いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

芥川賞

第171回芥川賞受賞作発表、選評(2024年上半期)の感想

第171回芥川賞受賞作発表 2024年7月17日(水)、芥川賞の受賞作が発表されました。 ダブル受賞です。 サンショウウオの四十九日 作者:朝比奈秋 新潮社 Amazon バリ山行 作者:松永K三蔵 講談社 Amazon 『サンショウウオの四十九日』は予想当たりましたが、『…

【芥川賞予想】第171回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2024年上半期)

第171回芥川賞候補作発表 2024年6月13日(木)、芥川賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、7月17日(水)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめ、受賞予想をいたします。 朝比奈秋『サンショウウオの四十九日』新潮5月号 初の候補入りです。 『植…

『サンショウウオの四十九日』朝比奈秋(著)の感想②【オムライスはオムレツの誤植か】(芥川賞受賞)

オムライスはオムレツの誤植か 感想①はこちらです。 ある一場面について、誤植なのか気になりました。 瞬 私 父 が、いる場面です。 瞬は、オムレツとオムライスを作ってます。 オムレツは自分用、オムライスは父用です。 料理ができた後、 瞬は父にオムライ…

『サンショウウオの四十九日』朝比奈秋(著)の感想①【結合双生児の双子姉妹】(芥川賞受賞)

結合双生児の双子姉妹 主人公は、結合双生児で、双子の姉妹です。 私たちは、全てがくっついていた。顔面も、違う半顔が真っ二つになって少しずれてくっついている。結合双生児といっても、頭も胸も腹もすべてがくっついて生まれたから、はたから見れば一人…

『海岸通り』坂崎かおる(著)の感想【ニセモノのバス停】(芥川賞候補)

ニセモノのバス停 「海岸通り」とは、バス停の名前です。 老人ホームの敷地にあります。 しかし、そのバス停に、バスは停まりません。 偽物のバス停です。 主人公は、老人ホームで派遣の清掃員をしています。 偽物のバス停をみがきます。 バス停は偽物でも、…

『いなくなくならなくならないで』向坂くじら(著)の感想【迷惑な居候】(芥川賞候補)

迷惑な居候 タイトルに驚きます。 「いなくならないで」の間に、 なく:否定 ならなく:否定 があります。 いなく(なく)(ならなく)ならないで。 いなくならないでの否定の否定なので、 結果としては、いなくならないで、でしょうか。 とはいえ、 なく な…

『バリ山行』松永K三蔵(著)の感想【本当の危機】(芥川賞受賞)

本当の危機 読み方は、バリ山行(さんこう)です。 読む前は、バリ山に行く話だと思ってました。 全然違いました。 主人公は、建物の外装を修繕する会社に転職して2年。 前の会社から紹介してもらって、今の会社に勤めました。 前の会社には、首を切られた形…

『転の声』尾崎世界観(著)の感想②【無観客ライブ】(芥川賞候補)

無観客ライブ 感想①はこちらです。 転売の仕掛人(カリスマ転売ヤー)は、無観客ライブを企画します。 客を入れない ボーカルはステージに立たない、歌わない 配信もしない チケットは売る 私にはわかりません。 配信なしで客を入れないのに、チケットを売る…

『転の声』尾崎世界観(著)の感想①【転売されたいバンドボーカル】(芥川賞候補)

転売されたいバンドボーカル タイトル「転の声」は、転売にも使われるSNSアプリの通称名です。 「転」は、転売からきてるのでしょう。 主人公は、バンドのボーカルです。 生放送のテレビの音楽番組(Mステを想起させる)に、初登場します。 デビュー当初はそ…

第170回芥川賞受賞作発表、選評(2023年下半期)の感想

第170回芥川賞受賞作発表 2024年1月17日(水)、芥川賞の受賞作が発表されました。 九段理江『東京都同情塔』 東京都同情塔 作者:九段理江 新潮社 Amazon 私の予想ははずれました。 受賞予想はこちらです。 選評 選考委員の吉田修一さんの会見は、NHKの記事…

