芥川賞
明るい未来が見えなくても 「荒地」の家族。 タイトルが重いです。 帯のキャッチコピーに、 あの災厄から十年余り、男はその地を彷徨いつづけた。 とあり、読む前から気が重いです。 「荒地」とは、東日本大震災の被害を受けた土地です。 主人公は、宮城県で…
二人称で書く意味 主人公は、ショッピングセンター内の喪服売り場で働く女性です。 「あなた」という二人称で書かれます。 本作の一文目は、 あなたは積まれた山の中から、片手に握っているものとちょうど同じようなのを探した。 なぜ、二人称で書かれる必要…
なぜAV女優にならないのか 「グレイスレス」の言葉の意味がわかりませんでした。 辞書では、 品のない 見苦しい 恐れのない 不快な など、多様な意味が書かれていました。 作中に「グレイスレス」という言葉は出てきません。 主人公は、AV業界で化粧の仕事を…
故郷へ帰る意味 『開墾地』というタイトル。一見とっつきにくいです。 辞書には、「山林や原野を切り開いた土地」とあります。 「開墾地」が意味するのは、 アメリカ(サウスカロライナ州)から上京した主人公 イランからサウスカロライナに渡った主人公の父…
第168回芥川賞受賞作発表 2023年1月19日(木)、芥川賞の受賞作が発表されました。 ダブル受賞です。 井戸川射子『この世の喜びよ』 この世の喜びよ 作者:井戸川射子 講談社 Amazon 佐藤厚志『荒地の家族』 荒地の家族 作者:佐藤厚志 新潮社 Amazon 受賞予想…
第168回芥川賞候補作発表 2022年12月16日(金)、芥川賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、2023年1月19日(木)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめます。 安堂ホセ『ジャクソンひとり』文藝冬季号 初の候補入りです。 同作で文藝賞を受賞しま…
居場所を失ったら生きていけないのか 大阪が舞台。人物の視点がころころと切り替わります。 ときにはタクシー運転手の男性、ときにはガールズバーの女性。 視点の切り替わりは、一つの場所に居続けない人間みたいです。 コンビニ店員や美容師など、サービス…
母の死に際 主人公は、飲み屋で働く20代後半の女性です。 歓楽街やコリアンタウンの近くに住んでいます。 母の要望で、母は主人公の部屋に移り住みます。 しかし、すぐに入院してしまいました。 母の命は長くないです。母に付き添うため、主人公は飲み屋を辞…
坑道に立つマネキン人形を盗む タイトルの「家庭的安心坑夫」とは何でしょうか。 作中には明言されていません。 関連しているのは、主人公の実家近くのテーマパークの坑道にいる、ツトムというマネキン人形のことです。 ツトムはその坑道の中腹に立っている…
胸糞悪い『コンビニ人間』 『コンビニ人間』からユーモアを引いて、胸糞悪さを足したような小説です。 狭い職場の表面的な人間関係の裏にある感情を、さらけ出しています。 登場人物の誰一人にも魅力を感じませんでした。 支店長:「飯はみんなで食ったほう…
悪態というコミュニケーション手段 タイトルの「あくてえ」とは、 悪口や悪態といった意味を指す甲州弁 で、主人公である19歳の女性は、悪態をつきます。 主人公が、同居の祖母を「ばばあ」と心の中で呼ぶのも悪態の一つです。 主人公は、 祖母 母 の三人暮…
第167回芥川賞候補作発表 2022年6月17日(金)、芥川賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、7月20日(水)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめ、受賞予想をいたします。 小砂川チト『家庭用安心坑夫』群像6月号 初の候補入りです。 同作で群像新…
小説に書かれていない余白を体験 「パーク・ライフ」のタイトルどおり、公園が舞台です。 都会の中心、日比谷公園。 公園内で大事件が起こる、といった話ではありません。 昼間の公園でよく見られる風景を切り取った作品です。 主人公は、バスソープや香水を…
売春島に打ち上げられた男 ボギーとは、主人公の地元の同級生です。保木のあだ名がボギーです。 ボギーは、十九の夏に死んだ。溺死だった。九月の終わり、W島の海岸に打ち上げられたのだ。そこは、地元の売春島だと噂される小さな島だった。 なぜ、ボギーが…
母が家を出た サイドカーに乗った犬を、主人公は海沿いの道路で見ます。 サイドカーに犬を乗せたバイクが前方を走っていた。犬は行儀よくすわっていた。 主人公も、サイドカーの犬のように行儀がよいです。 欲しいものを、人にねだることができません。 主人…
