いっちの1000字読書感想文

一応平成生まれ。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

小説

【野間文芸新人賞予想】第42回候補作発表(2020年)

野間文芸新人賞候補作発表 2020年10月1日、野間文芸新人賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、2020年11月2日(月)です。 以下、候補作をまとめます。 『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』李龍徳 第38回の候補『報われない人間は永遠に報われな…

『星の子』今村夏子(著)の感想【いじめられない理由】(野間文芸新人賞受賞、芥川賞候補)

いじめられない理由 主人公は、中学3年生の女子です。 両親は、ある宗教を信仰しています。 きっかけは、主人公が幼い頃にできた湿疹でした。 両親がどんな手を尽くしても、湿疹は良くなりません。 損害保険会社で働く父親が、何気なく同僚に口にしたところ…

第33回三島由紀夫賞受賞作発表(2020年)の感想

第33回三島由紀夫賞受賞作 2020年9月17日(木)に発表されました。 『かか』宇佐見りん(著)です。最年少での受賞だそうです。 かか 作者:宇佐見りん 発売日: 2019/11/14 メディア: 単行本 感想はこちらです。 正直、受賞するとは思いませんでした。 予想で…

『朝顔の日』高橋弘希(著)の感想【死に近づく妻を受け入れる】(芥川賞候補)

死に近づく妻を受け入れる 時代は戦時中、主人公の妻は、若くしてTB(肺結核)にかかります。 高台にある病院に入院しており、医師は、安静が第一だと言います。 安静というのは、身体も、精神も、静けさを保つことです。安静と善き眠り、栄養と清浄なる空気…

『送り火』高橋弘希(著)の感想【無意識な差別意識】(芥川賞受賞)

無意識な差別意識 主人公は、東京から青森に転校した、中学3年生の男子生徒です。 父の転勤による転校で、高校進学のときには、首都圏に戻れる予定です。 つまり青森は、一時的な仮住まいでしかありません。 転校先の中学校には、主人公含め、男性生徒は6人…

『モモ』ミヒャエル・エンデ(著)の感想【時間は命】

時間は命 「モモ」は主人公の名前です。 親や兄弟はいなく、町のはずれにある劇場跡に一人で住む、浮浪少女です。 モモは「相手の話を聞く」ことに長け、彼女のそばには人が集まります。 モモの話を聞き方は、 じっとすわって、注意ぶかく聞いているだけです…

『タイマイ異聞』古川真人(著)の感想【耳を傾けてしまう変わった話】

耳を傾けてしまう変わった話 「タイマイ」とは、ウミガメの一種である亀、 「異聞(いぶん)」とは、変わった話、珍しい話のことです。 「タイマイ」が関わる、変わった話です。 変わった話とはいえ、何か大きな出来事が起こるわけではありません。 酔っ払っ…

『死亡のメソッド』町屋良平(著)の感想【芸能ゴシップ記者と死ぬ演技がうまい俳優】

芸能ゴシップ記者と死ぬ演技がうまい俳優 主人公はシステムの営業をしていましたが、鬱症状をきっかけに1年ちょっとで辞め、芸能ゴシップ記者になります。 芸能ゴシップ以外にも、 俳優のエキストラ YouTuber ダンス をしています。 主人公が俳優のエキスト…

『海がふくれて』高橋弘希(著)の感想【海辺に住む高校生の夏休み】

海辺に住む高校生の夏休み 主人公は、浜辺の街に住んでいる、17歳の女子高生です。 付き合っている彼氏は、同じ高校で、近所に住む幼なじみです。彼に面と向かって「好きだから付き合って下さい」と言われ、主人公は恋に落ちました。 幼少期から殆ど毎日顔を…

『宿酔島日記』古川真人(著)の感想【酔いつぶれる小説家の日常】

酔いつぶれる小説家の日常 主人公は、兄と同居する小説家です。 年齢は30歳過ぎで、古川さん本人に近いですが、あくまで小説です。 主人公がなぜ日記を書くのかというと、 二日酔いのひどいとき、なにもできずに一日を漫然と送る言い訳として、「余は如何に…

