いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『舟を編む』三浦しをん(著)の感想②【松本先生について】(本屋大賞受賞)

松本先生について

感想①はこちらです。

松本先生は、主人公(馬締)の出版社が新たに刊行する辞書の「監修者」です

松本先生は、主人公が辞書編集部に異動する前から、荒木という編集者と、辞書を作ってきました。

荒木は、定年後は嘱託職員として、辞書編集に携わります。

  • 松本先生→荒木→主人公(馬締)

という師弟関係だと言えます。

私が気になったのは、松本先生の呼び方です。

松本先生は、

荒木君、まじめさん

と言います。

  • 荒木:君付け
  • 主人公(まじめ):さん付け

どうしてなんだろうと思いました。

なぜ、主人公の呼び方が、「まじめくん」ではなく「まじめさん」なのか。

荒木は主人公のことを君付けで呼びますが、松本先生はさん付けです。

君呼びに、距離の近さを感じました。

松本先生は荒木と30年以上辞書を作ってきました。

それゆえ、師弟関係の絆が強固だと言えます。

「荒木君」「松本先生」と、言い合ってきたのかもしれません。

一方、松本先生と主人公(馬締)は、荒木ほどの強固な絆はないのかもしれません。

絆はあっても、師弟関係や戦友という間柄ではない気がします。

松本先生が、一歩引いた感じで、主人公にアドバイスを与えてる印象を受けました。

先生と二人三脚というより、辞書編集の作業のメインは、主人公(馬締)だと思えました。

松本先生は、これからの辞書編集部を引っ張る存在として、主人公を立てていたのかもしれません。

「君付け」だと、

  • 君付けしてる側が上
  • 君付けされてる側が下

と、上下関係があるように聞こえます。

辞書編集部に他の職員やアルバイトがいる手前、主任である主人公を立てるために、「さん付け」していたのかもしれません。

松本先生は一歩引きながらも、主人公の師の側面もあります。

例えば、主人公の後輩が、電話対応で誤った回答をしており、主人公が正しい答えを伝えようとしたときのこと。

松本先生は、主人公を止め、

辞書編集部員が一緒に答えを考えてくれれば、満足なさるのですまじめさんが電話を代わって、べつの答えを言ったら、混乱されるでしょう

誤った回答でも、さほど影響がなければ、そのままにしておく対応。

私も勉強になりました。

確かに、別の答えを言われて混乱させるより、影響が微々たるものならそのままにしておくのもありだと思いました。

一歩引いて主人公を見てる松本先生が、主人公のことをさん付けするのは、違和感はありません。

ただ、荒木には君付けなのに自分にはさん付けとはどういうことかと、主人公がどう考えてたかは、気になりました。

主人公は松本先生に、自分のことも君付けで呼んでくれませんかと、言ったでしょうか。たぶん言ってないでしょう。仮にあったとしても、疑問を呈したくらいか。

荒木の最後の発言が気になってしまいます。

まじめ君明日から早速、『大渡海』の改訂作業をはじめるぞ

と主人公に言いますが、荒木は定年過ぎた嘱託職員です。すでに70歳を超えてるはずです。もう直属の上司でもありません。

主人公に対して、少し偉そうではありませんかね。