作で一番面白く読めました。
しかし、結末が冒頭と同じ状態に戻ることが、突き抜けてない感じがして、受賞はないと判断しました。
『くるまの娘』は、宇佐見りんさんの過去2作と、登場人物や物語の構成要素が似ています。
しかし、主人公がどうしようもない家庭環境にいるとわかっていながら、家から出ず、家と外の間にある車で生活する選択に、新しさを感じ、○にしました。
『祝宴』は、同姓の恋人がいる娘の父親視点のため、理解を示せない父親像がリアルに描かれて良かったです。LGBTを誰もが理解できるわけではありません。
しかし、「娘が同姓の恋人といるのが幸せなら、それを尊重する」という結論が、良くも悪くも普通に感じてしまい、△にしました。
『ミシンと金魚』は、主人公が生計を立てるために没頭したのがミシン、代わりに子守りをさせたのは金魚、から付けたタイトルがシンプルで良いです。
ただ、ミシンを踏まなければ生計を立てられないとはいえ、ミシンに没頭したことで子供を亡くしてしまったのは、いわば虐待です。それを、子どもがいた時期は幸せだったという描き方は、加害者の美談に感じてしまい、△にしました。
『ほんのこども』は、町屋良平さんしか書けない作品です。
町屋さんが小説家になるべくしてなったきっかけが、書かれています。
町屋さんの作品を読んだことがない人からしたら、読みにくい作品かもしれませんが、唯一無二の点で、○にしました。
受賞予想は、『くるまの娘』です。
『ほんのこども』と悩みました。『ほんのこども』は、町屋さんの作品を読んできた人には評価されると思いますが、町屋作品の最初の一冊で手に取るべきではありませんし、読み通すのに苦労を要します。
『くるまの娘』は、宇佐見さんの前2作と似たような構造の作品ですが、最初に手に取っても問題ありません。
受賞する作品は、その作品で始まり、その作品で完結すべきであり、他の作品を読まなければ理解しにくい作品を評価すべきではないと考えます。
ちなみに、温又柔さんの作品を読むのは初めてでした。
私が初めての作家さんの作品を読むのは、
- 賞のノミネート
- 話題作
- 誰かのおすすめ
に限られるので、読めて良かったです。
読んでて楽しいのは石田夏穂さん。
『かか』や『推し、燃ゆ』と同じ、母と娘の話の宇佐見りんさん。
永井みみさんは、すばる文学賞を受賞しましたが芥川賞にノミネートされず、佳作の石田夏穂さんの作品『我が友、スミス』が、芥川賞にノミネートされました。
その2人が野間文芸新人賞で対決するとは面白いです。
町屋良平さんは、新境地の作品がどう評価されるか。
楽しみです。