いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『鳥がぼくらは祈り、』島口大樹(著)の感想【一人称内多元視点】(群像新人賞受賞、野間文芸新人賞候補)

一人称内多元視点 書き方が特殊です。 「ぼく」が使われているので、「ぼく」の視点から描かれている作品かと思いきや、他の登場人物の視点からも描かれます。 例えば、 山吉が振り向いて遣った視線の先にいたのはぼくだった というように、視点が「ぼく」で…

『カメオ』松永K三蔵(著)の感想【犬を放ちたい】(群像新人賞優秀作)

犬を放ちたい 2021年の群像新人賞は、入賞作が3作ありました。 当選作「貝に続く場所にて」 当選作「鳥がぼくらは祈り、」 優秀作「カメオ」 3番目の賞が「カメオ」ですが、私は3作の中で一番面白く読みました。 先が気になり、途中で読むペースを落とすこと…

『ブロッコリー・レボリューション』岡田利規(著)の感想【バンコクに行ったのか】(三島賞受賞)

バンコクに行ったのか 主人公が、「きみ」が見ている光景を語ります。 例えばこんな感じです。 ぼくはいまだにそのことを知らないでいるしこの先も知ることは決してないけれども、きみはバンコクの日々、ルンピニ公園にもほど近い、サトーン通りを折れたとこ…

『パーク・ライフ』吉田修一(著)の感想【小説に書かれていない余白を体験】(芥川賞受賞)

小説に書かれていない余白を体験 「パーク・ライフ」のタイトルどおり、公園が舞台です。 都会の中心、日比谷公園。 公園内で大事件が起こる、といった話ではありません。 昼間の公園でよく見られる風景を切り取った作品です。 主人公は、バスソープや香水を…

『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』の感想【文章の型とは】

文章の型とは 文章術の本を100冊読むより、まずはこの1冊を読んだ方が良いと思いました。 著者がすでに100冊読んで、ポイントがまとめられているからです。 例えば、文章の書き方で大事な「7つの基本ルール」は以下のとおりです。 文章はシンプルに 伝わる文…

『彫刻の感想』久栖博季(著)の感想【樺太の少数民族の末裔】(新潮新人賞受賞)

樺太の少数民族の末裔 主人公は、北海道で非常勤の学芸員をしている、30歳の女性です。 本作は、 主人公 主人公の父 父の母(主人公の祖母) と、三世代に及ぶ一族の物語として、語られます。 祖母は、樺太で生まれ育つ少数民族でしたが、第二次世界大戦時の…

『ミシンと金魚』永井みみ(著)の感想【育児放棄の末路】(すばる文学賞受賞、三島賞候補、野間文芸新人賞候補)

育児放棄の末路 主人公は認知症で、デイサービスや訪問ヘルパーを利用しています。 ある日、主人公は、通院に同行したヘルパーから、聞かれます。 カケイさんの人生は、しあわせでしたか? カケイとは、主人公の名前です。 自分の人生についてしあわせだった…

『ボギー、愛しているか』伊藤たかみ(著)の感想【売春島に打ち上げられた男】(芥川賞候補)

売春島に打ち上げられた男 ボギーとは、主人公の地元の同級生です。保木のあだ名がボギーです。 ボギーは、十九の夏に死んだ。溺死だった。九月の終わり、W島の海岸に打ち上げられたのだ。そこは、地元の売春島だと噂される小さな島だった。 なぜ、ボギーが…