いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

芥川賞

第172回芥川賞受賞作発表、選評(2024年下半期)の感想

第172回芥川賞受賞作発表 2025年1月15日(水)、芥川賞の受賞作が発表されました。 ダブル受賞です。 DTOPIA 作者:安堂ホセ 河出書房新社 Amazon ゲーテはすべてを言った 作者:鈴木 結生 朝日新聞出版 Amazon 『DTOPIA』は予想当たりましたが、『ゲーテはす…

『ダンス』竹中優子(著)の感想②【他人の家の風呂を借りる老夫婦】(新潮新人賞受賞、芥川賞候補)

他人の家の風呂を借りる老夫婦 感想①はこちらです。 他人の家の風呂を借りる旅をしてる老夫婦の話が、ちょっとしたエピソードで出てきます。 本書を読んだ後にも、どこか頭に残ってました。 不動産屋で働く青年の、子どもの頃に起きた話です。 小学生の彼が…

【芥川賞予想】第172回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2024年下半期)

第172回芥川賞候補作発表 2024年12月12日(木)、芥川賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、2025年1月15日(水)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめ、受賞予想をいたします。 安堂ホセ『DTOPIA』文藝秋季号 『ジャクソンひとり』(第168回候補…

『ゲーテはすべてを言った』鈴木結生(著)の感想【名言の出典を求めて】(芥川賞候補)

名言の出典を求めて 主人公は、ドイツ文学を研究する大学教授です。 日本におけるゲーテ研究の第一人者とされてます。 主人公が学生時代、ドイツに留学してたときに、隣人の美大生は言いました。 ドイツ人はね(中略)名言を引用するとき、それが誰の言った…

『DTOPIA』安堂ホセ(著)の感想【睾丸を摘出する少年】(野間文芸新人賞候補、芥川賞候補)

睾丸を摘出する少年 「DTOPIA」の読み方は、「デートピア」です。 「DTOPIA」は、配信の恋愛リアリティーショーの番組名です。 舞台は、フランス領ポリネシアのボラ・ボラ島。 ヒロインの女性一人を巡って、多様な国から集められた男性10人が競います。 フラ…

『字滑り』永方佑樹(著)の感想【文字が消えて使えなくなる現象】(芥川賞候補)

文字が消えて使えなくなる現象 字滑り(じすべり)とは、突然、文字が消えて使えなくなる現象です。 例えば、漢字やひらがなやカタカナが、消えて、使えなくなります。 見る・聞く・話す言葉が、消えます。 どの言葉が消えたり、使えなくなったりするのかは…

『二十四五』乗代雄介(著)の感想【リアリティのあるなし】(芥川賞候補)

リアリティのあるなし 主人公は、弟の結婚式に出るために、新幹線で仙台へ行きます。 新幹線から降りるとき、就活帰りの女子大生から声を掛けられます。 タイトルにもあるとおり、主人公は、24、5歳の女性です。 女子大生は、自分の読みたかった漫画を主人公…

『ダンス』竹中優子(著)の感想①【馴染めてない人たち】(新潮新人賞受賞、芥川賞候補)

馴染めてない人たち まず一文目が良いです。 今日こそ三人まとめて往復ビンタをしてやろうと堅く心に決めて会社に行った。 「三人まとめて」、「往復」ビンタに、私は引きつけられました。 三人まとめてってどういうことだろう ただのビンタではなく往復ビン…

第171回芥川賞受賞作発表、選評(2024年上半期)の感想

第171回芥川賞受賞作発表 2024年7月17日(水)、芥川賞の受賞作が発表されました。 ダブル受賞です。 サンショウウオの四十九日 作者:朝比奈秋 新潮社 Amazon バリ山行 作者:松永K三蔵 講談社 Amazon 『サンショウウオの四十九日』は予想当たりましたが、『…

【芥川賞予想】第171回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2024年上半期)

第171回芥川賞候補作発表 2024年6月13日(木)、芥川賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、7月17日(水)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめ、受賞予想をいたします。 朝比奈秋『サンショウウオの四十九日』新潮5月号 初の候補入りです。 『植…

