いっちの1000字読書感想文

平成生まれの社会人。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

新人賞

『おわりのそこみえ』図野象(著)の感想【選評を読んで】(文藝賞優秀作)

選評を読んで 「おわりのそこみえ」は、「終わりの底見え」と書けます。 終わりの底が見えたとき、希望なのか、絶望なのか。 タイトルがひらがなの理由は、わかりません。 ただ、ひらがなだと、柔らかい印象を受けます。 漢字だったら、怖い印象を受けます。…

『解答者は走ってください』佐佐木陸(著)の感想【選評を読んで】(文藝賞優秀作)

選評を読んで タイトルでクイズの話かと思いましたが、全然違いました。 主人公は27歳。名前は怜王鳴門(れおなるど)。 生まれてからこの部屋を出たこともない 主人公は、パソコンに表示された文章を読みます。 文章は、主人公について書かれた内容でした。…

『無敵の犬の夜』小泉綾子(著)の感想【指がないこと】(文藝賞受賞)

指がないこと 最初の一文を読んだら、次の文、次の文と、読み進められます。 短文の畳みかけで、最後まで疾走感があります。 主人公は男子中学生。右手の小指と、薬指半分がありません。 4歳のとき、タンスで指を挟んだからです。 父と母とは別居で、祖母と…

『海を覗く』伊良刹那(著)の感想②【殺意と自殺の理由】(新潮新人賞受賞)

殺意と自殺の理由 感想①はこちらです。 読み終わってからも、頭に残ります。 観念的な内容が多く、私が読み解けてないから、頭に残ってる気がします。 いつもなら、感想を書いたら次の作品を読むのですが、この作品がこびりついて、次の作品へ移行できません…

『海を覗く』伊良刹那(著)の感想①【選評を読んで】(新潮新人賞受賞)

選評を読んで 著者は17歳で、史上最年少受賞とのことです。 どんな小説を書くのだろうと読み始めたら、厳かな文章という印象を持ちました。 人物の描写では、 目鼻立ちの、運命に苛まれているような美貌は思わず息を呑むほどで、傑出した細長い眉、翳りのあ…

『シャーマンと爆弾男』赤松りかこ(著)の感想【選評を読んで】(新潮新人賞受賞)

選評を読んで シャーマンとは、 神や精霊との直接接触からその力能を得、神や精霊との直接交流によって託宣、予言、治病、祭儀などを行う呪術・宗教的職能者(日本大百科全書) とあります。 作中でシャーマンを託されてるのは、主人公です。 主人公は、南米…

『みどりいせき』大田ステファニー歓人(著)の感想【選評を読んで】(すばる文学賞受賞)

選評を読んで 最初は読みにくかったです。 誰が誰か、わからない 誰が何を言ってるのか、わからない 途中で読むのをやめようかと思いました。 私は新人賞受賞作を読む際には、 受賞作 選評 の順で読みます。 なぜ、こんな読みにくい作品が受賞したのかを知り…

『ハンチバック』市川沙央(著)の感想【ご指摘いただいた点について】(文學界新人賞、芥川賞受賞)

ご指摘いただいた点について 本書について、以前読書メーターで感想を書きました。一部抜粋します。 ラストのわかりにくさの原因は、主人公と同じ名前の女性が、女子大生で風俗で働いてるからだろう。病気で入院してる今までの話は何だったのかと。 この感想…

『ビューティフルからビューティフルへ』日比野コレコ(著)の感想【膨大な読書量に裏付けされた感覚】(文藝賞受賞)

膨大な読書量に裏付けされた感覚 作者が18歳というのが、どうしても目についてしまいます。 若い感性で書かれた小説ね、と思ってしまいます。 よくない先入観です。早計でした。 言葉の引き出しが凄まじい作品でした。 作品を読んで、 選評を読んで、 対談を…

『ジャクソンひとり』安堂ホセ(著)の感想【敵と見なす勇気】(文藝賞受賞、芥川賞候補)

敵と見なす勇気 ジャクソンは、アフリカのどこかの国と日本のハーフで、ゲイです。 日本で言うところの、マイノリティの中のマイノリティ。 ジャクソンに似ている人間が、他に3人集まります。 4人が集まった場所で、4人の心情も描かれるので、これは誰の心情…