【芥川賞予想】第170回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2023年下半期)

第170回芥川賞候補作発表 2023年12月14日(木)、芥川賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、2024年1月17日(水)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめ、受賞予想をいたします。 安堂ホセ『迷彩色の男』文藝秋季号 第168回の候補『ジャクソンひと…

『アイスネルワイゼン』三木三奈(著)の感想【自分に都合の悪いことを隠す】(芥川賞候補)

自分に都合の悪いことを隠す 「アイスネルワイゼン」は、夜想曲「ツィゴイネルワイゼン」をもじった曲です。 どうしてもじったのか、結局聞きそびれてしまいました とあるとおり、理由はわかりません。 主人公は32歳の女性で、ピアノ講師をしています。 以前…

『猿の戴冠式』小砂川チト(著)の感想【人と猿の交流】(芥川賞候補)

人と猿の交流 主人公は、女子競歩の選手です。 テレビ中継された大会で、失格になります。 失格になった主人公は、バッシングを受けます。 故意による妨害に見えたからです。 主人公は、家に引きこもります。 競歩のコーチも母も、頼りになりません。 コーチ…

『東京都同情塔』九段理江(著)の感想【新宿御苑に建つ刑務所】(芥川賞受賞)

新宿御苑に建つ刑務所 「東京都同情塔」とは、新宿に建つ、新しい刑務所のことです。 正式名称は、「シンパシータワートーキョー」。 受刑者が服役する場所です。 塔は、スカイツリー、東京タワーに次ぐ高さの建物です。 建築家である主人公は、自問します。…

『Blue』川野芽生(著)の感想【トランスジェンダーの物語】(芥川賞候補)

トランスジェンダーの物語 本作は、特集「トランスジェンダーの物語」として、『すばる』に掲載されました。 トランスジェンダーとは、 生まれつきの身体的性別と、自分が認識する性別(性自認、ジェンダー・アイデンティティ)が異なる人々の総称。(日本大…

『迷彩色の男』安堂ホセ(著)の感想【誰のことか】(野間文芸新人賞候補、芥川賞候補)

誰のことか 描かれるのは、私の体験したことのない世界です。 しかしこの世界には、既視感があります。 同じ著者の前作『ジャクソンひとり』 千葉雅也さんの作品 と似ていると思いました。 物語が似ているというわけではありません。 黒人と日本人のハーフ …

『ハンチバック』市川沙央(著)の感想【ご指摘いただいた点について】(文學界新人賞、芥川賞受賞)

ご指摘いただいた点について 本書について、以前読書メーターで感想を書きました。一部抜粋します。 ラストのわかりにくさの原因は、主人公と同じ名前の女性が、女子大生で風俗で働いてるからだろう。病気で入院してる今までの話は何だったのかと。 この感想…

『ジャクソンひとり』安堂ホセ(著)の感想【敵と見なす勇気】(文藝賞受賞、芥川賞候補)

敵と見なす勇気 ジャクソンは、アフリカのどこかの国と日本のハーフで、ゲイです。 日本で言うところの、マイノリティの中のマイノリティ。 ジャクソンに似ている人間が、他に3人集まります。 4人が集まった場所で、4人の心情も描かれるので、これは誰の心情…

『最高の任務』乗代雄介(著)の感想【最高の任務とは何か】(芥川賞候補)

最高の任務とは何か 前回読んだときの感想(2019年12月)はこちらです。 そのときも、最高の任務とは何だろうと、思っていた気がします。 しかしそこには触れずに、書きやすそうなところを選んで感想を書いています。 最近は、わからないことはわからないと…

『ハンチバック』市川沙央(著)の感想②【殺すために孕もうとする障害者】(文學界新人賞受賞、芥川賞受賞)

殺すために孕もうとする障害者 芥川賞を受賞したので再読しました。 前回読んだときの感想はこちらです。 主人公は、嫌っています。 例えば、ものに対して。 博物館や図書館や、保存された歴史的建造物が、私は嫌いだ。完成された姿でそこにずっとある古いも…

