いっちの1000字読書感想文

平成生まれの社会人。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

小説

『グレイスレス』鈴木涼美(著)の感想【なぜAV女優にならないのか】(芥川賞候補)

なぜAV女優にならないのか 「グレイスレス」の言葉の意味がわかりませんでした。 辞書では、 品のない 見苦しい 恐れのない 不快な など、多様な意味が書かれていました。 作中に「グレイスレス」という言葉は出てきません。 主人公は、AV業界で化粧の仕事を…

『異言』グレゴリー・ケズナジャット(著)の感想【与えられた役割を演じる】

与えられた役割を演じる 異言というタイトル。聞きなれない言葉です。 辞書には、 「その人の態度や事実と、言うこととが違うこと」 とあります。 主人公は、幼少のときに行った教会で、異言を目にします。 洗礼を受けた少女が、今までの態度と別人のように…

『鴨川ランナー』グレゴリー・ケズナジャット(著)の感想【京都に帰りたい】(京都文学賞受賞)

京都に帰りたい 主人公は、英語圏で生まれ育ちました。 きみが初めて京都を訪れたのは十六歳のときだ。この時点できみはすでに二年間、日本語を学習している。 本作は、「きみ」という二人称の語りです。 主人公は、 16歳で初京都 大学卒業後、英語を教える…

『開墾地』グレゴリー・ケズナジャット(著)の感想【故郷へ帰る意味】(芥川賞候補)

故郷へ帰る意味 『開墾地』というタイトル。一見とっつきにくいです。 辞書には、「山林や原野を切り開いた土地」とあります。 「開墾地」が意味するのは、 アメリカ(サウスカロライナ州)から上京した主人公 イランからサウスカロライナに渡った主人公の父…

好きな小説家は誰ですかという難問に答えてみる

好きな小説家は誰ですか? と、いきなり聞かれることは、ありません。 聞かれるには、順序があります。 「趣味は何ですか?」から始まり(そんな会話はほとんどありませんが)、 「読書です」や「小説を読むことです」と言った場合に(私は決して言いません…

第168回芥川賞受賞作発表と、近年の受賞作で一番良かった作品

第168回芥川賞受賞作発表 2023年1月19日(木)、芥川賞の受賞作が発表されました。 ダブル受賞です。 井戸川射子『この世の喜びよ』 この世の喜びよ 作者:井戸川射子 講談社 Amazon 佐藤厚志『荒地の家族』 荒地の家族 作者:佐藤厚志 新潮社 Amazon 受賞予想…

第168回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2022年下半期)

第168回芥川賞候補作発表 2022年12月16日(金)、芥川賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、2023年1月19日(木)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめます。 安堂ホセ『ジャクソンひとり』文藝冬季号 初の候補入りです。 同作で文藝賞を受賞しま…

『終わった人』内館牧子(著)の感想【終わらないためにどうするか】

終わらないためにどうするか 退職したら何をするか。 主人公は63歳で定年退職しました。会社勤めが「終わった人」です。 妻は美容院で働いています。 子どもは家を出て、家庭を持っています。 主人公には、やるべきことがありません。 やることがなくなって…

『点滅するものの革命』平沢逸(著)の感想【ビートルズ「レボリューション9」】(群像新人賞受賞)

ビートルズ「レボリューション9」 主人公は、5歳か6歳。来年小学校に入学します。 父親と二人暮らしで、父親は多摩川の河川敷で銃を探しています。 探している銃は父のものではありません。拾って報奨金をもらおうとしています。 父親は毎日河川敷に通ってお…

第44回野間文芸新人賞受賞作発表(2022年)の感想

第44回野間文芸新人賞受賞作発表 2022年11月4日(金)、野間文芸新人賞の受賞作が発表されました。 受賞作は、町屋良平さんの『ほんのこども』です。 ほんのこども 作者:町屋良平 講談社 Amazon 感想はこちらです。 私の予想では、『ほんのこども』に○をつけ…

『くるまの娘』宇佐見りん(著)の感想②【装丁の女性に顔がない理由】(野間文芸新人賞候補)

