いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『猫を棄てる』村上春樹(著)の感想②【父親の期待に背くこと】

父親の期待に背くこと

感想①はこちらです。

村上さんの父親は、戦場で生き残りました。

戦争から戻った父親は、京都帝国大学で文学を学びます。

村上さんの母は、

あなたのお父さんは頭の良い人やから

と、よく言ったそうです。

父親に比べ、村上さんは、

学問というものに対する興味がもともとあまりなく、学校の成績は終始一貫してあまりぱっとしないものだった

と言います。とはいえ、早稲田大学に入学していますから、学年のトップ層と比べてぱっとしないだけで、落ちぶれているわけではないでしょう。

村上さんの成績に、父親は、

平和な時代に生まれて、何にも邪魔されず、好きなだけ勉強できるというのに、どうしてもっと熱心に勉学に励まないのか

という思いがあっただろうと、村上さんは推測します。

勉強をしたくてもできない環境にいた父親からすれば、当然の価値観でしょう。

ですが、村上さんは父親の期待に応えることができませんでした。

僕は今でも、この今に至っても、自分が父をずっと落胆させてきた、その期待を裏切ってきた、という気持ちを――あるいはその残滓のようなものを――抱き続けている

だからといって、父親の期待どおりに勉強に励んでいれば良かったと、後悔するわけではありません

必死に勉強することよりも、

  • 好きな本を読み
  • 好きな音楽を聴き
  • 外で運動をし
  • 友達と麻雀をし
  • ガールフレンドとデートをしてきたことを

村上さんは肯定します

僕らはみんな、それぞれの世代の空気を吸い込み、その固有の重力を背負って生きていくしかないのだろう。そして枠組みの傾向の中で成長していくしかないのだろう。

それに、

  1. 一般的に親が子どもに言う「勉強しなさい」と、
  2. 村上さんの父親が村上さんに思う「勉学に励まないのか」は、

違うものだと思います。

  1. 勉強しなさい」:勉強しなかった親の後悔を、子どもに晴らしてほしい
  2. 勉学に励まないのか」:勉強できなかった環境の父親が、勉強できる環境にいる村上さんに期待する

村上さんは、勉学に励まなかったことを後悔していません。むしろ、正しい選択だったと確信しています

この点から、自分で考えて決めたのであれば、必ずしも親の期待に応える必要はないと思いました。

逆に言えば、勉強以外にやりたい何かがなければ、親の言うとおりに勉強するのが、無難でしょう。勉強しなかった後悔を、自分の子どもに押し付けないためにも。

私は、勉強以外にやりたい何かがないのに、学生時代をだらだら過ごしてきました。

社会人の今、自分の後悔を子どもに押し付け「勉強しなさい」と言うのではなく、自分がやりたいことを続けられる人間でありたいです。それが誰かの期待に背いても。

猫を棄てる 父親について語るとき (文春e-book)

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