いっちの1000字感想文

一応平成生まれ。主に読書感想文を書いてます。

小説

ムラ社会で耐えた君は 石倉真帆『そこどけあほが通るさかい』(群像新人賞受賞)の感想(1000字)

ムラ社会で耐える ムラ社会は人間関係が密です。 それが嫌ならムラを出ればいいのですが、主人公は学生なのでそうはいきません。 頭が良いわけでも、スポーツもできるわけでもない女子生徒です。 将来やりたいことがあるわけでもありません。 ただ今の環境が…

生きがいや夢がない人に 町屋良平『愛が嫌い』の感想(1000字)

生きがいや夢がない 何のために生きていますか。 に、明確に答えられる人って、そんないないと思います。 私は、ぼんやりと日々をやり過ごしています。 仕事嫌だなあ、早く帰りたいなあ、休みがいいなあ、というように。 29歳の主人公は、2年前に仕事を辞め…

人間をやるのが下手な人に 又吉直樹『人間』の感想(1000字)

人間をやるのが下手 『人間』というタイトル、強烈すぎます。 主人公も人間だし、登場人物もみな人間です。 では、このタイトルにある『人間』は、何を指すのでしょう。 自分を含めて僕達は人間をやるのが下手なのではないか。人間としての営みが拙いのでは…

人とうまく話せない 町屋良平『ぼくはきっとやさしい』の感想(1000字)

人とうまく話せない 突然、海や川に落とされたことはありますか? 主人公の男の子は、付き合った女の子に、海に落とされます。 インドで仲良くなった女の子には、川に落とされます。 弟の婚約相手には、ストーカー扱いをされ、内容証明が届きます。 主人公は…

手のひらで転がされる人間の抵抗 中村文則『掏摸』(大江健三郎賞受賞)の感想(1000字)

手のひらで転がされる人間の抵抗 行動を起こすのは、それをしたいからですよね。 その行動が、実は誰かの手の上だったら。 怖いですよね。 この作品には、他人の人生を手のひらで転がす人間が登場します。 他人の人生を、机の上で規定していく。他人の上にそ…

Happy Birthday and White Christmas 村上春樹『風の歌を聴け』(群像新人賞受賞)の感想(1000字)

Happy Birtday and White Christmas 『Happy Birthday and White Christmas』は、村上春樹さんが本作を応募したときのタイトルです。 受賞の段になり、タイトルが『風の歌を聴け』に変更されたそうです。 なぜ、変更されたのかはわかりません。 確かに『風の…

生きづらいと感じる人に 森絵都『カラフル』(産経児童出版文化賞)の感想(1000字)

人生は少し長めのホームステイ 生きづらさを感じるのは、多くを一人で抱え込みすぎているからかもしれません。 例えば、何かやるときに、相手がどう思うかを考えすぎると、誰とも関わらないのが一番になってしまいます。 どうしてそうなるんでしょう。 相手…

コミュニケーションが苦手なだけ 小川洋子『ことり』(芸術選奨文部科学大臣賞)の感想(1000字)

コミュニケーションが苦手な兄弟 小鳥の小父さん(おじさん)と呼ばれる人は、毎朝幼稚園の鳥小屋を掃除します。 彼は近所の幼稚園の小鳥たちを、二十年近くに亘って世話していた時期があった。誰に頼まれたわけでもない、全くの奉仕活動だった。その間にい…

やりたくない仕事を辞めた先に 金子薫『鳥打ちも夜更けには』の感想(1000字)

仕事のスタンスが異なる3人 やりたくない仕事、辞めますか? 続けますか? 舞台は、日本ではないどこかの島。 「架空の港町」と呼ばれる島で、「鳥打ち」という仕事をしている3人がいます。 鳥打ちは、観光資源の蝶を守るため、鳥を駆除します。 草むらに隠…

第161回芥川賞・直木賞作品発表、会見、選評(2019年上半期)の感想

芥川賞は、今村夏子『むらさきのスカートの女』 むらさきのスカートの女 作者: 今村夏子 出版社/メーカー: 朝日新聞出版 発売日: 2019/06/07 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 今村さんは受賞すると思っていなかったようです。 (受賞会見から)…

鼻につく窓拭きの青年 古市憲寿『百の夜は跳ねて』(芥川賞候補)の感想(1000字)