【芥川賞予想】第169回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2023年上半期)

第169回芥川賞候補作発表 2023年6月16日(金)、芥川賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、7月19日(水)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめ、受賞予想をいたします。 石田夏穂『我が手の太陽』群像5月号 第166回の候補『我が友、スミス』に続…

『エレクトリック』千葉雅也(著)の感想②【ないはずのものがある】(三島賞候補、芥川賞候補)

ないはずのものがある 感想①はこちらです。 主人公の父は、独立して広告代理店を営んでいます。 メインの仕事は、地元のスーパーマーケットの折り込みチラシの作成です。 父の経営は、そのスーパーに依存しています。 スーパーマーケットから契約を打ち切ら…

『我が手の太陽』石田夏穂(著)の感想②【検査員の存在は何か】(芥川賞候補)

検査員の存在は何か 感想①はこちらです。 主人公は工事現場の溶接工です。 予定より早く来た検査員が、主人公の溶接が「不合格(フェール)」だったと知らせます。 検査員は加えて、これまでの主人公の溶接で、ギリギリの判定もあったと言います。 長く続け…

『我が手の太陽』石田夏穂(著)の感想①【工事現場の人のプライド】(芥川賞候補)

工事現場の人のプライド 主人公は、工事現場の溶接工です。 約20年働いてきて、自分の仕事に自信を持っています。 自他ともに認める、技術の持ち主です。 しかし、主人公の溶接が、検査で引っかかり、溶接をやり直すことになります。 なぜ欠陥が出たのか、自…

『それは誠』乗代雄介(著)の感想②【溺れてる人がいたらどうするか】(芥川賞候補)

溺れてる人がいたらどうするか 感想①はこちらです。 比喩的に、主人公は溺れています。 修学旅行の自由行動の1日で、叔父に会いに行くわけですから。 班を離れ、単独行動を希望する主人公。 毎日薬の服用が必要で、吃音持ちの「松」は、主人公への同行を希望…

『それは誠』乗代雄介(著)の感想①【著者の最高傑作】(芥川賞候補)

著者の最高傑作 掲載されている文學界の表紙に、 4人の若者のかけがえのない生の輝きをとらえた、著者の最高傑作! と書かれています。 出版社側が最高傑作と謳った作品で、最高傑作だった試しがあるでしょうか。 ですが、心配無用です。 乗代さんの小説はほ…

『##NAME##』児玉雨子(著)の感想【交換可能な名前】(芥川賞候補)

交換可能な名前 主人公のジュニアアイドル時代と、アイドルを引退した後の大学生時代を描きます。 帯には、 私の過去は、”現代の闇”なのか? でもそれは、あまりにまぶしい闇だった。 「現代の闇」とは、どういうことでしょうか。 セックスを強要されたりヌ…

『ハンチバック』市川沙央(著)の感想①【選評を読んで】(文學界新人賞受賞、芥川賞受賞)

選評を読んで ハプニングバーの潜入記事から始まります。 いきなり性的な表現からか……。 読み始めの印象はそうでした。 しかし、それは入院している人間が執筆している架空の記事だとわかります。 体験ではなく、創作か。 小説自体、創作なのですが、体験を…

『エレクトリック』千葉雅也(著)の感想①【同性愛の目覚め】(三島賞候補、芥川賞候補)

同性愛の目覚め 主人公は、宇都宮に住む高校2年生です。 時代は1995年。 1978年生まれの著者自身の年代と合っています。 「エレクトリック」とは、 電気の、電気で動く、電動の(weblioより) という意味があります。 本作で言うと、 アンプ(主人公の父が製…

『荒地の家族』佐藤厚志(著)の感想【明るい未来が見えなくても】(芥川賞受賞)

明るい未来が見えなくても 「荒地」の家族。 タイトルが重いです。 帯のキャッチコピーに、 あの災厄から十年余り、男はその地を彷徨いつづけた。 とあり、読む前から気が重いです。 「荒地」とは、東日本大震災の被害を受けた土地です。 主人公は、宮城県で…