いっちの1000字読書感想文

平成生まれの社会人。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

野間文芸新人賞

『しをかくうま』九段理江(著)の感想【本物の競馬実況】(野間文芸新人賞受賞)

本物の競馬実況 「シヲカクウマ」は、馬の名前で、競馬の出走馬です。 主人公は、「シヲカクウマ」のファンです。 「シヲカクウマ」だけでなく、主人公は馬を愛しています。 馬を愛するがゆえ、主人公はTV局のアナウンサーになりました。 我々が今、実際に目…

『迷彩色の男』安堂ホセ(著)の感想【誰のことか】(野間文芸新人賞候補、芥川賞候補)

誰のことか 描かれるのは、私の体験したことのない世界です。 しかしこの世界には、既視感があります。 同じ著者の前作『ジャクソンひとり』 千葉雅也さんの作品 と似ていると思いました。 物語が似ているというわけではありません。 黒人と日本人のハーフ …

『教育』遠野遥(著)の感想【小説はなんでもあり】(野間文芸新人賞候補)

小説はなんでもあり 小説はなんでもありと、思わせてくれる作品でした。 主人公は、全寮制の学校の学生です。 この学校では、一日三回以上オーガズムに達すると成績が上がりやすいとされていて、学校側から生徒にポルノ・ビデオが供給される。 どんな学校? …

『日曜日の人々』高橋弘希(著)の感想【自助グループの存在意義】(野間文芸新人賞受賞)

自助グループの存在意義 「日曜日の人々」とは、自助グループの冊子です。 自助グループとは、悩みや問題を抱えた人たちが集まる場です。 冊子には、メンバーの個人的な体験が書かれています。 拒食症 窃盗癖 不眠症 など、自身の悩みや問題が書かれています…

第44回野間文芸新人賞受賞作発表(2022年)の感想

第44回野間文芸新人賞受賞作発表 2022年11月4日(金)、野間文芸新人賞の受賞作が発表されました。 受賞作は、町屋良平さんの『ほんのこども』です。 ほんのこども 作者:町屋良平 講談社 Amazon 感想はこちらです。 私の予想では、『ほんのこども』に○をつけ…

『くるまの娘』宇佐見りん(著)の感想②【装丁の女性に顔がない理由】(野間文芸新人賞候補)

装丁の女性に顔がない理由 感想①はこちらです。 装丁はこちら。 背後に、メリーゴーランド 手前に、制服を着た女性 メリーゴーランドは、作中、家族で訪れる遊園地にあります。 制服を着た女性は、女子高生の主人公でしょう。 メリーゴーランドの前に主人公…

『祝宴』温又柔(著)の感想【娘に同姓の恋人がいたら】(野間文芸新人賞候補)

娘に同姓の恋人がいたら 主人公は、67歳になった今も、会社のプロジェクトを統括するビジネスマンです。 中国 台湾 日本 を行き来します。 妻と娘2人は日本にいて、下の娘の結婚式(祝宴)に出席しました。 結婚式の夜、37歳の上の娘は言います。 かのじょの…

『くるまの娘』宇佐見りん(著)の感想①【車で生活する女子高生】(野間文芸新人賞候補)

車で生活する女子高生 『かか』(文藝賞受賞、三島賞受賞、野間文芸新人賞候補) 『推し、燃ゆ』(芥川賞受賞) に続き、著者の3作目です。 出す作品すべて、何かしらの賞にノミネートされており、相当な実力です。 初めて宇佐見さんの作品を読む方なら、文章力…

『ケチる貴方』石田夏穂(著)の感想【仕事のコツを新人に教えるか】(野間文芸新人賞候補)

仕事のコツを新人に教えるか タイトルから、「ケチな人間」を非難する作品だと思いました。 タイトルに「貴方」があるので、ケチな旦那を非難する話とか。 全く違いました。ケチなのは、主人公自身です。 備蓄用タンクの設計と施工を請け負う会社に勤める 7…

【野間文芸新人賞予想】第44回候補作発表(2022年)

野間文芸新人賞候補作発表 2022年9月27日、野間文芸新人賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、2021年11月4日(金)です。 以下、候補作をまとめ、受賞予想をいたします。 『ケチる貴方』石田夏穂 初の候補です。 群像 2022年 03 月号 [雑誌] 講…

