外れ値の友だち
主人公は27歳の男性です。
うつ状態を理由に、勤め先の広告代理店を休職します。
主人公が自宅で配達を頼むと、幼稚園の同級生という男性が、配達員として来ました。
主人公は、その同級生を覚えてませんでした。
その後、同級生は再びやってきました。
主人公は配達を頼んでませんでしたが、自宅に入れます。
同級生の持ってきたカレーを食べ、二人は意気投合します。
幼稚園の同級生とはいえ、学生時代の友達でも、バイト先の友達でもありません。
突然現れた外れ値の友だちだった
同級生に誘われ、主人公はクラブに行きます。
同級生はぎこちない奇妙なダンスをしています。
主人公が聞くと、
ダンスはへんなほうがいいんだよ
と言います。
ダンスはいちばん自由に踊るのが、いちばん気持ちいいんだよ。それがいちばんかっこいいんだ
同級生に誘われて主人公も踊ります。変なダンスでした。
何も考えずに踊ればいいのだ。素晴らしい意味や僕だけの使命なんて最初からない。(中略)電車で隣に座る人を選べないように、仕事で関わる相手だって選べない。どうにかやっていくしかないのだ。
変なダンスをした主人公は、仕事に復帰することにします。
同級生に、休職してたことを初めて明かしました。
復帰した主人公は、同期の女性から、復帰祝いと称して飲み会に誘われます。
その場に、かつて主人公の指導員だった先輩の男性もいました。
先輩は、同期を優秀と言います。
主人公は休職した理由を思い出します。
お互いを値踏みし合うこの感じ。自分が評価されたりされなかったりすることに、どんどん削がれていく感じ。同期が褒められるとじりじりして、誰かの不評を聞くと安心する。こういうのに疲れて、離れたくて、休職したのだ。
誰が優秀で誰が優秀でないかと言い合うのは、私の職場にもあります。
どこの職場でも、人への評価やそれを言い合う文化はあるのでしょう。
知り合いが優秀と言われてるより、不評を聞いた方が安心するのも、わかります。
ただ、それが嫌で休職するのは、余程のことだと思いますが。
誰が優秀で誰が優秀じゃないとか、そんなのばっかりだ。お前らにジャッジされてたまるかよ、と思う一方で、会社員である以上なにかしらの働きをして価値を示さなければいけないことはよくわかる。よくわかっているから、人の評価などどうでもいいと割り切れないのだ。
先輩後輩関係なく、評価がつきまとうのは仕方ないと、割り切るしかないのでしょう。
評価されてもされなくても、深刻に受け止めないことが、会社員を続ける上で重要な気がしました。
飲み会の帰り、主人公は、幼稚園の同級生から連絡を受けます。
同期の女性と一緒に、同級生と合流します。
同期の女性は広告代理店勤務、同級生はフリーターでしたが、話は弾みます。
主人公は、同期と同級生のコミュニケーション力に感嘆します。
復帰した主人公は、自分の企画した仕事で、自信を持ち始めます。
しばらく経って、同級生から映画に誘われます。
同級生は主人公に、伝えなきゃいけないことがあると言います。
俺、ほんとにちゃんとしてない人間だよっていうのを言いたくて
同級生は、「女の子に声かけて、風俗とかAVの仕事紹介する」スカウトをしてました。
それを、「クソみたいな仕事」と同級生は言います。
主人公と一緒にいると、ヒリヒリするようです。
くだらないこと話してると楽しいけどさ、ふとした瞬間、死にたくなる。そんなんだったら友だち別れた方がいいなって、すげえ一方的にだけどね、思っちゃったんだよね
恋人でもパートナーでもない同級生から、主人公は、円満な別れを告げられます。
友達から突然切り出される別れに、私は驚きつつも、理解できませんでした。
同級生が「クソみたいな仕事」を辞める宣言をするなら、わかります。
別の仕事に就くまでは会うのをやめようでも、わかります。
ですが、同級生の言う絶交は、理解できませんでした。
主人公が、絶交を仕方なく受け入れるのはわかります。
ただ、仕事に復帰した主人公は、同級生と遊ぶステージにはもういないのでしょう。
休職中だったから、幼稚園の同級生を名乗る人を家に入れましたが、復帰後の主人公なら、家に入れないと思いました。
同級生は、「思い出って、絶対自分の敵にならないと思うんだよね」と言います。
綺麗で、ドキッとするセリフでした。
でも、思い出が敵にならないのは本当だろうかと、思いました。
友達から急に一方的に別れを告げられた思い出は、嫌な気分にならないだろうか。
なんであのとき抵抗しなかったのかと、過去の自分を責めないだろうか。
奥泉光さんが選評で、
物分かりが大変によく、世界との軋轢をあくまで避けて生きようとする人物たち
と書いてます。
物分かりがよい別れです。
葛藤や軋轢を感じない作品を、あえて読む必要があるのかとは思いました。
学校や職場で知り合ったわけでない「外れ値の友だち」が、続く可能性はなかったのかと、考えてしまいます。
それでも面白く読んだのは確かです。