正しいと思うことをする
主人公の少女は、流れ着いた島で、記憶をなくしていました。
島の海岸には、彼岸花が咲いています。
主人公を発見したのは、同い年くらいの少女でした。彼女の話す言葉を、主人公は理解できません。
「ノロ」という役割を担った女性たちが、島を統治していました。
「ノロ」は女性だけに与えられた役割で、歴史の継承者であり、島の指導者の名称です。
島では、
- 女性だけが話す言葉(男性には使えない言葉)がある
- 女性だけが担える役割(島の歴史の継承など)がある
- 産まれた子供は、父母が育てるのではなく、引き取り手を探して育てる
- 「ノロ」と男性は一緒に住まない
などの風習があります。
どこから流れ着いたかわからない主人公は、「ノロ」のトップである「大ノロ」から、島を出ていくよう言われます。
記憶を失っている主人公は、どこに帰ればいいかわかりません。
少女や少女のオヤ(血のつながりのない親)が「大ノロ」を説得し、主人公はなんとか島流しを免れます。
ですが、「大ノロ」から条件を言い渡されます。
<島>の言葉を身につけなさい。そして<島>の歴史を背負って、ずっと<島>で生きていきなさい
島から追い出されはしませんでしたが、努力して「ノロ」になることが、主人公の生きる唯一の道でした。
少女も「ノロ」になる目標があったので、主人公と少女はノロを目指します。
少女には、島の風習に疑問を持つ男友達がいました。
島の歴史を知りたい男友達は、
- 女性しか話せない言葉あること
- 女性しか「ノロ」になれないこと
- 女子しか島の歴史を知ることができないこと
に疑問を持っています。
主人公や少女も同じ疑問を持っていました。なぜ、女性と男性で差があるのか――。
主人公、少女、男友達の3人は、島の風習を変えていこうと、決意します。
主人公や少女が「ノロ」になって島の歴史を知ったら、男友達に伝えると、約束します。
ですが、島の歴史を知った主人公と少女は、男友達に伝えることを躊躇します。
島の風習(歴史を担う「ノロ」が女性しか認められないこと)の理由が、男性たちの一方的な統治によるものだったからです。
「大ノロ」は言います。
国の方針を決めて、民衆を導く偉い人たちは、ほとんど男だったんだ。それだけじゃあない。歴史の担い手もまた男だった。歴史を作る人も、歴史を語る人も、全て男だった。 男たちは野蛮だったんでね、繰り返し繰り返し、醜い争いをし、戦をやった。
島の住人の先祖は、別の場所から追い出され、流れ着いた者たちだったとわかります。
何もないこの島では、彼岸花による貿易だけが、他の島から物資を調達できる頼りの綱です。
主人公と少女は悩みます。男友達に島の歴史を伝えて、同じ過ちを繰り返してしまわないだろうかと。
主人公は、悩みを洗いざらい「大ノロ」に打ち明けます。
「大ノロ」は言います。
何が正しいか、私にも分からん
島で一番偉い人でも、分からないことが多いと言うのです。
主人公と少女は、
正しいと思うことをすればいいんじゃないかな
と、結論付けます。
正しいことではなく、自分が正しいと思うこと、です。
正しいかどうかなんて、やってみなければ分からないからでしょう。
主人公と少女は、男友達に島の歴史を伝えることを決めます。
その結果、どうなるかはわかりません。
万が一、歴史を伝えたことで同じ過ちを繰り返すことにつながっても、
その時はその時に考えればいい
と、前向きです。
読んでいる間、私は島の住人の一人である感覚がありました。
場所(島)の世界観がはっきりしている作品なので、物語の世界に没入できます。
読み終わった今は、主人公や少女が男友達に歴史を伝えた結果、うまくやっていけているだろうかと考えています。
うまくいかないことがあっても、その時に考えながら、3人でやっていけるんだろうなと、私は微笑ましく島の未来を感じています。
調べた言葉
- 得心(とくしん):納得すること
- しんがり:最後尾
- さんざめく:大声でにぎやかに騒ぐ
- 紺碧(こんぺき):黒みがかった濃い青色
- 峻厳:きわめて厳しいこと
- 手ずから:自ら
- 告解(こっかい):自らの罪を明かす行為
- 嫣然(えんぜん):女性がにっこり笑うさま