『とんこつQ&A』今村夏子(著)の感想②【仕事ができない人を雇い続ける店】

仕事ができない人を雇い続ける店 感想①はこちらです。 主人公は「いらっしゃいませ」が言えません。注文を取りに行くことも、空いたお皿を下げることも、できません。 普通なら、すぐクビでしょう。 ですが、町の中華料理屋「とんこつ」の大将や息子は、クビ…

『とんこつQ&A』今村夏子(著)の感想①【メモを読み上げる店員】

メモを読み上げる店員 「とんこつ」は町の中華料理屋です。 メニューに「とんこつラーメン」はありません。 なぜ、店の名前が「とんこつ」かというと、元々店の名前は「とんこう」で、店の看板の「う」の上部分がはがれ、とんこ「つ」に見えたからです。 店…

『彼女は頭が悪いから』姫野カオルコ(著)の感想②【集団わいせつ事件に発展した理由】

集団わいせつ事件に発展した理由 感想①はこちらです。 サークルの普通の飲み会だったはずが…… なぜ、強制わいせつ事件に発展してしまったのでしょう。 キーパーソンは、東大生のつばさ(被害者美咲が恋した男)です。 つばさが他の東大生たちを止めていれば…

『彼女は頭が悪いから』姫野カオルコ(著)の感想①【東大生集団わいせつ事件】

東大生集団わいせつ事件 現実の事件をもとにした小説です。 主要人物は2人。 加害者の東大生「つばさ」 被害者の女子大生「美咲」 美咲は、偏差値48の大学に通っています。タイトルの「頭が悪い」彼女です。 彼女は、計算高い女性には見えません。東大生に対…

『太陽の側の島』高山羽根子(著)の感想【戦時中の不思議な体験】(林芙美子文学賞受賞)

戦時中の不思議な体験 戦地に行った夫 日本で待つ妻 の手紙のやりとりがメインです。 手紙では、お互いの不思議な体験が交わされます。 夫:戦地での体験 妻子:内地での体験 夫は、南の島らしき場所で、現地の土地を耕しています。 日本との違いに、夫は違…

『土に贖う』河﨑秋子(著)の感想【三島賞候補】(繁栄し衰退した産業の歴史)

繁栄し衰退した産業の歴史 北海道を舞台に、繁栄・衰退した産業の歴史が描かれます。 描かれる産業は、 養蚕 ミンクの養殖 ハッカ油の生産 馬の装蹄 レンガ工場 などです。 それぞれが、一つの短編として構成された短編集です。 短編ごとに関連性はありませ…

『デッドライン』千葉雅也(著)の感想【3回読んでもわからなかった】(野間文芸新人賞受賞、芥川賞候補、三島賞候補)

3回読んでもわからなかった 芥川賞、野間文芸新人賞の候補のときに2回 今回三島賞候補で1回 計3回読みました。 前回読んだときの感想はこちらです。 わからないことが多い小説です。 例えば、主人公が「○○くん」と呼ばれていること。固有名詞が与えられてい…

『pray human』崔実(著)の感想【話を聞いてくれた人のことは忘れない】(三島賞候補、野間文芸新人賞候補)

話を聞いてくれた人のことは忘れない 27歳の主人公は、精神病院で同室だった「君」に、語ります。 主人公が17歳、「君」が22歳のときに、二人は精神病院で出会いました。 主人公が「君」に語る内容は、 現在の主人公の話 同じ精神病院に入院していた「安城さ…

『湯治』高橋弘希(著)の感想【体の傷と心の傷を癒す一人旅】

体の傷と心の傷を癒す一人旅 総合商社に勤める34歳の主人公は、足柄の民宿へ、湯治に行きます。 少年時代に、鉄棒から落ちたときの膝の古傷を癒すためです。 妻は会社を休めなかったので、主人公は一人で旅に出ます。 湯治に行くことにしたのは、同僚に勧め…

『うどん キツネつきの』高山羽根子(著)の感想【タイトルの意味】(創元SF短編賞佳作)

タイトルの意味 タイトルに、ぞわぞわします。 「うどん キツネつきの」 倒置法です。 「キツネつきのうどん」ではありません。 なぜ、倒置法なのか 「キツネ」はうどんに乗せる揚げなのか さらに副題が付けられています。 「Unknown Dog Of Nobody」 「誰に…

