いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『祝宴』温又柔(著)の感想【娘に同姓の恋人がいたら】(野間文芸新人賞候補)

娘に同姓の恋人がいたら

主人公は、67歳になった今も、会社のプロジェクトを統括するビジネスマンです。

  • 中国
  • 台湾
  • 日本

を行き来します。

妻と娘2人は日本にいて、下の娘の結婚式(祝宴)に出席しました

結婚式の夜、37歳の上の娘は言います。

かのじょのことを、パパとママに秘密にしたくないの

娘には、同姓の恋人がいるようでした。

主人公は、理解に苦しみ、自問します。

何も、女でなくてよかったのになぜ、女なんだ同姓なんだ

主人公は、上の娘との接触を避けるようになります。日本に帰るタイミングがあっても、仕事を理由に、中国や台湾にいます。

主人公が日本にいない間、妻は、上の娘の恋人と会っていました。

妻は、娘の恋人の名前を口にしていました。妻や下の娘は、上の娘の恋人を受け入れているようです。

同姓だぞ、女なんだぞ、と言いたくなる。そして、家族のうち、自分一人だけが、そう感じているらしいことに困惑する

(中略)どうして、この思いを誰とも分かち合えないんだ?

一方で、長女に同姓の恋人がいるという事実を受けとめきれずにいる自分を、妻や次女に知られたくないとも感じているどうしてなのか、それが、ちょっとした恥のようにも思えるのだ

主人公は、同姓と付き合っている娘を受け入れられない一方、受け入れられない自分の考えを、恥だともわかっています。

上の娘は、

  • 中学2年生で不登校
  • 大学を退学
  • 大学での仕事を辞め、NGOで働く

と、思い切った決断をしています。娘の決断を、主人公は尊重してきました。

しかし、同姓の恋人については受け入れることができません。

正常でいて欲しかった

と、主人公は考えます。

正常とは何でしょうか。

下の娘のように、

  • 結婚
  • 出産
  • 子育て

をして、新しい家族を作ることでしょうか。

主人公は、かつてビジネスで関わった日本人男性と、中国で再会します。

その日本人男性には、一人娘がおり結婚したのですが、娘から、子供を持つつもりがないことを宣言されたようです。

日本人男性は言います。

生まれてもいない孫なんかよりも、既に存在している自分の娘にこそ幸福であってほしいと願っています。そのうえで、子どもを持たない人生を選ぶのが彼らの幸福というのであれば、その意志を尊重するべきだろうと思ってます

主人公は、その考えに共感しつつも、娘の結婚相手が男性だからとも思っています。

つまり主人公は、娘に同姓の恋人がいることを良く思ってないのです。

さらに、良く思っていないことを誰にも知られたくなく、良く思っていないことを恥だとも感じているのです。

上の娘は、うしろめたさを妻に吐露していました。

パパがわたしにしてくれた以上のことを、わたしは一生かけてもパパにはしてあげられない

上の娘は、結婚し、孫の顔を見せることが、両親への親孝行だと思っています。しかし、それはできません。

パパは、君が幸せでされあれば、十分なんだ

と主人公は、結論付けます。

結婚し、子どもを産み育てることが、必ずしも万人の幸せとは限りません。

娘が幸せであればいい娘が同姓の恋人といるのが幸せなら、それを尊重する

当たり前に思われるそのことを、還暦を過ぎた主人公の視点で描かれます。

私小説かと思うほどリアルで、物語に感じさせないほど引き込まれました。