『十七八より』乗代雄介(著)の感想【あの少女と呼ぶ理由】(群像新人賞受賞)

あの少女と呼ぶ理由 読むのは3回目です。 2021年2月に感想を書いてます。 今回読み返して、読み間違いが見つかりました。 前回の感想では、 回想形式の作品ですが、現在の主人公は、物語に登場しません。 と書いています。 しかし、現在の主人公は、書き手と…

『がらんどう』大谷朝子(著)の感想【選評を読んで】(すばる文学賞受賞)

選評を読んで アラフォーの女性2人が、ルームシェアをします。 主人公は38歳で、経理の仕事をしています。 同居人は、仕事で知り合った女性です。 仲良くなったきっかけは、推しの男性アイドルグループが同じだったことです。 主人公と同居人が推すメンバー…

『ジューンドロップ』夢野寧子(著)の感想【選評を読んで】(群像新人賞受賞)

選評を読んで 主人公は女子高生で、 母は不妊症 父は母の再婚相手 物語でありそうな家族ものです。 選考委員の柴崎由香さんは、 全般に、語り手や中心となる人物が狭い範囲から出ることがなく、小説の深層で揺らぎが起きにくかったのではないか。 「全般に」…

『もぬけの考察』村雲菜月(著)の感想【選評を読んで】(群像新人賞受賞)

選評を読んで 舞台は、都会の賃貸マンションの一室です。 一人暮らし用の部屋で、入居者が頻繁に入れ替わります。 その部屋に住む人たちの生活が描かれます。 文章は読みやすく、最後まで一気に読めました。 「もぬけの考察」は、本作の一つの章のタイトルで…

『ハンチバック』市川沙央(著)の感想②【殺すために孕もうとする障害者】(文學界新人賞受賞、芥川賞受賞)

殺すために孕もうとする障害者 芥川賞を受賞したので再読しました。 前回読んだときの感想はこちらです。 主人公は、嫌っています。 例えば、ものに対して。 博物館や図書館や、保存された歴史的建造物が、私は嫌いだ。完成された姿でそこにずっとある古いも…

『ハンチバック』市川沙央(著)の感想①【選評を読んで】(文學界新人賞受賞、芥川賞受賞)

選評を読んで ハプニングバーの潜入記事から始まります。 いきなり性的な表現からか……。 読み始めの印象はそうでした。 しかし、それは入院している人間が執筆している架空の記事だとわかります。 体験ではなく、創作か。 小説自体、創作なのですが、体験を…

『世界地図、傾く』黒川卓希(著)の感想【選評を読んで】(新潮新人賞受賞)

選評を読んで 新潮新人賞には、2630作品の応募があったそうです。 本作がその頂点にふさわしいかというと、そうは思いませんでした。 何の話かよくわからなく、読み通すのが苦痛でした。 新人賞か芥川賞候補作でなければ、途中で読むのをやめています。 しか…

『鴨川ランナー』グレゴリー・ケズナジャット(著)の感想【京都に帰りたい】(京都文学賞受賞)

京都に帰りたい 主人公は、英語圏で生まれ育ちました。 きみが初めて京都を訪れたのは十六歳のときだ。この時点できみはすでに二年間、日本語を学習している。 本作は、「きみ」という二人称の語りです。 主人公は、 16歳で初京都 大学卒業後、英語を教える…

『点滅するものの革命』平沢逸(著)の感想【ビートルズ「レボリューション9」】(群像新人賞受賞)

ビートルズ「レボリューション9」 主人公は、5歳か6歳。来年小学校に入学します。 父親と二人暮らしで、父親は多摩川の河川敷で銃を探しています。 探している銃は父のものではありません。拾って報奨金をもらおうとしています。 父親は毎日河川敷に通ってお…

『1000年後の大和人』松井十四季(著)の感想【保育園の運転手のぼやき】(三田文學新人賞受賞)

保育園の運転手のぼやき 主人公は保育園の運転手をしています。 鬼滅の刃とうっせぇわに辟易しながらバックミラーを見ると8人の保育園児が緑と黒の格子柄のマスクをしながらうっせーうっせーと叫んでいた。 一文目から飛ばしてます。語り口が面白く、引き付…