第163回芥川賞受賞作発表、会見、選評(2020年上半期)の感想

第163回芥川賞受賞作発表 2020年7月15日(水)、芥川賞の受賞作が発表されました。 ダブル受賞です。 高山羽根子『首里の馬』 遠野遥『破局』 首里の馬 作者:高山羽根子 発売日: 2020/07/27 メディア: Kindle版 破局 作者:遠野遥 発売日: 2020/07/04 メディ…

『逃亡者』中村文則(著)の感想【悪魔の楽器トランペット】

悪魔の楽器トランペット フリージャーナリストの主人公は、熱狂と称されるトランペットを隠し持っていました。 そのトランペットは、第二次世界大戦中、劣勢だった日本軍を熱狂させ、米軍に奇襲を食らわせたという逸話がありました。 魔力的な音色を奏でるト…

『猿を焼く』東山彰良(著)の感想【選択肢を増やす重要性】

選択肢を増やす重要性 「猿を焼く」、強烈なタイトルです。 俊満はその猿を角材で殴り殺した。それでおしまいのはずだった。でもそれではぼくの気がすまなかった。 ぼく(主人公)の気がすまなかったから、猿を焼きました。 猿を焼いた動画を、俊満がインタ…

『リリアン』岸政彦(著)の感想【虫と呼ばれた女の子】

虫と呼ばれた女の子 30代後半の主人公は、音楽で生計を立てています。 夜の店で歌の伴奏 音楽教室の講師 で、月20万円くらい稼ぎます。 主人公が本当にやりたいのは、ジャズクラブでの演奏ですが、ギャラは1回1000円ほどなので、伴奏と講師が主な収入です。 …

『木になった亜沙』今村夏子(著)の感想【純粋に欲を追求した結果】

純粋に欲を追求した結果 主人公の亜沙は、自分が差し出した物を食べてもらいたいのですが、食べてもらえません。 例えば、 ひまわりの種:園児に、本当に食べられるものかと訝しがられる クッキー:小学生に、クッキー嫌いだからと突き返される というように…

『首里の馬』高山羽根子(著)の感想【わからないことは怖い】(芥川賞受賞、三島賞候補)

わからないことは怖い 主人公は、中学生のときから10年以上、沖縄の資料館で資料整理をしています。 公的な資料館ではなく、補助金などの収入もありません。 知人が人知れず、情報を蓄積した場所です。 主人公は、資料の整理を無償で行っているため、他に仕…

『アウア・エイジ(Our Age)』岡本学(著)の感想【塔の古い写真】(芥川賞候補)

塔の古い写真 40歳を過ぎた主人公は、離婚し、妻子と会わず数年経っていました。 ただひとり生存を続ける意義を見出せず、毎日を惰性に生きているようなていたらくだった。 そんな主人公のもとに、映画館から封書が届きます。 映写機の葬式をあげるから、ぜ…

『赤い砂を蹴る』石原燃(著)の感想【亡き母の代わりにブラジルへ】(芥川賞候補)

亡き母の代わりにブラジルへ 40代半ばの主人公は、亡き母の代わりに、母の友人とブラジルへ行きます。 母は、友人とブラジルに行くのを楽しみにしていました。 ですが、母に癌が見つかり、旅行どころではなくなりました。 母の友人は、ブラジルで育った日系…

『アキちゃん』三木三奈(著)の感想【大事なことを隠すズルさ】(文學界新人賞受賞、芥川賞候補)

大事なことを隠すズルさ 「アキちゃん」は、主人公が小学5年生のときの同級生です。 大人になった主人公が、過去を回想する形で、物語は進みます。 わたしはアキちゃんが嫌いだった。 (中略) これまでの人生において、これほど真剣に誰かを憎んだことはな…

『破局』遠野遥(著)の感想【不穏な語り手】(芥川賞受賞)

不穏な語り手 「信頼できない語り手」という言葉があります。 主人公の語りが信頼できなく(嘘のようで)、読み手を惑わすことです。 『破局』の語りは、信頼できないというより、読んでいると不穏を感じます。 主人公は、公務員試験を控えている大学4年生で…