いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『パパイヤ・ママイヤ』乗代雄介(著)の感想【少女の秘密基地】

少女の秘密基地

後半に進むにつれ、面白くなります。

前半は、正直退屈です。

乗代さんの作品を読んだことのない人は、序盤で脱落する可能性があります。

最後まで読むと、爽やかな気持ちになれます。

乗代さんの『旅する練習』に近い、ロードムービーのような作品です。

パパイヤとママイヤは、SNSにおける少女たちのハンドルネームです

  • パパイヤ:父親がアル中。バレーボール部所属
  • ママイヤ:母親が家を出て行った。写真が好き

17歳の女子であるパパイヤとママイヤが、SNSを通じて出会います

待ち合わせ場所は、木更津の河口干潟。

周りに人はいません。

学校でも、家でもない、第三の居場所。

パパイヤとママイヤは、木更津の河口干潟で、定期的に会うようになります。

そこで出会う人は、

  • 絵を描いている男の子
  • ホームレスの男

と、特殊です。

男の子の描く空の絵は、なぜか黄色

ホームレスは、黄色のものばかり集めています

ホームレスの名前は、所ジョン。

パパイヤとママイヤが名乗ると、ホームレスがそう名乗りました。

黄色いものを集める所ジョンに、黄色い空の絵を渡すことを、パパイヤとママイヤは思いつきます。

しかし、黄色い空の絵は、ウイスキーボトルに入れて、海に流していました。

そこで、パパイヤとママイヤは、男の子の書いた絵を探します。

ウイスキーボトルがどこに流れ着いたかを予想し、その海岸へ向かいます。

家庭環境が良いわけではないのに、シリアスになりすぎません。

良かったのは、パパイヤとママイヤの、(相手を想う)すれ違いです。

パパイヤは、バレーボールの試合を見に来るよう、ママイヤに伝えます。

ママイヤは、パパイヤのバレーボールの試合会場に行きます。

しかし、パパイヤは試合会場にいません。

パパイヤは試合に行かず、バレーボール部を辞め、木更津の河口干潟にいました。

パパイヤは、バレエの練習をしていたと言います。

バレーを辞めてバレエを始めたのは、ママイヤのおかけだと、パパイヤは言います。

遅かれ早かれそうなったのかもしれないけど、わたしはこんなに楽しそうに踊っていられる場所へ、そういう状態に、ちょっとだけ早く、君を導いてあげられたんだろうかもしそうなら、生まれて初めて、わたしはうれしい

わたし=ママイヤ、君=パパイヤのことです。

パパイヤは、椎名林檎「この人生は夢だらけ」の曲が流れる中、踊ります。

あの人に愛して貰えない今日を正面切って進もうにも難しいがしかし

実感したいです 喉元過ぎればほら酸いも甘いもどっちもおいしいと

これが人生 私の人生(この人生は夢だらけ)

パパイヤは、手に職の「家政」ではなく、集団の「バレーボール」でなく、個の「踊り」を選びました。

一直線にゴールするのは難しいでしょう。険しい道のりです。

作中にある「富津公園 明治百年記念展望塔」のように、頂上にたどり着く階段は、いくつもあっていいと、それが人生だと思えました。