心強いシングルマザー 主人公の母の車の運転は、いつも猛スピードです。 主人公は小学5年生の男の子で、母と二人、北海道で暮らしています。 北海道の南岸沿いの小都市だが、背後を背の低い山が囲んでいた。だから海から流れてくる雲が停滞しやすいのだとい…
実の中に咲く花 無花果(いちじく)のジャムが入ったカレーライスは、主人公の母が作っていた料理です。 カレーには無花果のジャムがいいのよとつぶやく。そうすれば、味がまろむから。 主人公の母は、小学生の主人公に暴力をふるっていました。 主人公は、…
タイトルが良い タイトルに惹かれて手に取りました。 「八月の路上」だけだと暑そうです。 「路上に捨てる」だけだと物寂しい感じがします。 「八月の路上に捨てる」だと、暑さと物寂しさが相まって、夏の終わりの悲壮感ある雰囲気が伝わってきます。 それに…
第166回芥川賞受賞作発表 2022年1月19日(水)、芥川賞の受賞作が発表されました。 砂川文次『ブラックボックス』 ブラックボックス 作者:砂川 文次 講談社 Amazon 私の予想は当たりました。 受賞予想はこちらです。 選評 選考委員の奥泉光さんの会見は、NHK…
おめでたい語り手 主人公は、歴史研究部に所属する高校2年生です。 主人公が一人で課外研究をしていると、大阪弁で話す中年の男と出会います。 大阪弁の男は胡散臭そうなのですが、歴史に詳しく、博識です。 男は、まだ世に出ていない幻の書物を探していまし…
どこか遠くに行きたい 28歳の主人公は、メッセンジャーとして働いています。 メッセンジャーとは、都心を自転車で走り回り、配達物を届る仕事です。 主人公は、一日の走行距離が100キロを超える日が続き、転倒してしまいます。 この仕事は食わないと死ぬ。二…
記憶や時間について語り合う大学生 大学生の主人公は、映画を撮るため、車で鳥取を目指しています。 映画の舞台は鳥取砂丘 映画の内容は、世界が終わるときに残った4人の会話劇 主人公の他に、男性2名、女性1名います。歳は違いますが全員大学生です。 横浜…
別の生き物になりたい 主人公は30歳の女性。仕事終わりにジムで筋トレに励んでいます。 フィットネス感覚ではなく、徹底的に体を鍛える、ガチな筋トレです。 スミスとは、筋トレマシンの名前です。 バーベルの左右にレールがついたトレーニング・マシンであ…
痛々しいが憎めない登場人物 主人公は、娘のために存在すると言っても過言ではない母親です。 今、私には娘だけがいる。まずやるべきこと。娘のために朝食を用意する。(中略)娘を産んでから、娘の朝食の用意を忘れたことはいちどもない、いちども。 主人公…
第166回芥川賞候補作発表 2021年12月17日、芥川賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、2021年1月19日(水)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめ、受賞予想をいたします。 石田夏穂『我が友、スミス』(すばる11月号) 初の候補入りです。 同作で…
離婚前の別居期間 主人公は、自分の不貞(不倫)の約1年後、妻から離婚を切り出されます。 5歳の娘がいて、妻は妊娠8か月でした。 妻は、主人公に言います。 半年間の別居をして、その後、正式に離婚したい。 5歳の娘のために、妻は半年間の猶予期間を設けた…
第165回芥川賞受賞作発表 2021年7月14日(水)、芥川賞の受賞作が発表されました。 ダブル受賞です。 石沢麻依『貝に続く場所にて』 貝に続く場所にて 作者:石沢麻依 講談社 Amazon 李琴峰『彼岸花が咲く島』 彼岸花が咲く島 作者:李 琴峰 文藝春秋 Amazon …
震災で行方不明になった知人 主人公の女性は、ドイツのゲッティンゲンに住み、論文を書いています。 そこに、東日本大震災で行方不明になった知人が来ます。大学のときに、主人公と同じ研究室に所属していた男性で、9年ぶりの再会です。 話しぶりや様子を見…
三月十二日を忘れない 主人公の女子高生は、東日本大震災を経験しました。 2011年(被災、美術部での活動) 2016年~2021年(仙台での大学生活、フリーペーパーの編集者) 高校で美術部に所属する主人公は、高校最後のコンクールで「滝」を描きます。主人公…
風呂に入らない夫 35歳になる夫は、 風呂には、入らないことにした と、主人公に宣言します。 なぜ、風呂に入らないのか、わかりません。 夫に聞いても、 くさくない? (中略) あとちょっと痛い と、よくわからない理由です。 夫は以前、ずぶ濡れで会社か…