結合双生児の双子姉妹
主人公は、結合双生児で、双子の姉妹です。
私たちは、全てがくっついていた。顔面も、違う半顔が真っ二つになって少しずれてくっついている。結合双生児といっても、頭も胸も腹もすべてがくっついて生まれたから、はたから見れば一人に見える。(中略)特異な顔貌をした「障がい者」だとみられる。
体は一つに見えても、二人です。
戸籍の登録もそれぞれあります。
名前は、杏と瞬。
歪んだ顔面たちかわりに入れ替わる二つの声色、時に別々に動く左右の目
二人の意識も、それぞれあります。
意識自体は繋がっていなくても、一つの体で思考も感情も感覚も共有し、それらが意識と意識の間に介在していた。
主人公は、看護師として老健施設で働きました。
しかし、患者の家族から、たびたび投書がありました。
障がい者に注射や採血など専門的な看護をさせるな
自ら仕事を辞めた主人公は、工場の作業員として働いてます。
主人公は、陰陽図(白と黒の勾玉を組み合わせたような図)を見たとき、それが黒と白のサンショウウオに見えました。
主人公は、サンショウウオを自分に当てはめます。
私が黒サンショウウオで瞬が白サンショウウオ。くるくる回れば一つになる、二人で一つの陰陽魚。
一方、二人を隔ててるものの薄さに、恐ろしさを感じてます。
喉風邪で瞬がダウンしている時や入眠の時差で一人起きている時に、白黒サンショウウオはいつもお互いを食べようと回りはじめるのだ。一人でありたい。
主人公が、他の結合双生児に救いを求めても、望んだ答えは返ってきません。
主人公と違って、他の結合双生児は、身体のどこかは分かれてました。
自分だけの頭か、自分だけの胸、あるいは自分だけの腹をもっている。
主人公の体は分かれてません。
思考も感情も感覚も、共有してます。
とはいえ、一つの体だから独立してる、とも言いがたいです。
みんなくっついて、みんなこんがらがってる。(中略)いろんなものを共有しあっていて、独占できるものなどひとつもない。他の人たちと違うのは、私と瞬はあまりに直接的、という点だけだった。
「あまりにも直接的」な点が大きいですが、自分たちの境遇がかわいそうだと、陥らないのが良いです。
特異な顔貌をした障がい者の末路的な話ではありません。
みんなもくっついてて、共有してるという考え方の転換が、読者の私にも響きます。
もちろん、一つの体や思考を共有する結合双生児とは別次元ですが。
冒頭を読んだときは、作者の書き方に違和感を抱きました。
一人称の私で書かれてるのに、妹の感情が書かれたからです。
「二階行こう」
寒さに押し黙っていた妹の瞬が口を開いた。
妹の感情(寒さに押し黙っていた)は、一人称の私視点ではわかりません。
「寒さに押し黙っていたのか、妹の瞬が口を開いた」なら、わかります。
私視点では、妹の感情を察することしかできないからです。
しかし、思考や感情や感覚を共有する人間同士なら、可能です。
感情を共有する結合双生児の双子ゆえに、妹が「寒さに押し黙ってた」ことがわかります。
一つの体、二つの意識を持つ結合双生児を、書き分けられてます。
お互いを食べようと回りはじめるサンショウウオ。
- 黒サンショウウオ(左半身):姉
- 白サンショウウオ(右半身):妹
主人公は、右の扁桃腺をよく腫らしてました。
右ばかりが腫れて痛がるので、妹のせいになってました。
それが、叔父が死んで四十九日、ぐるりと循環したのか、両側の扁桃腺とも腫れるのが良かったです。
感想②はこちらです。