いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『遮光』中村文則(著)の感想【虚言癖の青年の記録】(野間文芸新人賞受賞)

虚言癖の青年の記録 著者の中村さんは、巻末の解説で、 不条理に対して、勝てる見込みのない抵抗を試みた、一人の虚言癖の青年の記録 と書いています。 大学生の主人公は、恋人を交通事故で亡くします。 主人公は、彼女の死を受け入れられません。 病院で彼…

『劇場』又吉直樹(著)の感想【第三者の介入で崩れる関係性】

第三者の介入で崩れる関係性 主人公は、売れない劇作家です。 家賃5万円を支払えず、専門学生の彼女の家に転がり込みます。 彼女の実家から送られた食材を食べる主人公は、 人の親から送られた食料を食べる情けない生きもの。子供の頃、こんな惨めな大人にな…

「大森望×豊崎由美 文学賞メッタ斬り!スペシャル(結果編)」の感想【第164回芥川賞】

番組概要 1月20日(水)に第164回芥川賞受賞作が発表されました。 宇佐見りん『推し、燃ゆ』 推し、燃ゆ 作者:宇佐見りん 発売日: 2020/09/10 メディア: Kindle版 受賞予想した作品の答え合わせや、結果を受けて話すラジオ番組です。 前回(予想編)の放送の…

『ピンクとグレー』加藤シゲアキ(著)の感想【スターになった親友】

スターになった親友 主人公の親友が、芸能界でスターになります。 もとは主人公と同じ、エキストラでした。 きっかけは、親友がアドリブで言った、 さっきあっちに走っていったよ という一言で、俳優の仕事が増え、人気が出ます。 主人公は、人気俳優になっ…

第164回芥川賞受賞作発表、会見、選評(2020年下半期)の感想

第164回芥川賞受賞作発表 2021年1月20日(水)、芥川賞の受賞作が発表されました。 単独受賞です。 宇佐見りん『推し、燃ゆ』 推し、燃ゆ 作者:宇佐見りん 発売日: 2020/09/10 メディア: Kindle版 予想は、はずれました。予想はこちらです。 『推し、燃ゆ』…

【第164回芥川賞予想】「大森望×豊崎由美 文学賞メッタ斬り!スペシャル(予想編)」の感想

第164回芥川賞予想 1月20日(水)に第164回芥川賞、直木賞が決まります。 「文学賞メッタ斬り!スペシャル」は、受賞作の決定前に、どの作品が受賞するかを予想するラジオ番組です。 予想する方 大森望(書評家、SF翻訳家) 豊崎由美(書評家) 芥川賞候補作…

漫画『20世紀少年』浦沢直樹(著)の感想【犯人「ともだち」の原動力】

犯人「ともだち」の原動力 主人公が小学生のときに書いた「よげんの書」どおりに、なぜか日本は進んでいきます。 行き着く先は、世界滅亡。 世界滅亡の危機の元凶である犯人「ともだち」の原動力は、嫉妬と復讐でした。 「ともだち」は2人います。 動機をそ…

『うみべの女の子』浅野いにお(著)の感想【引きこもりなのに憧れる】

引きこもりなのに憧れる 主人公の男の子は、中学2年生です。 海辺の街に転校してきましたが、仲の良い友達はいません。 友達はいないのに、同級生の女の子に告白できる強さがあります。 振られてしまいますが、のちにその女の子から誘われ、体の関係を持ちま…

漫画『ぼくらの』鬼頭莫宏(著)の感想【鬱マンガで終わらない】

鬱マンガで終わらない 主要な登場人物が次々死ぬことから、鬱マンガとして有名です。 それに乗っかり、胸糞悪さを感じたり、鬱々したりだけでは、もったいないと思いました。 15人の少年少女は、知らない大人に誘われるがまま、退屈しのぎにゲームに参加しま…

『小隊』砂川文次(著)の感想【北海道がロシアから攻められる】(芥川賞候補)

北海道がロシアから攻められる 北海道がロシア軍に攻められます。 自衛隊に所属する主人公は、初めての戦闘で、部下を指揮しています。 迫りくるロシア軍に備え、主人公は、民間人の母子に避難するよう働きかけますが、うまくいきません。 どこにも身よりは…

『推し、燃ゆ』宇佐見りん(著)の感想【既視感のある通過儀礼】(芥川賞受賞)

既視感のある通過儀礼 推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。 で始まる物語は、勢いをそのままに、一気に駆け抜けます。 女子高生の主人公は、男女混合アイドルグループに所属する男性が、推しメンです。 推しが炎上し、 謝罪会見 グループ内選挙で推しが最…

『コンジュジ』木崎みつ子(著)の感想【ロックスターの配偶者】(芥川賞候補、すばる文学賞受賞)

ロックスターの配偶者 後半からの熱量が凄い作品です。 すばる文学賞の選評で、川上未映子さんは、 何よりもラストシーン。評価を忘れただ物語を読む者として深く胸打たれた と書いています。 主人公は11歳のとき、イギリスのロックバンドのボーカルに恋をし…

『旅する練習』乗代雄介(著)の感想【忍耐が限界を迎えると】(芥川賞候補、三島賞受賞)

忍耐が限界を迎えると 小説家の主人公と小学6年生の姪の、練習する旅です。 練習は、 主人公:風景を描くこと 姪:サッカーのドリブルとリフティング で、旅は、千葉の我孫子駅から鹿嶋市まで歩くことです。 姪は、歩きながらドリブルし、主人公が風景描写を…

『母影』尾崎世界観(著)の感想【純粋で繊細な言語感覚】(芥川賞候補)

純粋で繊細な言語感覚 主人公は、小学校低学年と思われる女の子です。 女の子の視点で語られるので、文章は柔らかく、読みやすいです。 部屋を区切るカーテンの手前で、主人公は、カーテンに映る影を見ています。 カーテンの向こう側では、母親はマッサージ…

2020年に読んで良かった本3選【小説】

2020年に読んで良かった本3選 2020年に読んだ小説で、良かった3冊を紹介します。 1『土に贖う』河﨑秋子(著) 土に贖う (集英社文芸単行本) 作者:河崎秋子 発売日: 2019/10/04 メディア: Kindle版 北海道で繁栄し、衰退した産業の歴史が描かれます。 描かれる…