『ほんのこども』町屋良平(著)の感想【誰の何のための小説か】(野間文芸新人賞候補)

誰の何のための小説か 私小説に近いフィクションとして読みました。 物語をたどるよりも、小説とは何かを考える読書体験でした。 メインの登場人物は、以下のとおり。 私(著者:町屋良平) あべくん(小学校時代の同級生) 町屋さんは、19歳のときにあべく…

『ここはとても速い川』井戸川 射子(著)の感想【見逃してはいけない言葉】(野間文芸新人賞受賞)

見逃してはいけない言葉 主人公は、大阪の児童養護施設で暮らす小学5年生です。 主人公の視点で語られます。 祭りで買ったアメリカンドッグを食べていると、 根もとが白なった短い茶髪の毛が出てきた。引き抜いて、なかったことにするために大急ぎで食べ終わ…

『鳥がぼくらは祈り、』島口大樹(著)の感想【一人称内多元視点】(群像新人賞受賞、野間文芸新人賞候補)

一人称内多元視点 書き方が特殊です。 「ぼく」が使われているので、「ぼく」の視点から描かれている作品かと思いきや、他の登場人物の視点からも描かれます。 例えば、 山吉が振り向いて遣った視線の先にいたのはぼくだった というように、視点が「ぼく」で…

【野間文芸新人賞】第43回候補作発表(2021年)

野間文芸新人賞候補作発表 2021年9月29日、野間文芸新人賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、2021年11月4日(木)です。 以下、候補作をまとめます。 『ここはとても速い川』井戸川射子 初の候補です。 ここはとても速い川 作者:井戸川 射子 講…

「乗代雄介×保坂和志 対談」の感想【野間文芸新人賞受賞時の対等な対談】

野間文芸新人賞受賞時の対等な対談 乗代雄介さんが『本物の読書家』で野間文芸新人賞を受賞されたときの対談です。 対談当時(2018年)、乗代さんは学習塾のアルバイトをしていました。 週三、四で仕事をしています。主に小学生相手の塾講師で、低学年から高…

『本物の読書家』乗代雄介(著)の感想【ミステリー純文学】(野間文芸新人賞受賞)

ミステリー純文学 主人公は、母から3万円を貰う代わりに、老人ホームへ向かう大叔父に同行します。 経路は上野駅から高萩駅までで、電車で向かいます。 主人公が、遠い親戚の大叔父から、 彼に送り届けてもらいたい と指名されたのは、自分が読書家だからと…

『草の上の朝食』保坂和志(著)の感想【会話、性欲、愛】(野間文芸新人賞受賞)

会話、性欲、愛 前作『プレーンソング』に退屈さを感じていたのに、続編である本書を手に取ってしまいました。 『プレーンソング』の感想はこちらです。 なぜ本書を読んだかというと、数々の文学賞を受賞し、後の作家に影響を与えている保坂さんの作品を、「…

『遮光』中村文則(著)の感想【虚言癖の青年の記録】(野間文芸新人賞受賞)

虚言癖の青年の記録 著者の中村さんは、巻末の解説で、 不条理に対して、勝てる見込みのない抵抗を試みた、一人の虚言癖の青年の記録 と書いています。 大学生の主人公は、恋人を交通事故で亡くします。 主人公は、彼女の死を受け入れられません。 病院で彼…

【野間文芸新人賞予想】第42回候補作発表(2020年)

野間文芸新人賞候補作発表 2020年10月1日、野間文芸新人賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、2020年11月2日(月)です。 以下、候補作をまとめます。 『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』李龍徳 第38回の候補『報われない人間は永遠に報われな…

『星の子』今村夏子(著)の感想【いじめられない理由】(野間文芸新人賞受賞、芥川賞候補)

いじめられない理由 主人公は、中学3年生の女子です。 両親は、ある宗教を信仰しています。 きっかけは、主人公が幼い頃にできた湿疹でした。 両親がどんな手を尽くしても、湿疹は良くなりません。 損害保険会社で働く父親が、何気なく同僚に口にしたところ…

