いっちの1000字読書感想文

一応平成生まれ。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

小説

『わからないままで』小池水音(著)の感想【選評を読んで】(新潮新人賞受賞)

選評を読んで 物語の章ごとに登場人物の人称が変わるので、読みにくさがあります。 例えば、1章で「父親」と書かれていた人物が、2章では「男」と書かれています。 章ごとに人称が変わることについて、選評で小山田浩子さんは、 効果よりもわかりづらさが勝…

『命売ります』三島由紀夫(著)の感想【死ぬのに疲れた主人公】

死ぬのに疲れた主人公 主人公が目を覚ますと、病院でした。 主人公は、自殺に失敗したことを知ります。 なぜ、自殺を図ったのかというと、 新聞の活字だってみんなゴキブリになってしまったのに生きていても仕方がない、と思ったら最後、その「死ぬ」という…

『完全な遊戯』石原慎太郎(著)の感想【胸糞悪いのか】

胸糞悪いのか ひどい話なのは確かです。 主人公と連れの男性が、夜中、バス停にいた女性を車に乗せ、車内でレイプ 部屋に連れて帰り、監禁し、他にも男を呼んで、輪姦 女性に飽き、帰る場所のない女性だとわかると、風俗店で働かせる 風俗の仕事ができないこ…

『わがままロマンサー』鴻池留衣(著)の感想【性に奔放な夫婦】

性に奔放な夫婦 一文目から強烈です。 妻の機嫌を治すために、男と寝ることになった。 妻の機嫌を損ねたのは、主人公が隠れて浮気をしたからです。 主人公は、著者本人に近しい、純文学の小説家です。ゲイやバイではありません。 BL(ボーイズラブ)漫画家で…

『火花』又吉直樹(著)の感想②【結果が出ないことに挑戦すること】(芥川賞受賞、三島賞候補)

結果が出ないことに挑戦すること 感想①はこちらです。 主人公も、慕っていた先輩芸人も、大して売れません。 では、芸人をしていたことは無駄だったのでしょうか。 必要がないことを長い時間をかけてやり続けることは怖いだろう? 一度しかない人生において…

『火花』又吉直樹(著)の感想①【人と違うことをせなあかん】(芥川賞受賞、三島賞候補)

人と違うことをせなあかん 売れない若手芸人である主人公が、同じく売れない芸人の先輩を慕います。 二人が出会ったのは、熱海の花火大会です。ビール瓶のケースで作った簡易な舞台で漫才をしますが、主人公のコンビは全くうけません。 先輩は、 仇とったる…

『踏切の向こう』高橋弘希(著)の感想【自殺した弟の代わり】

自殺した弟の代わり 男子高校生の主人公は、クリーニング屋で短期アルバイトを始めます。 そこで、主人公の志望大学に通う女子大生と出会います。 主人公が「英語が苦手」と話すと、その女子大生の家で、勉強会をすることになります。 彼女のアパートは、踏…

『草の上の朝食』保坂和志(著)の感想【会話、性欲、愛】(野間文芸新人賞受賞)

会話、性欲、愛 前作『プレーンソング』に退屈さを感じていたのに、続編である本書を手に取ってしまいました。 『プレーンソング』の感想はこちらです。 なぜ本書を読んだかというと、数々の文学賞を受賞し、後の作家に影響を与えている保坂さんの作品を、「…

『十七八より』乗代雄介(著)の感想【他の作品にはない】(群像新人賞受賞)

他の作品にはない 「17、8歳」の女子高生が主人公です。 主人公の回想で、 学校生活 家族と過ごす日常 叔母との会話 が描かれます。 回想形式の作品ですが、現在の主人公は、物語に登場しません。 私が、2年以上前に本書を読んだときの感想を、一部抜粋しま…

『推し、燃ゆ』宇佐見りん(著)の感想【選評を読んで】(芥川賞受賞)

選評を読んで 芥川賞の選評では、『推し、燃ゆ』の文章力への評価が高いです。 川上弘美さんは、 必要にして充分な描写の力 松浦寿輝さんは、 リズム感の良い文章 的確な筆遣い 小川洋子さんは、 推しとの関係が単なる空想の世界に留まるのではなく、肉体の…

『市街戦』砂川文次(著)の感想【吉祥寺での戦闘】(文學界新人賞受賞)

吉祥寺での戦闘 主人公は、自衛官勤務する前の、最後の訓練に参加しています。 装備をして、ある地点からある地点まで歩くという、行軍とよばれる訓練です。 訓練に参加しながら、主人公は大学時代に思いをめぐらせています。 大学時代の回想が何度も入るこ…

『書きあぐねている人のための小説入門』保坂和志(著)の感想②【感傷的な小説は害悪か】

感傷的な小説は害悪か 感想①はこちらです。 感傷的な作品について、保坂さんはネガティブにとらえています。 感傷的な文章やストーリーで書かれた小説は、ひたすら深刻なことばかりが書き連ねられている手記と同じようにベストセラーになることが多いけれど…

