いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『うみべの女の子』浅野いにお(著)の感想【引きこもりなのに憧れる】

引きこもりなのに憧れる

主人公の男の子は、中学2年生です。

海辺の街に転校してきましたが、仲の良い友達はいません

友達はいないのに、同級生の女の子に告白できる強さがあります。

振られてしまいますが、のちにその女の子から誘われ、体の関係を持ちます。

女の子は主人公を好きになったわけではなく、好きだった先輩から雑な扱い受けた腹いせに、都合の良い主人公を選んだだけです。

主人公は、振られた後もその女の子のことが好きでしたが、女の子は主人公のことが好きではありません。体の関係は持ちますが、キスは拒みます

主人公は、傷ついているような発言を女の子にしますが、そこまで傷ついているようには見えません。

主人公は、女の子に、

俺のこと好きじゃなくても全然いいやと思って

……俺都合のいい道具で十分だよ

と、諦めのような発言をします。

『うみべの女の子』という、やわらかいタイトルですが、性描写が多いです。

主人公の両親は家にほとんどいないので、主人公は多くの時間を一人で過ごしています。

私が主人公に憧れるのは、主人公の「落ち着き具合」です。

  • 友達がいなくても、
  • 学校に行かなくても、
  • 両親が家にいなくても、
  • 好きな女の子に拒まれても、

動じているようには見えません焦ることなく落ち着き払っています

私が中学生なら、無理にでも友達を作ろうとするし、嫌われないように人付き合いをすると思います。学校をさぼることなく、運動部に入り、テスト勉強もするでしょう。

他人の目が気になるからです。

主人公は他人の目を気にしません。自分のやりたいようにやります。

主人公の、中学生なのに諦めているような脱力感がうらやましいです。

極端ですが、部活や学園祭に励んでいる中学生が幼稚に見えてきます

ですが、「うみべの女の子」に遭遇した主人公は、一変します。

「うみべの女の子」とは、主人公の死んだ兄のカメラに写っていた、綺麗な女性です。

「うみべの女の子」が、高校生だと知った主人公は、高校進学をどうでもいいと思っていたはずなのに、彼女と同じ高校に通うべく受験勉強を始めます。

主人公が希望を見出したときの、いきいきとしたはしゃぎ具合に、私はしらけました。

普通の高校生になりかけているけど、主人公はそういうんじゃないと思ったからです。

普通の学生生活を送らなくても気後れしない精神を持った、強い主人公に私は憧れていました。

部屋に引きこもってゲームをしたり寝たりしても、焦りはなく気怠そうにしている姿に、孤高な格好良さを感じていました。

人生に目的を見出したことは、主人公にとって良いことでしょうが、読んでいる私としては、寂しさを覚えましたし、主人公が量産型の陳腐な人間になり下がったとさえ、思ってしまいました。

うみべの女の子 1

うみべの女の子 1