死と隣り合わせの仕事 前作『平成くん、さようなら』では、安楽死を望む青年の話でした。 本作の主人公は、窓拭きの仕事をしている青年です。 青年の耳には、死んだ先輩の声が聞こえます。こんなふうに。 そこで生まれてはいけないし、死んではいけない。そ…

教科書に載ってほしい 村上春樹『ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles』の感想(1000字)

教科書に載ってほしい 教科書に載ったら、国語の問いが変わるかもしれません。 国語の問いには、回答の正誤を論理的に判定できないものがあります。 例えば、以下のようなものです。 この文章に託されている、戦争についての作者の姿勢はどのようなものか 月…

さらりと読めるが、ざらりと残る 今村夏子『むらさきのスカートの女』(芥川賞受賞)の感想(1000字)

さらりと読めるが、ざらりと残る 今村夏子さんの作品は読みやすいです。 シンプルな言葉と気になる展開が、先へと読ませます。 ですが、読みやすい=あっさり、ではありません。 読み終わった後に起こる感情は、以下のようなものです。 結局何の話だったの?…

人とのつながりの大切さ 古川真人『ラッコの家』(芥川賞候補)の感想(1000字)

現実と思考の行き来 主人公のタツコは、アパートで一人暮らししている高齢の女性です。 夫に先立たれましたが、姪やその子どもがよく遊びに来ています。 彼女たちから、タツコはタッコという愛称で呼ばれています。 たわいもない会話が弾み、笑い声が絶えま…

大切な人が可哀そうであってほしい 李琴峰『五つ数えれば三日月が』(芥川賞候補、野間文芸新人賞候補)の感想(1000字)

5年間、会わずに思い続けること 5年間会わなかった人を、思い続けることができますか? この作品の主人公(女性)は、大学院時代から好意を寄せていた女性と、5年の月日を経て再会します。 その女性は結婚し、台湾で暮らしています。 日本で働く主人公は、彼…

書かれていない大事なこと 高山羽根子『カム・ギャザー・ラウンド・ピープル』(芥川賞候補)の感想(1000字)

読みやすいが難しい 『居た場所』に続き、芥川賞候補です。 前作同様、読みやすいです。 ですが、この作品が何を言いたいのか考え出すと、難しくなります。 本作は、主人公の幼少時代から社会人までを描いているのですが、 結局何が言いたいの? と、投げ出…

言いにくいことを人に伝えるときに 町屋良平『青が破れる』(文藝賞受賞)の感想(1000字)

ひらがな、カタカナを多用する文体 「あいつ、ながくないらしいんよ」 とハルオはいった。 ハルオの彼女の見舞いにいったかえりだった。 おれは、 「ビョーキ?」 ときいた。(p.9) 本来、漢字で書くところを、ひらがなやカタカナが使われています。 その文…

芥川賞予想 第161回芥川賞候補作発表・掲載誌まとめ(2019年上半期)

第161回芥川龍之介賞候補作決定 2019年6月17日、芥川賞の候補5作品が発表されました。 以下、候補作と掲載誌をまとめます。 今村夏子『むらさきのスカートの女』 第155回の候補『あひる』、第157回の候補『星の子』に続いて3度目の候補です。デビュー作の『…

生まれた子が重い皮膚病だったら 田村広済『レンファント』(文學界新人賞受賞)の感想(1000字)

子どもを可愛がれない 育児休暇を取った男性が、子の重い皮膚病と、妻との関係に悩みます。 妻は、子どもを可愛がっていました。 しかし、子が皮膚病とわかり、強い薬を塗っても治らない現状を見て、可愛がらなくなりました。妻の言葉です。 あんなに苦しん…

自意識過剰な地下アイドルの暴走 奥野紗世子『逃げ水は街の血潮』(文學界新人賞受賞)の感想(1000字)

地下アイドルの過剰な自分語り 地下アイドル、SNS、裏アカウントなどを素材に、一気に突っ走る文章です。 キモいオタは最悪。でもキモいオタから「顔かわいい料」をもらって生きているわたしはもっと最悪のイマジナリー便所。(p.14) 安いファミレスで、女…

引きこもりの青年と小学生が夜を越えてゆく 町屋良平『しずけさ』の感想(1000字)

