息を止めたら
タイトル「息」が、何を示すのか、考えました。
デビュー3作目のタイトルにしては、シンプルすぎると感じました。
タイトルだけで読もうとは、思えません。ストロングスタイルです。
私は、三島賞の候補になったから、読んでみようと思いました。
1作目の『わからないままで』は、新潮新人賞受賞作だったので、読みました。
感想はこちらです。
2作目の『アンド・ソングス』は、賞の候補にならなかったので、読んでいません。
『わからないままで』を読んだとき、次作を読みたいとは思えませんでした。
3作目の本作は、三島賞候補で、本も出版されます。
本作を読んで、『アンド・ソングス』を読みたいと思いました。
『息』は、前作を読みたいと思わせる作品でした。
タイトル「息」は何を示すのでしょうか。
- ぜんそく(主人公と弟がぜんそく持ち)
- 脱法ハーブ(父が使用)
- 生と死(息を引き取る。弟が自殺)
主人公は30代の女性で、イラストを描いて生計を立ててます。
6歳下の弟は、10年前に自殺しました。
弟の残したメモは一言、
しあわせでした
弟の自殺で、父はおかしくなります。
母は、弟を一人にして出勤しなければ良かったと、悔やみます。
主人公は、弟の夢をよく見ます。
弟は死んで、この世からいなくなりました。
しかし、残された家族の傷は、癒えていません。当然ともいえます。
死別とはつまり、死をもっていっぺんに終えられるものではなく、いっときはじまればやむことなく、果てしなくつづくものなのだと知った。
ありふれたテーマで、既視感はあります。
ですが、良かったです。
良かったのは、文章と、主人公が息(呼吸)を止めるところです。
文章は、
- 平易な言葉
- 描写と説明とセリフのバランスが良い
よって読み心地が良いです。
主人公は、行方不明だった父を、公園で見つけます。
噴水にたまっている浅い水で、父は死のうとします。
ぼくはね、死ぬぞ、うみに、沈んで、ぼくは、
噴水の水を、海と勘違いしています。
脱法ハーブの使用のためか、父の意識はもうろうとしています。
主人公が助けようとするも、うまくいきません。
わたしは息をすることをやめた。
主人公は、父を助けることも、自分の呼吸も、諦めます。
息を吸うのでも、吐くのでもなく、息が止まったその瞬間に感じたのは、経験したことのない安らかさだった。もう、重く固まった方や背の筋肉を絞るようにして、息を吸わなくてもいい。胸のうちで閉じかけている気管支に無理やり、空気を通さなくてもいい。
私は、自分が死を選ぶときとリンクしました。
- もう、働かなくていい
呼吸と労働は別ですが、主人公にとってのぜんそくは、私にとっての労働です。
主人公の父の行動で気になったのは、主人公に会う前は、死ぬ気ではなさそうだったことです。
主人公が父を発見した後、父は噴水で死のうとしました(発見時、服装が濡れている描写はなかったため)。
行方不明になっていた間に死のうとしなかったのは、本当は死ぬ気ではなかったのかもしれません。
もしくは。父は、息子の自殺直後を目撃しました。
父も、家族に自分の死を目撃してもらいたかったのかもしれません。