殺すために孕もうとする障害者
芥川賞を受賞したので再読しました。
前回読んだときの感想はこちらです。
主人公は、嫌っています。
例えば、ものに対して。
博物館や図書館や、保存された歴史的建造物が、私は嫌いだ。完成された姿でそこにずっとある古いものが嫌いだ。壊れずに残って古びていくことに価値のあるものたちが嫌いなのだ。
それは、主人公自身の身体に関連します。
生きれば生きるほど私の身体はいびつに壊れていく。(中略)健常者のかかる重い死病とは決定的に違うし、多少の時間差があるだけで皆で一様に同じ壊れ方をしていく健常者の老化とも違う。
健常者に対しても、嫌悪してる気がします。
本を読むたび背骨は曲がり肺を潰し喉に孔を穿ち歩いては頭をぶつけ、私の身体は生きるために壊れてきた。
生きるために芽生える命を殺すことと何の違いがあるだろう。
生きるために芽生える命を殺すとは、堕胎のことです。
主人公は、
殺すためには孕もうとする障害者がいてもいいんじゃない?
と自問します。
疑問形ですが、主人公は、殺すために孕んでも良いと判断しているでしょう。
孕む手段として、男性ヘルパーにお金を払って、妊娠させてもらおうとします。
1億5500ではどう
と主人公は言います。健常者である男性ヘルパーの身長が155センチなので、1億5500万円です。
ヘルパーと合意が取れ、いざ本番というとき、主人公は、
先に飲ませてください
(中略)精子
と言います。ヘルパーの、
まずいですよ
の返答に対して、主人公は、
味が不味いですよなのか、2度も出せないからまずいですよなのか判然としない言い方だった
と言っているので、2度も出せない可能性も考慮しています。
なのに、主人公はどうして先に飲ませてくださいと言ったのでしょうか。
主人公は、お金を払いたくなくなったわけでも、妊娠したくなくなったわけでもなさそうです。
- 妊娠は次回以降でも良いと思った
- ヘルパーと親密になりたくなった
- 単純に飲んでみたいという好奇心
3だと思いました。
飲んだ結果、主人公はせき込み、死にそうになります。
ヘルパーはその場を去り、二度目はありませんでした。
ただ、ここで諦める主人公ではないと思います。
ヘルパーに1億5500万円払って、妊娠し、堕胎し、主人公の願いが叶った先に何があるのか、私は見たいです。
男性職員は他にもいます。
主人公は諦めないでしょう。
市川さんに、主人公の続きを書いてほしいと思いました。
殺すために孕もうとする障害者が、孕んだ結果、どうなるのか。
本書は、楽しい読書にはなりませんでした。
主人公の憎みが、主人公という口を媒介した作者の憎みに聞こえてしまい、私は好きではありませんでした。
ただ、この憎しみは切実で、響きます。
続編を期待します。