装丁の女性に顔がない理由 感想①はこちらです。 装丁はこちら。 背後に、メリーゴーランド 手前に、制服を着た女性 メリーゴーランドは、作中、家族で訪れる遊園地にあります。 制服を着た女性は、女子高生の主人公でしょう。 メリーゴーランドの前に主人公…

『祝宴』温又柔(著)の感想【娘に同姓の恋人がいたら】(野間文芸新人賞候補)

娘に同姓の恋人がいたら 主人公は、67歳になった今も、会社のプロジェクトを統括するビジネスマンです。 中国 台湾 日本 を行き来します。 妻と娘2人は日本にいて、下の娘の結婚式(祝宴)に出席しました。 結婚式の夜、37歳の上の娘は言います。 かのじょの…

『くるまの娘』宇佐見りん(著)の感想①【車で生活する女子高生】(野間文芸新人賞候補)

車で生活する女子高生 『かか』(文藝賞受賞、三島賞受賞、野間文芸新人賞候補) 『推し、燃ゆ』(芥川賞受賞) に続き、著者の3作目です。 出す作品すべて、何かしらの賞にノミネートされており、相当な実力です。 初めて宇佐見さんの作品を読む方なら、文章力…

『ケチる貴方』石田夏穂(著)の感想【仕事のコツを新人に教えるか】(野間文芸新人賞候補)

仕事のコツを新人に教えるか タイトルから、「ケチな人間」を非難する作品だと思いました。 タイトルに「貴方」があるので、ケチな旦那を非難する話とか。 全く違いました。ケチなのは、主人公自身です。 備蓄用タンクの設計と施工を請け負う会社に勤める 7…

【野間文芸新人賞予想】第44回候補作発表(2022年)

野間文芸新人賞候補作発表 2022年9月27日、野間文芸新人賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、2021年11月4日(金)です。 以下、候補作をまとめ、受賞予想をいたします。 『ケチる貴方』石田夏穂 初の候補です。 群像 2022年 03 月号 [雑誌] 講…

『MISSING 失われているもの』村上龍(著)の感想③【人生最大の失敗】

人生最大の失敗 感想①はこちらです。 感想②はこちらです。 村上龍さんの私小説的小説として読みました。 本書では、主人公の人生最大の失敗が語られています。 よって、村上さんの人生最大の失敗として、読めてしまいます。 わたしは独り暮らしだ。貧乏学生…

『MISSING 失われているもの』村上龍(著)の感想②【『初恋と美』とデビュー作】

『初恋と美』とデビュー作 感想①はこちらです。 本作を、村上龍さんの私小説的小説として読みました。 主人公は、中学生のとき、作文で賞を受賞します。 タイトルは『初恋と美』です(ちなみに村上さんも、同じタイトルでPTA新聞の市長賞をもらっているよう…

『MISSING 失われているもの』村上龍(著)の感想①【私小説的小説】

私小説的小説 金原ひとみさんが、 『文藝 2022年秋季号』の 「私小説的小説10」 で本書を選んでいたので、私小説に近い小説として読みました。 実際、私小説に近いと感じました。例えば、 主人公が、佐世保市出身の小説家 章のタイトルに「ブルー」があり、…

『ビニール傘』岸政彦(著)の感想【居場所を失ったら生きていけないのか】(芥川賞候補、三島賞候補)

居場所を失ったら生きていけないのか 大阪が舞台。人物の視点がころころと切り替わります。 ときにはタクシー運転手の男性、ときにはガールズバーの女性。 視点の切り替わりは、一つの場所に居続けない人間みたいです。 コンビニ店員や美容師など、サービス…

『図書室』岸政彦(著)の感想【挨拶のいらない人間関係】(三島賞候補)

挨拶のいらない人間関係 主人公は50歳の女性。団地で一人暮らしです。 ある雨の日、猫がほしくなった主人公は、小学生の頃を回想します。 主人公は当時、母親と二人暮らし。猫もいました。 母はスナックで働いていて、帰りが遅いです。 主人公は放課後、家の…

