選評を読んで
アラフォーの女性2人が、ルームシェアをします。
主人公は38歳で、経理の仕事をしています。
同居人は、仕事で知り合った女性です。
仲良くなったきっかけは、推しの男性アイドルグループが同じだったことです。
主人公と同居人が推すメンバーは、違います。
同居人の推しが結婚を発表したとき、同居人は傷心します。
傷心は想像以上だった。二十年追っかけをしていたアイドルが、十五年下のグラビアアイドルとでき婚をした場合、どれくらいの落ち込み方が適切なのかはわからない。
推しの結婚というより、「十五年下のグラビアアイドル」に引っかかってる感じです。
同居人は言います。
なんでこいつを選んだんだろう。どうしてわたしはこいつをポジティブに捉えられないんだろう
主人公も、
グラビアアイドルが嫌な気持ちはわかるよ、強烈に
と言います。
グラビアアイドルの、何が嫌なのでしょうか。
同居人は言います。
結婚相手が、三十八歳くらいの、すごい美人って訳でもないけど雰囲気のある実力派女優または歌手だったら、一番嫌じゃないかも
(中略)実力は伴っていてほしい。確かに、彼女なら力もあるし認めざるを得ないなって思いたい
推しの実力に対して、グラビアアイドルは実力が伴ってないわけです。
主人公や同居人の考えるグラビアアイドルは、
- 実力(演技や歌唱力やダンス)が伴ってない
- 容姿だけ
で、結婚相手として認められないのでしょう。
昔、テレビで有吉弘行さんが、グラビアアイドルについて、一瞬で消える儚い存在だから温かく見守ろう的なことを言っていたのを、思い出しました。
主人公と同居人は、熱海へ一泊二日の傷心旅行へ行きます。
ビーチでアイスクリームを食べ、旅館で温泉に入ります。
大浴場で見る女の裸は、不思議とビーチで晒されていた肌よりも生々しくなかった。年齢層が高いからかもしれない。
ビーチで見る水着姿の女性から、グラビアアイドルを連想したのかもしれません。
選評を読むと、「暗い」という言葉が目立ちました。
奥泉光さんは、
男性を好きになれない女性の、結婚出産を断念するまでの物語はあまりにも暗く、比喩的ないい方になるが、暗さに艶がないと思った
金原ひとみさんは、
そこはかとなく暗い雰囲気が漂い
川上未映子さんは、
のっけから体力のないこの作品のムードには、新鮮な暗さがあった。
「暗い」を使っていない選考委員は、「不穏」を使っています。
岸本佐知子さんは、
細部が地味に不穏で、次第にじわじわ効いてくる。
堀江敏幸さんは、
不穏な虚を抱えたパワーバランスを評価したい。
私は、「暗い」とも「不穏」とも感じませんでした。
社会人になってから、ルームシェアするほどの友人ができたことに、うらやましく思いました。
確かに、将来は暗く、不穏かもしれませんが、作品を包み込む暗さは感じませんでした。
岸本さんの、
会社のおじさんのポロシャツのワンポイントが和歌山県のシルエットだったくだりが好きで、こういう謎に魅力的なエピソードをもっとたくさん読んでみたかった。
これには同意で、作品にユーモアがありました。
気になったのは、主人公は、カフェで会社の知り合い(その後同居人になる)を見かけたとき、自分から話しかけるような人ではなさそうなのに、自ら話しかけている点です。
声を掛けた後に、共通の推しの男性アイドルグループの写真を見るのですが、これが逆ならわかります。
つまり、知り合いのスマホに、推しの男性アイドルグループの写真が見えたから、主人公が勇気を出して声を掛けた、ならわかります。
会社の知り合いを見かけただけでは、主人公は声を掛けないような気がします。
最後に気になる点を挙げましたが、読んでて面白い作品でした。
次作も読みたいです。