第165回芥川賞候補作発表
2021年6月11日、芥川賞の候補5作品が発表されました。
受賞作の発表は、2021年7月14日(水)です。
以下、候補作と掲載誌をまとめ、受賞予想をいたします。
石沢麻依『貝に続く場所にて』(群像6月号)
初の候補入りです。
同作で群像新人文学賞を受賞しました。
感想はこちらです。
くどうれいん『氷柱の声』(群像4月号)
初の候補入りです。
感想はこちらです。
高瀬隼子『水たまりで息をする』(すばる3月号)
初の候補入りです。
感想はこちらです。
千葉雅也『オーバーヒート』(新潮6月号)
第162回の候補『デッドライン』に続いて、2度目の候補です。
感想はこちらです。
李琴峰『彼岸花が咲く島』(文學界3月号)
第161回の候補『五つ数えれば三日月が』に続いて、2度目の候補です。
感想はこちらです。
受賞予想
受賞作を○△×で予想しました。
- 石沢麻依『貝に続く場所にて』:△
- くどうれいん『氷柱の声』:△
- 高瀬隼子『水たまりで息をする』:×
- 千葉雅也『オーバーヒート』:△
- 李琴峰『彼岸花が咲く島』:○
『水たまりで息をする』は、
- 主人公の主観的な視点が多いのに、三人称で書かれていること
- 最後、主人公の夫の行方を隠して終わること
に引っかかりました。
『水たまりで息をする』高瀬隼子(著)の感想【風呂に入らない夫】(芥川賞候補)
『貝に続く場所にて』は、
- 文章が丁寧で目に浮かぶ描写
- 現在の街に、過去の建造物や人物が溶け込む幻想的な風景
は良いのですが、自ら行動しない主人公に魅力を感じませんでした。
『貝に続く場所にて』は、以前、芥川賞の候補になった高尾長良さんの『音に聞く』に、似ている部分を感じました。芸術の街を舞台に、静謐な雰囲気を漂わせる作風が似ています。
『音に聞く』の文章は、選考委員に「回りくどい」「衒学的」と評されたので、『貝に続く場所にて』も同じような指摘を受ける気がします。
『貝に続く場所にて』石沢麻依(著)の感想【震災で行方不明になった知人】(芥川賞候補)
『氷柱の声』は、前作の芥川賞受賞作『推し、燃ゆ』に作風が近いので、受賞の可能性はありますが、
- 自分の考えが正義だと疑わない主人公
- 被害者意識が強い登場人物
に、押し付けがましさを感じました。
『氷柱の声』くどうれいん(著)の感想【三月十二日を忘れない】(芥川賞候補)
『オーバーヒート』は、前作『デッドライン』の続編です。『デッドライン』で芥川賞候補になったものの受賞を逃しましたが、
- 『デッドライン』で野間文芸新人賞
- 『マジックミラー』で川端康成文学賞
を受賞しており、勢いそのままに受賞の可能性はあります。本作は『デッドライン』より哲学要素が少なくなって、文章は読みやすくなっています。
ただ、男性同士の性描写が生々しく、私は苦手でした。
『オーバーヒート』千葉雅也(著)の感想【『デッドライン』のその後】(芥川賞候補)
『彼岸花が咲く島』は、
- 架空の島の世界観を作り上げている
- 歴史と言語を織りまぜながら、主人公の成長を描いている
- 主人公を支える周りの登場人物にも魅力がある
点で、受賞の可能性の高い作品だと思いました。
『彼岸花が咲く島』李琴峰(著)の感想【正しいと思うことをする】(三島賞候補、芥川賞候補)
私の予想は、
- 李琴峰『彼岸花が咲く島』
の単独受賞です。
前回までの芥川賞の予想結果は、以下のとおりです。
第164回:宇佐見りん『推し、燃ゆ』はずれ
第163回:高山羽根子『首里の馬』当たり、遠野遥『破局』はずれ
第162回:古川真人『背高泡立草』当たり
第161回:今村夏子『むらさきのスカートの女』当たり
第165回芥川賞の結果発表、選評の感想はこちらです。