小説はなんでもあり
小説はなんでもありと、思わせてくれる作品でした。
主人公は、全寮制の学校の学生です。
この学校では、一日三回以上オーガズムに達すると成績が上がりやすいとされていて、学校側から生徒にポルノ・ビデオが供給される。
どんな学校? って感じです。
テストも奇妙です。
個室でカードを選ぶというテストで、その成績により階級が分かれます。
階級によって、部屋のランク(キングベッド、セミダブル、2人部屋、大部屋)が決まります(主人公は2人部屋です)。
私は、『教育』が文藝という雑誌に掲載されたとき、冒頭だけ読みました。
冒頭のAVのインタビューシーンで、読むのをやめました
遠野さんは、性的描写を多用する作家で、前作『破局』もそうでした。
デビュー作『改良』は面白いけど、『破局』は……
という印象でしたが、先日『破局』を読んで、面白いと感じました。
読み手次第で、いかようにも面白く読める小説でした。
『教育』も読めるのではないかと思い、読み始めたら、一気に読めました。
面白かった。何がって、やっぱり文章ですね。
奇妙な設定(一日三回以上オーガズムに達すると成績が上がりやすい、個室でカードを選ぶテストによって階級が決められる)は、単なるパッケージです。
以前の私は、パッケージだけ読んで、挫折しました。
本作は、ストーリーではなく、文章を読ませます。
性的描写が多いからと敬遠していましたが、文章を読み始めると、最後までするすると読めてしまいます。
主人公の思考は、『破局』や『改良』に似ています。
真夏と付き合えば、真夏以外の人間とはセックスができないからだ。それは浮気になり、真夏を悲しませるからだ。私は真夏以外の人間ともセックスをしたかった。
倫理観に忠実に行動を決めるところが、前作に似ています。
学校の制度に疑問を持ち始める生徒に、主人公は言います。
テストに意味がないといけないのか? それに、意味があるかどうかを判断するのは先生たちで、俺たちじゃない。というか、俺たちは授業やテストを受けることで、食事や寝るところを与えられているんだから、意味はあるんじゃないか
この学校の教育の目的は、明言されません。
本作のテーマや主張は、煙に巻かれている感じです。
読者側で読み取るしかない。いや、読み取る必要はないかもしれません。
タイトルと同じ「教育」が出てくる場所を引用してみます。
学校の制度が、外部から問題視されているという噂を知ったときの発言です。
誰かが刑務所かどこかの画像を持ちだしてこれが学校の実態だと騒ぎ立てると、騙されて閉鎖するべきだと言い出す。まともな教育を受けてこなかったんでしょうね
「まともな教育」=「実態を知ってから自分で判断する」だとして、この学校で行われている教育は、まともとは言えません。
個室でカードを選ぶテストは、直観的な要素が多く、思考力や判断力を取り入れにくいです。
生徒たちはどこに向かっているのか、学校は生徒たちをどうしたいのか、わかりません。
ただ、それらもどうでもいいのかもしれません。
読者が本を手に取って、最後まで面白く読んだら、本や作者の目的は達成されているといえるでしょう。
私は、次作『浮遊』を読もうと思っていますし、遠野さんが新作を出したら、読もうと思っています。