いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

2022-04-01から1ヶ月間の記事一覧

『眼球達磨式』澤大知(著)の感想【小型カメラから見る世界】(文藝賞受賞)

小型カメラから見る世界 「眼球達磨式」というタイトルに、怪しくも引き付けられました。 一体何のことでしょうか。 ごく小さい機体で、手のひらに包み込むことのできるサイズ感。眼球を連想させる球体の合成樹脂ボディは、中央から黒目様のレンズが隆起して…

『サイドカーに犬』長嶋有(著)の感想【母が家を出た】(芥川賞候補)

母が家を出た サイドカーに乗った犬を、主人公は海沿いの道路で見ます。 サイドカーに犬を乗せたバイクが前方を走っていた。犬は行儀よくすわっていた。 主人公も、サイドカーの犬のように行儀がよいです。 欲しいものを、人にねだることができません。 主人…

『猛スピードで母は』長嶋有(著)の感想【心強いシングルマザー】(芥川賞受賞)

心強いシングルマザー 主人公の母の車の運転は、いつも猛スピードです。 主人公は小学5年生の男の子で、母と二人、北海道で暮らしています。 北海道の南岸沿いの小都市だが、背後を背の低い山が囲んでいた。だから海から流れてくる雲が停滞しやすいのだとい…

『旅のない』上田岳弘(著)の感想【旅がないとは】(川端康成文学賞受賞)

旅がないとは 「旅のない」とは、普段耳にしない言葉です。 「旅」について、「ない」とは言わないからです。 「旅のない」とは、主人公の出張先で会った男性が撮った、自主映画のタイトルです。 主人公は、友人の起業した会社に勤めながら小説を書いている…

『街と、その不確かな壁』村上春樹(著)の感想【文學界1980年9月号でしか読めない】

文學界1980年9月号でしか読めない 本作は、村上春樹さんの3作目の小説です。 単行本や全集にも収録されておらず、読める媒体は、「文學界」1980年9月号のみです。 私は、国会図書館で読みました。 なぜ、単行本や全集にも収録されていないかというと、村上さ…

『ドライブイン蒲生』伊藤たかみ(著)の感想【かすけた家族】

かすけた家族 「ドライブイン蒲生(がもう)」とは、主人公の父がやっていた店の名前です。 朝から夜まで店を開けているのに客が入らない、しがない飲食店でした。 次第に店を開けない日が多くなり、父は終始、酔っぱらうようになります。 父は暴力をふるい…

『無花果カレーライス』伊藤たかみ(著)の感想【実の中に咲く花】(芥川賞候補)

実の中に咲く花 無花果(いちじく)のジャムが入ったカレーライスは、主人公の母が作っていた料理です。 カレーには無花果のジャムがいいのよとつぶやく。そうすれば、味がまろむから。 主人公の母は、小学生の主人公に暴力をふるっていました。 主人公は、…

『木野』村上春樹(著)の感想【傷つくべきときに十分に傷つかなかったら】

傷つくべきときに十分に傷つかなかったら 『女のいない男たち』という短編集に収録されている一作です。 短編集のまえがきで、村上春樹さんは、『木野』について書いています。 『木野』は推敲に思いのほか時間がかかったということもある。これは僕にとって…

大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を受けた感想【スケジュールと対策】

スケジュールと対策 読書感想とは関係ない内容です。 ですが、書かずにはいられないので記録しておきます。 もしかしたら、未来の私に向けてかもしれません(もう二度と受けたくないですが)。 終わった困難は、時が経つと薄れると聞きます。 私は、検便の結…

『ドライブ・マイ・カー』村上春樹(著)の感想【アカデミー賞国際長編映画賞原作】

アカデミー賞国際長編映画賞原作 2022年、アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した作品の原作です。 『女のいない男たち』という短編集に収録されています。 短編集のタイトルどおり、主人公は、「女のいない男」です。 主人公は、 女優だった妻に先立たれ、…

『何もかも憂鬱な夜に』中村文則(著)の感想【芸術は人間を救えるか】

芸術は人間を救えるか ピースの又吉直樹さんの解説が良いです。 様々な作家が人間を描こうと多種多様な鍬(くわ)を持ち土を垂直に掘り続けてきた。随分と深いところまで掘れたし、もう鍬を振り下ろしても固い石か何かに刃があたり甲高い音が響くばかり。(…

『八月の路上に捨てる』伊藤たかみ(著)の感想【タイトルが良い】(芥川賞受賞)

タイトルが良い タイトルに惹かれて手に取りました。 「八月の路上」だけだと暑そうです。 「路上に捨てる」だけだと物寂しい感じがします。 「八月の路上に捨てる」だと、暑さと物寂しさが相まって、夏の終わりの悲壮感ある雰囲気が伝わってきます。 それに…