選評を読んで
タイトルでクイズの話かと思いましたが、全然違いました。
主人公は27歳。名前は怜王鳴門(れおなるど)。
生まれてからこの部屋を出たこともない
主人公は、パソコンに表示された文章を読みます。
文章は、主人公について書かれた内容でした。
主人公は部屋から出たことがないはずなのに、
- 高校生クイズ大会で優勝
- 音楽フェスやライブに出演
- クーデターの発起者
と、奇想天外な過去が書かれてます。
記憶力がぜんぜんないから、これまでの誕生日もほとんどおぼえていない
主人公は数日前のこともすぐに忘れてしまうようです。
何が本当で、何が嘘なのか。
選考委員の町田康さんは、
四層の世界からなる意欲的な作品
と描いてます。
四層の世界とは、
- 主人公がいる世界(部屋の中にいる主人公)
- 主人公が書かれてる世界(クイズ大会で優勝した主人公)
- 無意識の世界(他の層の世界を見渡せる主人公)
- 物語の書き手がいる世界(作者の登場)
穂村弘さんは、
普通の小説の登場人物は自分が小説の中にいることを知覚できず、外の世界を見ることはない。だが、本作ではその枠組み自体が問題視されていて、登場人物は複数の階層を貫いて行動する。
物語後半、作者とも読める「佐々木」が登場します。
小説の枠組みを問題視するなら、物語に作者が登場するのは必然だと思います。
角田光代さんは、
「佐々木」という、作者とも読める人物が登場したことで、この言葉で綴られる奇天烈な物語が、作者の頭のなかに収斂され、急にこぢんまりしたものに感じられてしまい
島本理生さんは、
佐々木が登場するあたりからやや中途半端に真面目に悩んでしまった印象を受ける
と書いてます。
町田康さんは、「佐々木」の登場に、
創作論という、大きな話が、賞にうからない応募者の恨み節、というしょぼい話になってしまった
(中略)全体的に笑いがもう少しあるとまた印象が違ったのかも知れない
と書いてます。
物語に作者を出すのは問題ないものの、書き方が良くなかったのかもしれません。
私は、作者が登場してからも、面白く読みました。
ただ、作者の登場は、なくてもいいと思いました。
四層構造のテクニックを使わずとも、一層の世界だけで面白ければ十分です。
受賞作『無敵の犬の夜』は、一層の世界だけですが、面白かったです。
四層構造にし、「無意識の世界」や「作者の世界」を出すことで、他の応募作との差別化は図られたと思います。
結果的に、穂村弘さんが推して優秀作に選ばれました。
四層構造がなかったなら、優秀作に選ばれなかったかもしれません。
佐佐木陸さんは、最終候補に4回落選して、今回優秀作に選ばれたようです。
力のある書き手さんでしょう。
面白いテクニックではなく、面白い作品を読みたいです。
町田康さんの言う「全体的に笑いがもう少し」あると、最高です。