いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『破局』遠野遥(著)の感想【再読して面白い】(芥川賞受賞)

再読して面白い

読むのは、3回目か、4回目です。

3回以上読む小説は、ほとんどありません。

遠野さんの作品では、『破局』以外にも、『改良』を4回読んでいます。

どうしてそんなに読むのでしょうか。

たぶん、面白いからです。

たぶんとつけましたが、面白いからでしょう。

では、何が面白いのか?

文章として、面白いのです。

ストーリーには、面白味は感じません。

ですが、書かれている文章が面白いです。

例えば、主人公(私)と、恋人(灯)との場面です

私がきれいだと言うと、灯はきょとんとして、何のことかと聞き返した。もちろん灯のことだと言うと、急にどうしたのかと笑う。急ではなく、言わなかっただけで、ずっと思っていたのだと、私は言った。(中略)これから先も、言わないだけで、いつでもそう思っているだろうと、私は私の所見を伝えた。しかし、先の話はするべきではなかったなぜなら、明日のことなど、誰にもわからない今の私が灯をきれいだと思い、大切に思っていたところで、明日の私もそう思っているとは、誰にも保証できないだろう

『改良』の受賞対談で、磯﨑憲一郎さんが『改良』を「独自の語り口の萌芽が感じられる作品」と言っていました

『破局』にも、独自の「語り口」を感じられます。

上記の引用では、セリフと地の文が混在しています。

セリフを「」で書き、地の文を分けて書くやり方もあるのに、遠野さんは、地の文で一気に書いています。

どうしてだろうと思いましたが、地の文で書くことで、独自の「語り口」が前面に出ている気がしました。

セリフを「」で書くと、セリフ部分は普通なので、地の文の「語り口」部分がこま切れになり、「語り口」の独自性が薄まる可能性があります。

セリフと地の文を混在させることで、一つの地の文として、「語り口」が協調されている印象を受けました。

また、主人公と、元彼女(麻衣子)との場面について

ねえ、聞いてくれるかなと麻衣子が言った。私は窓の外を眺めるのをやめ、姿勢を正した。

(中略)「小学生の、まだ低学年だから(後略)

このまま元彼女は、13ページ、話し続けます。

その間、主人公の相槌や反応は、描かれません。

どういうこと?って思います。

  1. なぜ、こんなに話し続けるのか
  2. なぜ、このタイミングでこの話をするのか

1について。

主人公は相槌くらいはしているが、つまらない話だからと、反応を描いていない可能性を考えました。

2について。

主人公は、元彼女から聞いたことのある話なのではないかと考えました。

元彼女の話は衝撃的ですし、主人公が過去に聞いていても、おかしくありません。

それゆえの、主人公の無反応ということも考えられます。

今回『破局』を再読して、読み手次第で、いかようにも面白く読めることがわかりました。

芥川賞候補のときは、他の候補作と比較(特に高山羽根子さんの『首里と馬』)して、批判的に読んでいた気がします。

今なら遠野さんの次作『教育』も読めるかもしれません。

破局 (河出文庫)

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