『家庭用安心坑夫』小砂川チト(著)の感想【坑道に立つマネキン人形を盗む】(群像新人賞受賞、芥川賞候補)

坑道に立つマネキン人形を盗む タイトルの「家庭的安心坑夫」とは何でしょうか。 作中には明言されていません。 関連しているのは、主人公の実家近くのテーマパークの坑道にいる、ツトムというマネキン人形のことです。 ツトムはその坑道の中腹に立っている…

『N/A』年森瑛(著)の感想②【つらい人に掛ける言葉】(文學界新人賞受賞、芥川賞候補)

つらい人に掛ける言葉 感想①はこちらです。 主人公の友人であるオジロの祖父が、コロナにかかり、入院します。 オジロから直接報告を受けた主人公は、どのように声を掛けていいか、悩みます。 オジロにとって重要な友だちだから打ち明けてもらえたのであって…

『N/A』年森瑛(著)の感想①【かけがえのない他人】(文學界新人賞受賞、芥川賞候補)

かけがえのない他人 主人公の女子高生は、教育実習生の女子大生と付き合っています。 主人公は、「かけがえのない他人」に憧れていました。 ホットケーキを食べたりおてがみを送るような普遍的なことをしていても世界がきらめいて見えるような、他の人では代…

『鳥がぼくらは祈り、』島口大樹(著)の感想【一人称内多元視点】(群像新人賞受賞、野間文芸新人賞候補)

一人称内多元視点 書き方が特殊です。 「ぼく」が使われているので、「ぼく」の視点から描かれている作品かと思いきや、他の登場人物の視点からも描かれます。 例えば、 山吉が振り向いて遣った視線の先にいたのはぼくだった というように、視点が「ぼく」で…

『カメオ』松永K三蔵(著)の感想【犬を放ちたい】(群像新人賞優秀作)

犬を放ちたい 2021年の群像新人賞は、入賞作が3作ありました。 当選作「貝に続く場所にて」 当選作「鳥がぼくらは祈り、」 優秀作「カメオ」 3番目の賞が「カメオ」ですが、私は3作の中で一番面白く読みました。 先が気になり、途中で読むペースを落とすこと…

『眼球達磨式』澤大知(著)の感想【小型カメラから見る世界】(文藝賞受賞)

小型カメラから見る世界 「眼球達磨式」というタイトルに、怪しくも引き付けられました。 一体何のことでしょうか。 ごく小さい機体で、手のひらに包み込むことのできるサイズ感。眼球を連想させる球体の合成樹脂ボディは、中央から黒目様のレンズが隆起して…

『我が友、スミス』石田夏穂(著)の感想【別の生き物になりたい】(芥川賞候補、すばる文学賞佳作)

別の生き物になりたい 主人公は30歳の女性。仕事終わりにジムで筋トレに励んでいます。 フィットネス感覚ではなく、徹底的に体を鍛える、ガチな筋トレです。 スミスとは、筋トレマシンの名前です。 バーベルの左右にレールがついたトレーニング・マシンであ…

『貝に続く場所にて』石沢麻依(著)の感想【震災で行方不明になった知人】(群像新人賞受賞、芥川賞受賞)

震災で行方不明になった知人 主人公の女性は、ドイツのゲッティンゲンに住み、論文を書いています。 そこに、東日本大震災で行方不明になった知人が来ます。大学のときに、主人公と同じ研究室に所属していた男性で、9年ぶりの再会です。 話しぶりや様子を見…

『悪い音楽』九段理江(著)の感想【心がない教師】(文學界新人賞受賞)

心がない教師 面白く一気に読みました。 文學界新人賞の受賞作2作のうちの1作ですが、本作の単独受賞で良いと思いました。 中学校の音楽教師である主人公は、男子生徒同士の喧嘩の第一発見者として、話し合いの場に出席させられます。 生徒の親や、教頭など…

『穀雨のころ』青野暦(著)の感想【きわめて優れたスケッチ】(文學界新人賞受賞)

きわめて優れたスケッチ 文學界新人賞には、2817作の応募があったそうです。 受賞作は2817作のうちの2作。ですが選考委員の選評は厳しいです。 『穀雨のころ』は、長嶋有さんだけが○をつけ、その他4人の選考委員は×をつけたそうです。 本作は、高校生の男女4…