第34回三島由紀夫賞受賞作
三島賞の受賞作が、2021年5月14日(金)に発表されました。
受賞作は、乗代雄介の『旅する練習』です。
感想はこちらです。
『旅する練習』は、前回の芥川賞で候補になりましたが、惜しくも受賞を逃しましたので、三島賞で評価されて良かったと思いました。
私の三島賞の受賞予想では、『旅する練習』に△をつけていましたので、外れました。
受賞予想は、李琴峰さんの『彼岸花が咲く島』でした。
選考委員の川上未映子さんの会見によると、選考経過は、
- 『旅する練習』
- 『リリアン』
- 『彼岸花が咲く島』
が1回目の投票で残り、決選投票で
- 『旅する練習』:3票
- 『彼岸花が咲く島』:2票
となり、『旅する練習』に決まったようです。
『水と礫』が決選投票に進まなかったのは意外でした。
『水と礫』について、
語りの内容のスケールが小さいのではないか
6代にわたって書かなければならなかったという手ごたえが欲しかった
という意見があったそうです。
『旅する練習』について、
しっかりと構造を作られた
リアリズムの部分とノートの部分、それから構造が持っているメタフィクション、3つを最後まで高いレベルで機能させた
という点が評価されたそうです。
『彼岸花が咲く島』について、
最後島の歴史が明らかになるところがあって、そこから張りつめて作り上げてきたものが失速する、語るに落ちるというふうになってしまった
最後駆け足になってしまう、しかもダイイングメッセージ的に処理されてしまうところがもったいない
という意見があったそうです。
私は、『彼岸花が咲く島』の最後に失速したとは感じませんでした。むしろ緊迫した語りに感じました。
最後、ダイイングメッセージ的に処理されていると言われれば確かにそうかもしれませんが、最初から兆候はあったので、ダイイングメッセージの必然さは感じました。
『彼岸花が咲く島』は、2021年で一番読んで良かった小説(2021年5月15日時点)なので、次回の芥川賞候補になってリベンジしてほしいです。
乗代さんは、野間文芸新人賞を受賞していますので、芥川賞を受賞したら、純文学の新人賞の三冠を達成します。
三冠を達成した作家は、最近だと
- 村田沙耶香さん
- 今村夏子さん
です。ちなみに三冠を獲った男性作家はいないようです。
乗代さんはいずれ芥川賞を受賞しそうですので、男性初の三冠はありえるでしょう。
『旅する練習』、受賞して良かったです。