なんとなく辞める 前作『ショパンゾンビ・コンテスタント』は、なんとなくピアノを辞めた大学生が主人公で、本作はなんとなく仕事を辞めた青年が主人公です。 共通点は、なんとなく。 挫折感や絶望を味わった末の決断ではなく、なんとなしの憂鬱と不眠で辞め…

才能がないとわかったときに 町屋良平『ショパンゾンビ・コンテスタント』(芥川賞受賞第一作)の感想(1000字)

才能がないとわかったときにどう生きるか 芥川賞の『1R1分34秒』は、ボクシングの話で、本作はピアニストの話です。 前作同様、主人公には才能がありません。今作は、愛もありません。 一方、主人公の友人には才能も愛もあります。 自分にないものを持ってい…

生きてていいんだと思える 中村文則『その先の道に消える』の感想(1000字)

暗い作品があっていい 中村文則さんの作品は、暗いものが多いです。 この作品も例外ではありません。 しかし私は、暗い=悪いとは思いません。 中村作品の暗さには、奥深さがあります。 ファッション的な暗さではなく、「生きるとは何か」「人間とは何か」と…

やられたらやり返すは悪か 伊坂幸太郎『サブマリン』の感想(1000字)

前作を読んでいなくても楽しめる Amazonの文庫ランキングで1位だったので手に取りました。 伊坂さんの小説『チルドレン』の続編です。 『チルドレン』の内容は忘れてしまいましたが、楽しく読めました。 以下に興味がある人におすすめです。 少年犯罪 復讐 …

魅力的な人物と数学と阪神タイガース 小川洋子『博士の愛した数式』(読売文学賞、本屋大賞受賞)の感想(1000字)

魅力的な人物、数学、阪神の融合 魅力的な人物の物語が好き 数学が好き 阪神が好き きれいな文章が好き あてはまる人は必読です。 純文学、エンターテインメントなどというつまらぬジャンル分けを豪快に粉砕している。文学には、よい文学とそうでない文学し…

人との距離感を考えたい人に 木村紅美『雪子さんの足音』(芥川賞候補、野間文芸新人賞候補)の感想(1000字)

野間文芸新人賞がきっかけ 普段あまり読まない新人賞ですが、2018年の受賞作、候補作が面白かったので、手を伸ばすことにしました。 受賞作、候補作はこちらです。(太字は読了) 金子薫『双子は驢馬に跨がって』(受賞) 乗代雄介『本物の読書家』(受…

健康と野球からジェンダーを考える 古谷田奈月『風下の朱』(芥川賞候補)の感想(1000字)

芥川賞候補作 受賞作は読むのですが、候補作はあまり手にとりません。 しかし、受賞作や候補作が面白かったので手を伸ばしました。 受賞作、候補作はこちらです。(太字は読了) 高橋弘希『送り火』(受賞) 古谷田奈月『風下の朱』 北条裕子『美しい顔』 町…

非現実を現実的に思わせる濃密な文章 古谷田奈月『無限の玄』(三島賞受賞)の感想(1000字)

野間文芸新人賞がきっかけ 私は芥川賞受賞作は読みますが、非公募型の純文学系新人賞の残り二つ、三島賞と野間文芸新人賞の作品はあまり読んできませんでした。 ですが、2018年の野間文芸新人賞受賞作が面白かったので、手を伸ばすことにしました。 受賞…

生きるのがしんどい人に 金原ひとみ『蛇にピアス』(芥川賞受賞)の感想(1000字)

デビュー作で芥川賞 『蛇にピアス』は、綿矢りさ『蹴りたい背中』とダブルで芥川賞を受賞しました。 綿矢さんは2作目であったのに対し、金原ひとみさんはデビュー作での受賞です。 解説の村上龍さんの『限りなく透明に近いブルー』もデビュー作で芥川賞を受…

音楽のように流れる文章を読みたい人に 綿矢りさ『インストール』(文藝賞受賞)の感想(1000字)

17歳で文藝賞受賞 綿矢りささんは、本書『インストール』で文藝賞(純文学系の新人賞の1つ)を受賞しました。 彼女が世に生み出した最初の作品です。 デビュー作というのは、作家の象徴だと思います。 1500から2000くらいの応募の中から選ばれる…