作家になる方法
小川哲さんと町屋良平さんの対談が面白かったので、こちらも手に取りました。
町屋さんとの対談の感想はこちらです。
高瀬さんとの対談も、「これから作家を目指すひとへ」というタイトルでも合うと思いました。
高瀬さんは小説の登場人物を書くとき、その人物になりきって書くことが多いと言います。
小川さんは少し違うようです。
その人物のプロフィールや情報から、こういうことを考えるだろうとか、こういう行動をするだろうというのを書いていって、書いたことによって更にフィードバックされて、その人物のキャラクターになっていく……というのを無限に繰り返している感じです。
プロフィールや情報からプログラミングされた一つの人格が、作家自身とは別に走ってる感じと言います。
小説家を目指した動機について。
高瀬さんは、
想像するのは自分の本が書店さんの「た」行の棚に並んでいる様子です。
自分の本が書店に並んでるのを夢見てたようです。
一方、小川さんは、
そもそも専業作家になりたかったんです。だから、僕の本が書店に並ぶとかっていうのは通過点というか、どうやったら小説家という仕事だけで生きていけて、ほかのことをしなくて済むかが大事だった。
私には、小川さんの小説家になりたい動機が刺さりました。
- 小説家という仕事だけで生きていけて
- ほかのことをしなくて済むか
小説家って本当に夢のような職業だなと。目覚ましかけなくていいし、他人にあれこれ命令されなくてもいいし、小説書くのも好きだし、読むのも好きだし、それをするとお金がもらえる。だから、それを職業にしたいと思ったんですよね。
小川さんは、大学院の博士課程のときには研究者になろうと思ってたそうです。
しかし研究者として生きるのは、なかなかサラリーマン的だと気づいて、小説家を目指したようです。
作家として生きていくと決めた小川さんは、エンタメでのデビューを目指します。
純文学の本もよく読んでたようですが、純文学の新人賞でデビューしても、本を出してない人が多いことに気づきます。
本を出せる確率が一番高い賞は何か、かつ自分が書ける小説は何かという観点から考えた結果、ハヤカワSFコンテストに応募しました。
ハヤカワSFコンテストでは、応募が300~400通で、最終候補になったら本が出てたそうです。
一方純文学の新人賞だと、1000~2000通くらいの応募で、受賞しても本にならない可能性があります。
純文学作品が掲載される主要な文芸誌って五つしかなくて、そこに新人が載せられる機会なんて限られている。その椅子取りゲームに何回も勝たなきゃ本にならない、つまりは作家としてやっていけないという、すごく熾烈な世界だなっていうのが分かったんで、やめた。
純文学の新人賞を受賞して、次作の出てない作家がどれほどいるかを考えると、受賞しただけでは、生き残れないのでしょう。
小川さんは、純文学のフィールドではなく、エンタメで戦うと決めます。
結局、芥川賞を獲ったあと、みんな長篇を書くじゃないですか。正確にはみんなじゃないけど、生き残っているほとんどの人は長篇を書いているんですよ。(中略)エンタメとか純文学とかって区別のない作品を書いている方々です。
(中略)「じゃあ、最初からエンタメ書いたほうが早くない?」と思って、エンタメからスタートしたんです。
最初から長篇書いて出版を狙った方が、作家として生き残れそうですね。
純文学とエンタメのデビューから、作家の生き残り方をまとめてみます。
純文学は、
- 1000~2000の応募数で新人賞受賞(本が出るかはわからない)
- 雑誌に200枚程度の中編を書く(本が出るかはわからない)
- 芥川賞を獲る
- エンタメや純文学の区別のない長篇を書く
エンタメは、
- 300~400の応募数で新人賞受賞(運が良ければ最終候補でも本が出る)
- 長篇を書く(本になる)
芥川賞に特段のこだわりがなければ、最初からエンタメの賞を狙うのはありだと思いました。
小川さんが専業作家になったのは、『ゲームの王国』で山本周五郎賞を受賞した後ぐらいだと言います。
受賞により、連載原稿の依頼が何本かあったので、専業になったそうです。
小川さんの作家の生存戦略が面白かったです。