『デッドライン』千葉雅也(著)の感想【3回読んでもわからなかった】(野間文芸新人賞受賞、芥川賞候補、三島賞候補)

3回読んでもわからなかった 芥川賞、野間文芸新人賞の候補のときに2回 今回三島賞候補で1回 計3回読みました。 前回読んだときの感想はこちらです。 わからないことが多い小説です。 例えば、主人公が「○○くん」と呼ばれていること。固有名詞が与えられてい…

『pray human』崔実(著)の感想【話を聞いてくれた人のことは忘れない】(三島賞候補、野間文芸新人賞候補)

話を聞いてくれた人のことは忘れない 27歳の主人公は、精神病院で同室だった「君」に、語ります。 主人公が17歳、「君」が22歳のときに、二人は精神病院で出会いました。 主人公が「君」に語る内容は、 現在の主人公の話 同じ精神病院に入院していた「安城さ…

『暗渠の宿』西村賢太(著)の感想【臆病さゆえのDV男】(野間文芸新人賞受賞)

臆病さゆえのDV男 30歳過ぎの主人公は、6歳下の女性と同棲します。 この主人公が、清々しいクズっぷりです。 300万円を彼女の親から借りる 彼女をパートに行かせ、主人公は働きに出ない 彼女の料理の段取りの悪さ(ラーメンの味が違う、麺をゆですぎ)に暴言…

『日曜日の人々』高橋弘希(著)の感想【自傷する若者の集まり】(野間文芸新人賞受賞)

自傷する若者の集まり 「日曜日の人々」とは、自助グループのメンバーが書いた原稿を、まとめた冊子です。 そのグループは、病を語れる場所があればというきっかけでできました。 活動場所は、ワンルームマンションの一室です。 原稿をメンバーの前で読んだ…

『かか』宇佐見りん(著)の感想【かか弁という新しい方言】(文藝賞受賞、三島賞受賞、野間文芸新人賞候補)

かか弁という新しい方言 「かか」とは、母親です。 「かか弁」は、母親の使う独特な言葉です。 東北弁ではなく、博多弁でも関西弁でもありません。 最初は読みにくいですが、次第にこの語りに慣れます。 かかは、ととの浮気したときんことをなんども繰り返し…

第41回野間文芸新人賞受賞作発表(2019年)の感想

第41回野間文芸新人賞受賞作 2019年11月6日(水)に発表されました。ダブル受賞です。 古谷田奈月『神前酔狂宴』 神前酔狂宴 作者: 古谷田奈月 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2019/07/11 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 千葉雅也『デ…

【野間文芸新人賞予想】第41回候補作発表(2019年)

野間文芸新人賞候補作発表 2019年10月1日、野間文芸新人賞の候補6作品が発表されました。 受賞作の発表は、2019年11月6日(水)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめます。 古谷田奈月『神前酔狂宴』 『無限の玄/風下の朱』に続き、2回連続の候補です。 神…

『如何様』高山羽根子(著)の感想【戦争から帰ったら別人に】(野間文芸新人賞候補)

戦争から帰ったら別人に 戦争は人を変えると言います。 その言葉どおり、戦争から帰ってきた男の見た目が、別人になっていました。 見た目は明らかに別人なのに、男の両親も、男の妻も、さほど気にしていません。 むしろ、帰ってきたのがありがたいと、男の…

『前立腺歌日記』四元康祐(著)の感想【ユーモアな前立腺がん闘病記】(野間文芸新人賞候補)

ユーモアな前立腺がん闘病記 前立腺がんの闘病記と聞くと、シリアスかつ下の話が多いのではと、思うかもしれません。 ですが、ユーモアです。(下の話が多いのは否定しません) 手術の場合の後遺症って、なんなんですか? と私は訊いた。 主に尿漏れと性的不…

『神前酔狂宴』古谷田奈月(著)の感想【披露宴の滑稽さを高めるため全力で働く男】(野間文芸新人賞受賞)

披露宴の滑稽さを高めるため全力で働く 神前酔狂宴を文字どおり読むと、神の前で酔い狂う宴。 主人公は、結婚披露宴の会場の派遣スタッフです。 結婚披露宴って何?(中略)なんでみんな、結婚を披露するの?(p.40) そう思いながら、時給が高いので働いて…