自分の顔を叩くことを希望する女性
タイトルにある「AU」は、マッチングアプリの名前です。
主人公は、クリニックで働く医師です。
二重手術の件数において、私はグループでトップクラスだし、患者満足度も高い。
主人公は、院長の座を狙ってます。
クリニックの休みは元旦のみです。
出世欲が強く、激務な環境にいる主人公が、マッチングアプリをやってる理由は置いといて、
なぜ、マッチングアプリの名前が「AU」なのか、気になりました。
「AU」に登録するには、厳しい審査があるようです。
- 履歴書にあるような無加工の写真
- 体型がわかる全身の写真
の提出が必要です。
厳しい審査なら、年収の審査もあるでしょう。
「AU」には、「金」の意味があります。
登録できる男性は、高所得者だけかもしれません。
主人公が出会った人に、自分の顔を叩くことを希望する女性がいました。
主人公は遠慮して、強く叩けません。
女性は言います。
いつか躊躇なく叩けるようになるよ。みんなそうだったから。そしていつしか叩かせてくれる人じゃないと満足できないようになる
その後、主人公は相手の顔を叩けるようになりました。
左右まんべんなく叩き、相手の顔に変形がないか、チェックしています。
こうしたチェックをしてることから、自分は相手をパートナーとして適切だと考えます。
普通だったら、叩いたら叩きっぱなしだろう
主人公は、この女性にだけ、自分の仕事のことを少しだけ話します。
全部ではなく少しだけ。
少しだけだとしても、今まで自分の仕事のことを話してなかった主人公にとっては、大きな一歩です。
叩かせてくれる人じゃないと満足しなかったわけではないでしょう。
叩いた結果、相手の顔に変形がないかチェックしたことで、相手の重要性に気付いたようです。
でも、本当にそうなのかとも思います。
- 整形外科クリニックで働いてるから、顔の怪我に目がいったのではないか
- 顔を整える仕事をしてる主人公にとって、顔を醜く変形させることに抵抗があったのではないか
また、作中冒頭にある挿絵がわかりません。
人間(男性にも女性にも見える)と龍(ポケモンのカイリューみたいな動物)が、抱き合ってるように見えます。
腰を掴んでるので、相撲を取ってるようにも見えます。
抱擁なのか取組なのか。
これは一体なんだろう。
本作は、『文藝2024夏号』の特集「世界はマッチングで回っている」に掲載された短篇です。
人間と龍の邂逅。
マッチングアプリで出会う存在は、龍のように珍しいという暗喩でしょうか。
自分の顔を本気で叩くことを希望する女性なんて、身近にはいません。
描かれてる人間は、男性にも女性にも見えます。
- 人間:男性でも女性でも、マッチングアプリをやってる自分視点
- 龍:マッチングした相手の見え方
謎の多い作品でした。
遠野遥さんの作品は、わからない部分があります。
ただ、意味がわからなくても、最後まで読んでしまう魅力があります。
主人公の高校時代の部活がラグビーだと聞いて、『破局』の主人公を思い出すくらいには、遠野さんの作品を読んでます。
マッチングアプリで出会った女性が、長々と最新のM-1の解説をしてるシーンは、何なんだろうと思っちゃいます。
たぶん次回作も読むと思います。