疑似家族の行く末
キャラが立っている作品です。
- 精神科医のふりをしたスパイ男
- 市役所職員のふりをした殺し屋女
- 人の心が読める少女
- 未来が見える白い大型犬
この3人と1匹が、一緒に住みます。
3人は、相手に自分の本性がわからないよう、うまく隠しています。
隠しきれていないと思う場面もありますが、素性は知れていません。
唯一、心の読める少女だけが、全員の本業や能力を知っています。
疑似家族が本物の家族になっていくのか――。
以下、ネタバレ含みますのでご注意ください。
主人公のスパイ男は、
- 子どもを名門学校に通わせ、
- 同級生の親(政治家)と接触し情報を得る
指令を受けます。
主人公は少女を養子にとり、名門学校に通わせます。
主人公と、市役所職員のふりをした女性は、お互いの利益のため疑似結婚。
主人公は、疑似結婚や養子は指令の一環であり、任務が完了すれば離婚・離縁するつもりです。
任務が優先であり、任務完了とともに、家族はバラバラになります。
読者としては、本当に任務完了とともに家族バラバラでいいのか? と思うわけです。
主人公(フォージャー)は、飼っている犬に言います。
無茶はするな
ウチにもおまえが死んだら悲しむやつがいる
(中略)職業犬としての仕事は二の次でいい
おまえはまずフォージャー家の一員であることを自覚しろ
これは伏線になるセリフです。
主人公にも当てはめることができるからです。
- (主人公が)死んだら悲しむのは少女
- 少女が悲しむと主人公の任務に支障をきたす
- スパイとしての仕事は二の次でいい
- フォージャー家の一員であることを自覚
主人公の考えが、「スパイが二の次、家族が第一」になるとは思えません。
主人公が次の任務を継続してこなすために、「これからも家族という形式をとるのが望ましい」ならあり得ます。
消極的選択のようですが、家族を機能と捉える決断として、主人公らしいです。
一方で、主人公の上記の引用発言は、犬の散歩での出来事で、他に聞いている人間はいません。
犬は言葉を発しませんから、主人公が任務完了後、家族解散を宣言したとき、「フォージャー家の一員であることを自覚しろ」と言ったじゃないかと、指摘する登場人物はいません。
登場人物はいませんが、主人公の発言を聞いている人はいます。読者です。
「任務完了、家族解散!」
と主人公が最後に放ち、「完 スパイ任務はこれからも続く」で終わったとして、読者は納得するでしょうか。
養子になった少女は家族が続くことを望んでいますし、疑似結婚した女性も同様でしょう。
私は、疑似家族が本物の家族にならなくていいと思います。
本物の家族って何でしょうか。
疑似家族が疑似家族として、形式的に続けばいいと思います。
疑似家族として描かれる家族が、すでに本物の家族のようじゃないですか。
「疑似家族を続けるか」が果たして疑似家族と言えるのかはわかりませんが、「本物の家族になろう」や「家族を解散しよう」より、望むラストです。