いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

2020-01-01から1年間の記事一覧

『ふたりでちょうど200%』町屋良平(著)の感想【やさしい言葉でむずかしい内容】

やさしい言葉でむずかしい内容 『ふたりでちょうど200%』はパラレルワールドっぽい短編集です。 収録作品は、 『カタストロフ』 『このパーティ気質がとうとい』 『ホモソーシャル・クラッカーを鳴らせよ』 『死亡のメソッド』 で、『ふたりでちょうど200%』…

『10倍売る人の文章術』の感想【一文目を読んでもらうために】

一文目を読んでもらうために 文章を読むのは苦痛です。 私は小説を読むのは好きですが、基本的に文章を読むのは好きではありません。 例えば、新聞、雑誌、ビジネス書。それらを読むのは、情報を得るためです。 情報を得る手段について、文章を読むより、人…

『「山奥ニート」やってます。』石井あらた(著)の感想【働かないで生きる選択肢】

働かないで生きる選択肢 著者の石井さんは、和歌山の限界集落でニートをしています。 住んでいる場所は、最寄り駅から車で2時間かかる山奥の、廃校になった小学校の校舎です。 そこに、10代から40代の男女15人が住んでいます。 石井さんは、 浪人、留年、中…

『水と礫』藤原無雨(著)の感想【小説の外に広がる世界】(文藝賞受賞、三島賞候補)

小説の外に広がる世界 磯﨑憲一郎さんは選評で、 小説とは、作者の思想信条や問題意識を披露する場ではないし、溜め込んだ苦悩を吐露するための媒体でもない、具体性を積み上げることで自らの外側に広がる世界を照らし出し、作品という形で現前させる言語芸…

『約束のネバーランド』20巻(漫画最終巻)の感想【『わたしを離さないで』と似てるか】

『わたしを離さないで』と似てるか この作品を読み始めたとき、カズオ・イシグロさんの『わたしを離さないで』に似てると思ってしまいました。 作品を、別の作品と比較するのは好きではありませんが、 「寿命が決まっている少年少女」 という設定が強烈だっ…

『首里の馬』高山羽根子(著)の感想【にくじゃが まよう からしの答え】(芥川賞受賞、三島賞候補)

選評を読んで 吉田修一さんは芥川賞の選評で、 高山さんはおそらく「孤独な場所」というものが一体どんな場所なのか、その正体を、手を替え品を替え、執拗に真剣に、暴こうとする作家 と書いています。 確かに、『首里の馬』の登場人物はみな孤独な場所にい…

【芥川賞予想】第164回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2020年下半期)

第164回芥川賞候補作発表 2020年12月18日、芥川賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、2021年1月20日(水)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめ、受賞予想をいたします。 宇佐見りん『推し、燃ゆ』(文藝秋季号) 初の候補入りです。 前作『かか…

『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』神田桂一,菊池良(著)の感想【良い意味でジャンク】

良い意味でジャンク カップ焼きそばを作る様子が、文豪たちの作風で、描かれます。 村上春樹風の「はじめに」から始まり、 レイモンド・チャンドラー JK・ローリング 川端康成 相田みつを 西野亮廣 など、幅広いジャンルの方の作風を真似て、「カップ焼きそ…

『零落』浅野いにお(著)の感想【売れることが一番重要か】

売れることが一番重要か 主人公は、30代中盤の漫画家です。 連載が終わっても、次の漫画を描けない漫画家です。 著者の浅野さんと似た境遇なので、主人公が浅野さんと重なって見えます。 例えば、主人公の発言、 狭量で懐古主義な漫画ファンたちが漫画業界の…

『短篇小説講義 増補版』筒井康隆(著)の感想【短編小説の書き方】

短編小説の書き方 小説を書くには、「とにかく読み」「とにかく書く」ことが重要と聞いたことがあります。 著者の筒井さんは、 小説は、何を、どのように書いてもよい自由な文学形式である と言います。 だからこそ、本書を読んで、「とにかく読み」「とにか…