『サンショウウオの四十九日』朝比奈秋(著)の感想②【オムライスはオムレツの誤植か】(芥川賞受賞)

オムライスはオムレツの誤植か 感想①はこちらです。 ある一場面について、誤植なのか気になりました。 瞬 私 父 が、いる場面です。 瞬は、オムレツとオムライスを作ってます。 オムレツは自分用、オムライスは父用です。 料理ができた後、 瞬は父にオムライ…

『サンショウウオの四十九日』朝比奈秋(著)の感想①【結合双生児の双子姉妹】(芥川賞受賞)

結合双生児の双子姉妹 主人公は、結合双生児で、双子の姉妹です。 私たちは、全てがくっついていた。顔面も、違う半顔が真っ二つになって少しずれてくっついている。結合双生児といっても、頭も胸も腹もすべてがくっついて生まれたから、はたから見れば一人…

『海岸通り』坂崎かおる(著)の感想【ニセモノのバス停】(芥川賞候補)

ニセモノのバス停 「海岸通り」とは、バス停の名前です。 老人ホームの敷地にあります。 しかし、そのバス停に、バスは停まりません。 偽物のバス停です。 主人公は、老人ホームで派遣の清掃員をしています。 偽物のバス停をみがきます。 バス停は偽物でも、…

『いなくなくならなくならないで』向坂くじら(著)の感想【迷惑な居候】(芥川賞候補)

迷惑な居候 タイトルに驚きます。 「いなくならないで」の間に、 なく:否定 ならなく:否定 があります。 いなく(なく)(ならなく)ならないで。 いなくならないでの否定の否定なので、 結果としては、いなくならないで、でしょうか。 とはいえ、 なく な…

『バリ山行』松永K三蔵(著)の感想【本当の危機】(芥川賞受賞)

本当の危機 読み方は、バリ山行(さんこう)です。 読む前は、バリ山に行く話だと思ってました。 全然違いました。 主人公は、建物の外装を修繕する会社に転職して2年。 前の会社から紹介してもらって、今の会社に勤めました。 前の会社には、首を切られた形…

『転の声』尾崎世界観(著)の感想②【無観客ライブ】(芥川賞候補)

無観客ライブ 感想①はこちらです。 転売の仕掛人(カリスマ転売ヤー)は、無観客ライブを企画します。 客を入れない ボーカルはステージに立たない、歌わない 配信もしない チケットは売る 私にはわかりません。 配信なしで客を入れないのに、チケットを売る…

『転の声』尾崎世界観(著)の感想①【転売されたいバンドボーカル】(芥川賞候補)

転売されたいバンドボーカル タイトル「転の声」は、転売にも使われるSNSアプリの通称名です。 「転」は、転売からきてるのでしょう。 主人公は、バンドのボーカルです。 生放送のテレビの音楽番組(Mステを想起させる)に、初登場します。 デビュー当初はそ…

第170回芥川賞受賞作発表、選評(2023年下半期)の感想

第170回芥川賞受賞作発表 2024年1月17日(水)、芥川賞の受賞作が発表されました。 九段理江『東京都同情塔』 東京都同情塔 作者:九段理江 新潮社 Amazon 私の予想ははずれました。 受賞予想はこちらです。 選評 選考委員の吉田修一さんの会見は、NHKの記事…

【芥川賞予想】第170回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2023年下半期)

第170回芥川賞候補作発表 2023年12月14日(木)、芥川賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、2024年1月17日(水)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめ、受賞予想をいたします。 安堂ホセ『迷彩色の男』文藝秋季号 第168回の候補『ジャクソンひと…

『アイスネルワイゼン』三木三奈(著)の感想【自分に都合の悪いことを隠す】(芥川賞候補)

自分に都合の悪いことを隠す 「アイスネルワイゼン」は、夜想曲「ツィゴイネルワイゼン」をもじった曲です。 どうしてもじったのか、結局聞きそびれてしまいました とあるとおり、理由はわかりません。 主人公は32歳の女性で、ピアノ講師をしています。 以前…

