いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『泡の子』樋口六華(著)の感想【トー横キッズの末路】(すばる文学賞受賞)

トー横キッズの末路

読み方は、泡(あぶく)の子(こ)です

主人公は、トー横(新宿東宝ビルの横)を生活の拠点としてます

主人公が17歳のとき、トー横で同い年の友達ができました。

知り合いに、トー横を見下ろせる部屋に住んでる青年がいます。

青年は、美大を目指す浪人生です。

主人公と友達は女性です。

ニュースで上げられてる私たちは歌舞伎町の新宿東宝ビルの隣に屯してる若い非行集団で、平気で地面に仰向けで寝そべったり、未成年でも煙草や酒をやったり、おっさんに体売ってたりして殆どの人が眉を顰める対象

「ニュースで上げられてる私たち」とありますが、この作品の登場人物たちも同じです。

  • 平気で地面に寝そべる
  • 未成年でも煙草や酒をやる
  • おっさんに体売る

作中に当てはまります。

「トー横」という具体的な場所を舞台にした作品で、ニュースを取り上げて説明するなら、読んだ後に、トー横やそこでたむろする集団に対するイメージを変えて欲しかったです(贅沢な要望ですが)。

トー横や、そこにたむろする集団に対して、眉をひそめる対象に変わりません。

トー横を見下ろせる部屋に住む青年は言います。

トー横あって良かったよなフラフラの俺でも匿ってくれたし俺多分あそこなかったら頼る人もいないし、どっかで餓死してるか、勇気あったら首括ってたよ、多分

青年は、高校のとき、同級生をレイプしようとして停学になり、そのまま自主退学しました。

退学後、青年は7年間、トー横に住んでます。

このエピソードを、詳しく知りたかったです。

  • 「フラフラの俺」を「匿ってくれた」のはどういう経緯だったのか
  • どうやって、7年間食いつないできたのか
  • どうして、美大を目指すことになったのか

一人の青年の窮地を救ったとして、トー横に対するイメージが変わったと思います(著者はトー横のイメージを変えたいわけではないと思いますが、私は青年がどう生き残ったか気になりました)。

死にたくなる過去を持った青年を生かしたトー横。

一方、主人公の友達は、希死念慮があります。

友達は17歳で妊娠しますが、赤ちゃんは産まれることなく死にます。

全部無かったことにしない死んだ後も何にも残らずに、みんなから忘れられて、誰からも知られずに死にたい

友達の願いは、全部なかったことにすることでした。

何も残らず、何も残さず、誰からも知られずに死ぬこと。

主人公はまだ死にたくないと思ってましたが、友達に付き合います。

友達は死に、主人公は生き残ります。

主人公は、本当に自死に付き合いたかったのか、疑問です。

目覚めた主人公は、「飲んだ錠剤が足らなかったことに気づいた」そうですが、意図的に不足させたのではないかと思いました。

そんな突発的に死ねるだろうか、疑問でした。

主人公はどうしてトー横に片足突っ込んだのか(両足突っ込むほどは入れ込んでません)、理解できませんでした。

立ちんぼには店では働けない未成年が多くて、大抵がホストやメン地下の借金返済のために春を鬻いでいる彼女たちと違うのは、私は別にホストにもメン地下にも狂ってない、ただの小遣い稼ぎのアルバイトってこと

よほど金に困ってるわけでもないのに、小遣い稼ぎで体を売る主人公は、中途半端です。

親と不仲というわけでもなく、学校に馴染めたかったという理由でトー横に通い、体を売ります。

友達や青年に比べ、主人公はまとも(中途半端)です。

まともゆえに、トー横にいるのが似合わないし、友人の自死に付き合ったり幇助したりするだろうかと、私は疑問でした。

友達が自殺をするなら、止めるか、一緒にどこか遠くへ行くか、する気がしました。

友達は死んでしまいます。

主人公は、友達が体を売ってたときの動画を、ネットで見つけます。

みんなに忘れられて死にたいと願った彼女をもうすでに誰かが保存して、無抵抗に拡散されてる死んでるのに、生かされてるホルマリンの中の泡みたいに

友達は、体を売った動画をネット上に残されました。自分の姿を残してしまいました。

主人公は、どうにかして動画を削除してほしいと願いますが、無理だとわかってました。

削除のためなら、

一人一人に頭を下げても、金払ってでも、フェラしてでも、本番してでも、殺してでもいいから

と言います。他人のために本当にそこまでするだろうか。嘘っぽく感じます。

全ての動画を削除できないからこその言い分に聞こえました。

万が一削除できるとしても、人殺しはしなさそうな気がしました。

そう思うのは、主人公が、片足だけを突っ込んだ中途半端な立ち位置にいるように感じたからです。