『世界の終わりの終わり』佐藤友哉(著)の感想②【まじめに働いていても愚民】

まじめに働いていても愚民 感想①はこちらです。 主人公は、売れない作家です。 二年ほどかけて六作の長編小説を書いたが、どれも出版部数がふるわず、講談社から出版することができなくなった。 講談社という出版社名まで出ています。 講談社は、著者がデビ…

『世界の終わりの終わり』佐藤友哉(著)の感想①【金原ひとみ「私小説的小説10」】

金原ひとみ「私小説的小説10」 金原ひとみさんが、 『文藝 2022年秋季号』の 「私小説的小説10」 で本書を選んでいたので読みました。 厳密には、 金原さんが「私小説的小説10」で本書を取り上げ、 私が『世界の終わりの終わり』というタイトルに興味を持っ…

『カルチャーセンター』松波太郎(著)の感想②【オブセッションでは受賞できない】

オブセッションでは受賞できない 感想①はこちらです。 主人公のマツナミは、小説を書き、読み、合評するカルチャーセンターに通っています。 生徒たちは、受賞に向け、作品を書いています。 主人公は、回転寿司店の中で始まって終わる小説を書きました。 主…

『カルチャーセンター』松波太郎(著)の感想①【切迫した感情が煮詰まった作品】

切迫した感情が煮詰まった作品 私小説に近いフィクションとして読みました。 マツナミという登場人物は、著者本人だと思われます。 カルチャーセンターは、小説を書いて、読んで、合評するスクールです。 本書は三部構成で、 マツナミが語り手。カルチャーセ…

『ほんのこども』町屋良平(著)の感想【誰の何のための小説か】(野間文芸新人賞候補)

誰の何のための小説か 私小説に近いフィクションとして読みました。 物語をたどるよりも、小説とは何かを考える読書体験でした。 メインの登場人物は、以下のとおり。 私(著者:町屋良平) あべくん(小学校時代の同級生) 町屋さんは、19歳のときにあべく…

『私の推敲』町屋良平(著)の感想【私という小説家の極意】

私という小説家の極意 小説家の主人公には、お守りのように読み返している創作の指南書があります。 指南書の名前は、『私という小説家の極意』で、著者の名前は書かれていません。 指南書の著者が、編集者のタカハシクンに向けて話した内容を、タカハシクン…

『1000年後の大和人』松井十四季(著)の感想【保育園の運転手のぼやき】(三田文學新人賞受賞)

保育園の運転手のぼやき 主人公は保育園の運転手をしています。 鬼滅の刃とうっせぇわに辟易しながらバックミラーを見ると8人の保育園児が緑と黒の格子柄のマスクをしながらうっせーうっせーと叫んでいた。 一文目から飛ばしてます。語り口が面白く、引き付…

『遠い指先が触れて』島口大樹(著)の感想【失われた記憶を取り戻す】 

失われた記憶を取り戻す 主人公は、僕(男性)と私(女性)の2人です。 主人公の僕には、薬指と小指の指先がありません。 左手の薬指と小指は途中で止まっている。誰かの感覚を、ない指に感じる。 僕は幼い頃に、ウサギに噛まれたらしいです。 しかし、噛ま…

『ギフテッド』鈴木涼美(著)の感想【母の死に際】(芥川賞候補)

母の死に際 主人公は、飲み屋で働く20代後半の女性です。 歓楽街やコリアンタウンの近くに住んでいます。 母の要望で、母は主人公の部屋に移り住みます。 しかし、すぐに入院してしまいました。 母の命は長くないです。母に付き添うため、主人公は飲み屋を辞…

『家庭用安心坑夫』小砂川チト(著)の感想【坑道に立つマネキン人形を盗む】(群像新人賞受賞、芥川賞候補)

坑道に立つマネキン人形を盗む タイトルの「家庭的安心坑夫」とは何でしょうか。 作中には明言されていません。 関連しているのは、主人公の実家近くのテーマパークの坑道にいる、ツトムというマネキン人形のことです。 ツトムはその坑道の中腹に立っている…