『猿の戴冠式』小砂川チト(著)の感想【人と猿の交流】(芥川賞候補)

人と猿の交流 主人公は、女子競歩の選手です。 テレビ中継された大会で、失格になります。 失格になった主人公は、バッシングを受けます。 故意による妨害に見えたからです。 主人公は、家に引きこもります。 競歩のコーチも母も、頼りになりません。 コーチ…

『東京都同情塔』九段理江(著)の感想【新宿御苑に建つ刑務所】(芥川賞受賞)

新宿御苑に建つ刑務所 「東京都同情塔」とは、新宿に建つ、新しい刑務所のことです。 正式名称は、「シンパシータワートーキョー」。 受刑者が服役する場所です。 塔は、スカイツリー、東京タワーに次ぐ高さの建物です。 建築家である主人公は、自問します。…

『Blue』川野芽生(著)の感想【トランスジェンダーの物語】(芥川賞候補)

トランスジェンダーの物語 本作は、特集「トランスジェンダーの物語」として、『すばる』に掲載されました。 トランスジェンダーとは、 生まれつきの身体的性別と、自分が認識する性別(性自認、ジェンダー・アイデンティティ)が異なる人々の総称。(日本大…

『迷彩色の男』安堂ホセ(著)の感想【誰のことか】(野間文芸新人賞候補、芥川賞候補)

誰のことか 描かれるのは、私の体験したことのない世界です。 しかしこの世界には、既視感があります。 同じ著者の前作『ジャクソンひとり』 千葉雅也さんの作品 と似ていると思いました。 物語が似ているというわけではありません。 黒人と日本人のハーフ …

『ハンチバック』市川沙央(著)の感想【ご指摘いただいた点について】(文學界新人賞、芥川賞受賞)

ご指摘いただいた点について 本書について、以前読書メーターで感想を書きました。一部抜粋します。 ラストのわかりにくさの原因は、主人公と同じ名前の女性が、女子大生で風俗で働いてるからだろう。病気で入院してる今までの話は何だったのかと。 この感想…

『ジャクソンひとり』安堂ホセ(著)の感想【敵と見なす勇気】(文藝賞受賞、芥川賞候補)

敵と見なす勇気 ジャクソンは、アフリカのどこかの国と日本のハーフで、ゲイです。 日本で言うところの、マイノリティの中のマイノリティ。 ジャクソンに似ている人間が、他に3人集まります。 4人が集まった場所で、4人の心情も描かれるので、これは誰の心情…

『最高の任務』乗代雄介(著)の感想【最高の任務とは何か】(芥川賞候補)

最高の任務とは何か 前回読んだときの感想(2019年12月)はこちらです。 そのときも、最高の任務とは何だろうと、思っていた気がします。 しかしそこには触れずに、書きやすそうなところを選んで感想を書いています。 最近は、わからないことはわからないと…

『ハンチバック』市川沙央(著)の感想②【殺すために孕もうとする障害者】(文學界新人賞受賞、芥川賞受賞)

殺すために孕もうとする障害者 芥川賞を受賞したので再読しました。 前回読んだときの感想はこちらです。 主人公は、嫌っています。 例えば、ものに対して。 博物館や図書館や、保存された歴史的建造物が、私は嫌いだ。完成された姿でそこにずっとある古いも…

【芥川賞予想】第169回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2023年上半期)

第169回芥川賞候補作発表 2023年6月16日(金)、芥川賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、7月19日(水)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめ、受賞予想をいたします。 石田夏穂『我が手の太陽』群像5月号 第166回の候補『我が友、スミス』に続…

『エレクトリック』千葉雅也(著)の感想②【ないはずのものがある】(三島賞候補、芥川賞候補)

ないはずのものがある 感想①はこちらです。 主人公の父は、独立して広告代理店を営んでいます。 メインの仕事は、地元のスーパーマーケットの折り込みチラシの作成です。 父の経営は、そのスーパーに依存しています。 スーパーマーケットから契約を打ち切ら…