『おやすみプンプン』浅野いにお(著)の感想【魔力的なヒロインの恐ろしさ】

魔力的なヒロインの恐ろしさ 読後感は良くありません。 かといって、読まなければ良かったとは思っていません。 なぜ、読後感が良くないかというと、 ヒロイン(以下、田中愛子)に、最後まで嫌悪感があったこと 田中愛子を忘れられない主人公(以下、プンプ…

『鬼滅の刃』23巻(漫画最終巻) の感想【自分だけの幸せを見つける】

自分だけの幸せを見つける 最終巻を読んだ直後は、主人公たちの戦いが終わった後の、現代の話は不要に感じました。 確かに、戦いで生き残った者、死んだ者のその後を描くことで、昔と今の繋がりを意識することはできます。 ですが私は、昔と今の繋がりなど、…

『文は一行目から書かなくていい』藤原智美(著)の感想【書けないときの対処法】

書けないときの対処法 著者の藤原さんは、「文は一行目から書かなくていい」と言います。 なぜでしょう。 理由は2つあるようです。まず思考の整理について。 人間の思考というのは断片的です。もちろんそれを文章にして伝えるためには一定の秩序を与えること…

映画「名探偵ピカチュウ」の感想【ポケモン愛に溢れたエンドロール】

ポケモン愛に溢れたエンドロール 子どもの頃から慣れ親しんだ「ポケモン」の実写化です。 映画の予告でピカチュウが人間の言葉を話していて、観ることはないと思っていました。 アニメ「ポケットモンスター」で、ピカチュウは人間の言葉を話しません。 です…

『漫画家入門』浅野いにお(著)の感想【漫画家の厳しい現実】

漫画家の厳しい現実 漫画家になるためのノウハウ本ではありません。 「浅野いにお」という漫画家の日常を記した、エッセイです。 では、なぜタイトルが『漫画家入門』なのでしょうか。 「入門」というと、漫画家になるための第一歩というイメージです。 むし…

『あやうく一生懸命生きるところだった』ハ・ワン(著)の感想【勝ち負けにこだわらない生き方】

勝ち負けにこだわらない生き方 著者のワンさんは、イラストレーターと会社員のダブルワークをしていました。 ですが、40歳になる直前、会社を辞めました。 え、40歳で? って感じです。 ワンさんは、独身で一人暮らし。家は賃貸で、車は持っていないそうです…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』村上春樹(著)の感想【トラウマは掘り返さなくていい】

トラウマは掘り返さなくていい 主人公(多崎つくる)は、高校時代の親友4人(男2人、女2人)に、絶縁されます。 大学2年生のときでした。 理由を明かされず、親友たちから連絡を閉ざされます。 その結果、主人公は、死ぬことばかりを考え、死の淵をさまよい…

『破局』遠野遥(著)の感想【選評を読んで】(芥川賞受賞)

選評を読んで 受賞前の芥川賞の予想では、二度読みましたが、受賞はないと予想しました。 そのときの感想はこちらです。 歪な文章は、読んでいて不安になるし、 馬鹿げたような思想の垂れ流しがおかしかったからです。 例えば主人公の、 私はもともと、セッ…

『改良』遠野遥(著)の感想【読ませる文章】(文藝賞受賞)

読ませる文章 一気に最後まで読ませる文章です。 断片的に描かれる語りは乾いていて、 その断片が、のちに結びつくさまに、面白みを感じます。 例えば、小学生のときに通っていたスイミングスクールについて、 私は喘息持ちで、水泳をやらせると心肺機能が鍛…

『絶歌』元少年A(著)の感想②【元少年Aの「人を殺してはいけない理由」】

元少年Aの「人を殺してはいけない理由」 感想①はこちらです。 ――どうして人を殺してはいけないのか? もし元少年Aが、10代の少年に問われたら、以下のように答えると言います。 「どうしていけないのかは、わかりません。でも絶対に、絶対にしないでください…

劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編の感想【幸せな夢と残酷な現実】

幸せな夢と残酷な現実 映画はアニメの続編なので、先にアニメを見ました。感想はこちらです。 アニメは、1話から5話が好きでした。 弱い主人公が、もがき苦しみ、決して諦めず、努力の末に認められる姿に感動しました。 残念ながら、アニメの6話以降は、5話…

アニメ「鬼滅の刃」 の感想【主人公に同化する】

主人公に同化する 新参も新参です。 ジャンプ連載中にマンガを読んでいたわけでもなく、 放送中にアニメを見ていたわけでもありません。 映画の興行収入がニュースになるようになってから、そんなに話題なら映画を観ようと思いました。 しかし、映画はアニメ…

『オブジェクタム』高山羽根子(著)の感想【中学校別、スカートの長さ比較】

中学校別、スカートの長さ比較 『首里の馬』で高山さんが芥川賞を受賞した際、『オブジェクタム』で受賞すべきだったという人の声を、ちらほら聞きました。 それで、読んでみました。 結論から言うと、 『首里の馬』より良い作品だとは思いませんでした。 『…

『僕の人生には事件が起きない』岩井勇気(著)の感想【日常を楽しめる角度】

日常を楽しめる角度 ハライチ岩井さんの初の著書(エッセイ)です。 日常で起きる些細な出来事を、独自の視点で描きます。 起こる出来事は、本書のタイトルどおり、「事件」とは言えないものばかりです。 例えば、 久々の同窓会で、マウントを取ってくる同級…

『絶歌』元少年A(著)の感想①【心は揺さぶられた】

心は揺さぶられた 1997年、酒鬼薔薇聖斗と名乗る人物は、少女1人と少年1人を殺害しました。 犯人は、14歳の少年でした。その少年(元少年A)の手記です。 書かれているのは、 少年Aの生い立ち 犯行に至るまで(ナメクジ切断、猫殺しなど) 犯行(少年少女の…

『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』乗代雄介(著)の感想【感服しました】

感服しました 乗代さんの何がすごいって、 高校時代、模試でわざと間違った答えを書き、点数を下げていた 大学時代、教授から長文メール(あなたの文章に惚れ込んでいますという内容)をもらった ことです。そんな人がいるのかと、唖然としました。 1につい…

目標を持たないこと、何もしない言い訳

目標を持たない ある試験勉強をきっかけに、 本を読むこと ブログを書くこと を辞めていました。 読書やブログを書くことは、時間がかかるからです。 ですが、 試験勉強が終わってからも、以前のように、 本を読んだり ブログを書いたり できませんでした。 …

【野間文芸新人賞予想】第42回候補作発表(2020年)

野間文芸新人賞候補作発表 2020年10月1日、野間文芸新人賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、2020年11月2日(月)です。 以下、候補作をまとめます。 『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』李龍徳 第38回の候補『報われない人間は永遠に報われな…

『星の子』今村夏子(著)の感想【いじめられない理由】(野間文芸新人賞受賞、芥川賞候補)

いじめられない理由 主人公は、中学3年生の女子です。 両親は、ある宗教を信仰しています。 きっかけは、主人公が幼い頃にできた湿疹でした。 両親がどんな手を尽くしても、湿疹は良くなりません。 損害保険会社で働く父親が、何気なく同僚に口にしたところ…

『猫を棄てる』村上春樹(著)の感想②【父親の期待に背くこと】

父親の期待に背くこと 感想①はこちらです。 村上さんの父親は、戦場で生き残りました。 戦争から戻った父親は、京都帝国大学で文学を学びます。 村上さんの母は、 あなたのお父さんは頭の良い人やから と、よく言ったそうです。 父親に比べ、村上さんは、 学…