特殊能力なしで異世界転生
主人公は、異世界に転生しますが、チート能力はありません。
特殊能力は与えられず、前世の記憶もありません。
お金もなく、携帯もありません。
携帯という言葉が何を意味しているのかすら、主人公は覚えていません。
何も知らない街「グルムガル」に転生した主人公は、何もできません。
しかし生きるために、パーティを組んで、ゴブリンを狩ります。
主人公たちが食っていくためには、ゴブリンを狩るしかありませんでした。
6人のパーティで、1匹のゴブリンを襲います。
最弱と言われるゴブリンでも、主人公たちにとっては強いです。
パーティのリーダーが、メンバーに呼びかけます。
みんな、これは命のやりとりなんだ
俺たちも、相手も
ゴブリンだって、真剣なんだ
これ以上ない真剣勝負なんだ
どんな生き物だって死にたくないだろ
ゴブリンの方から、主人公たちを襲う描写はありません。
しかし主人公たちは、食うために、ゴブリンを狩る必要があります。
生活しているゴブリンを襲うのですが、6対1でも簡単にはいきません。
主人公たちの息が上がります。
ゴブリンも必死で食らいつきます。
リアルな肉弾戦。食うか食われるか、命のやりとりです。
相手の骨を突いた感触に気持ち悪さを感じたり、ナイフで刺され首を絞められたときに、死がよぎったりします。
ゴブリンにとどめを刺すときは、まるで人を殺してるかように見えました。
武器を連続で突き刺し、息の根を止めます。
ゴブリンを初めて殺したメンバーの目からは、涙が溢れます。
動物を殺したときに溢れる感情は、こうかもしれないと思いました。
勝利した喜びではなく、自分も逆の立場になり得た恐ろしさや、相手を倒した安堵感、動物を殺した罪悪感でいっぱいになる。
今日は生き伸びたかもしれませんが、明日は死ぬかもしれません。
ある日、メンバーの一人が殺されます。
死体を焼くと知った主人公から出た言葉は、
それも、金取られるんですか
仲間の死は痛いです。それなのに、金も取られるのかというやるせなさが伝わります。
タイトルにある「灰」は、仲間の死体を焼いたときの灰でしょう。
死は身近にあります。いつ、誰が殺されてもおかしくありません。
では、タイトルの「幻想」とは何か。
「幻想」の「グルムガル」なので、幻想的な街の意味かと思いましたが、実際「グルムガル」は、死と隣り合わせの現実的な街です。
水墨画や印象派の絵画のようなタッチで描かれた街は、幻想的です。
「幻想」が、「灰」=死の対比だとすると、「幻想」=生で、生活を示しているのかもしれません。
殺すか殺されるかの戦いの後、メンバーの一人は、女子風呂を覗きます。
また、ゴブリンを狩って得た、なけなしの金で、衣服や食べ物を買います。
死と隣り合わせの状況でも、生活が描かれています。
生活が描かれているからか、自分の状況とリンクさせてしまいます。
- 今と同じ状況で異世界に転生させられたら、生きていけるか
- 刃物を持ったゴブリンと戦えるか
生きるか死ぬかの戦いをする必要のない、私の今の環境が、いかに恵まれているか、再認識させられました。
もし、主人公の転移した世界にゴブリンがいなかったら、主人公たちは生きるために、どうしたでしょうか。
平和に生きているゴブリンを狩っていることから、人間から金品をせしめていた可能性も、考えられます。
それはもう、仕方のないことと割り切って。