『プレーンソング』保坂和志(著)の感想【純文学というより素文学】

純文学というより素文学 保坂さんの『書きあぐねている人のための小説入門』が面白く、『プレーンソング』が多く引用されていたので、手に取りました。 ストーリー展開よりも、日常のありのままを描写しているような作風です。 エンタメとは対極です。 エン…

『書きあぐねている人のための小説入門』保坂和志(著)の感想①【小説を書くこととは】

小説を書くこととは タイトルに小説入門とありますが、簡単な内容ではありません。 冒頭、保坂さんは、 ここに書いてあることを全部マスターして、及第点を取ろうと思うような律儀な人は小説家にはなれない と、釘を刺します。 小説の書き方を学ぶノウハウ本…

『風力発電所』高橋弘希(著)の感想【イメージと現実のギャップ】

イメージと現実のギャップ 作家である主人公が、地元青森での会食に参加します。 編集者に誘われるまま出席した、学校長や大学教授、市議などとの会合です。 主人公は、「無料で会食料理が食えるなら」というモチベーションで参加します。 青森県はどこも財…

『遮光』中村文則(著)の感想【虚言癖の青年の記録】(野間文芸新人賞受賞)

虚言癖の青年の記録 著者の中村さんは、巻末の解説で、 不条理に対して、勝てる見込みのない抵抗を試みた、一人の虚言癖の青年の記録 と書いています。 大学生の主人公は、恋人を交通事故で亡くします。 主人公は、彼女の死を受け入れられません。 病院で彼…

『劇場』又吉直樹(著)の感想【第三者の介入で崩れる関係性】

第三者の介入で崩れる関係性 主人公は、売れない劇作家です。 家賃5万円を支払えず、専門学生の彼女の家に転がり込みます。 彼女の実家から送られた食材を食べる主人公は、 人の親から送られた食料を食べる情けない生きもの。子供の頃、こんな惨めな大人にな…

『ピンクとグレー』加藤シゲアキ(著)の感想【スターになった親友】

スターになった親友 主人公の親友が、芸能界でスターになります。 もとは主人公と同じ、エキストラでした。 きっかけは、親友がアドリブで言った、 さっきあっちに走っていったよ という一言で、俳優の仕事が増え、人気が出ます。 主人公は、人気俳優になっ…

第164回芥川賞受賞作発表、会見、選評(2020年下半期)の感想

第164回芥川賞受賞作発表 2021年1月20日(水)、芥川賞の受賞作が発表されました。 単独受賞です。 宇佐見りん『推し、燃ゆ』 推し、燃ゆ 作者:宇佐見りん 発売日: 2020/09/10 メディア: Kindle版 予想は、はずれました。予想はこちらです。 『推し、燃ゆ』…

『小隊』砂川文次(著)の感想【北海道がロシアから攻められる】(芥川賞候補)

北海道がロシアから攻められる 北海道がロシア軍に攻められます。 自衛隊に所属する主人公は、初めての戦闘で、部下を指揮しています。 迫りくるロシア軍に備え、主人公は、民間人の母子に避難するよう働きかけますが、うまくいきません。 どこにも身よりは…

『推し、燃ゆ』宇佐見りん(著)の感想【既視感のある通過儀礼】(芥川賞受賞)

既視感のある通過儀礼 推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。 で始まる物語は、勢いをそのままに、一気に駆け抜けます。 女子高生の主人公は、男女混合アイドルグループに所属する男性が、推しメンです。 推しが炎上し、 謝罪会見 グループ内選挙で推しが最…

『コンジュジ』木崎みつ子(著)の感想【ロックスターの配偶者】(芥川賞候補、すばる文学賞受賞)

ロックスターの配偶者 後半からの熱量が凄い作品です。 すばる文学賞の選評で、川上未映子さんは、 何よりもラストシーン。評価を忘れただ物語を読む者として深く胸打たれた と書いています。 主人公は11歳のとき、イギリスのロックバンドのボーカルに恋をし…

『旅する練習』乗代雄介(著)の感想【忍耐が限界を迎えると】(芥川賞候補)

忍耐が限界を迎えると 小説家の主人公と小学6年生の姪の、練習する旅です。 練習は、 主人公:風景を描くこと 姪:サッカーのドリブルとリフティング で、旅は、千葉の我孫子駅から鹿嶋市まで歩くことです。 姪は、歩きながらドリブルし、主人公が風景描写を…

『母影』尾崎世界観(著)の感想【純粋で繊細な言語感覚】(芥川賞候補)

純粋で繊細な言語感覚 主人公は、小学校低学年と思われる女の子です。 女の子の視点で語られるので、文章は柔らかく、読みやすいです。 部屋を区切るカーテンの手前で、主人公は、カーテンに映る影を見ています。 カーテンの向こう側では、母親はマッサージ…

2020年に読んで良かった本3選【小説】

2020年に読んで良かった本3選 2020年に読んだ小説で、良かった3冊を紹介します。 1『土に贖う』河﨑秋子(著) 土に贖う (集英社文芸単行本) 作者:河崎秋子 発売日: 2019/10/04 メディア: Kindle版 北海道で繁栄し、衰退した産業の歴史が描かれます。 描かれる…

『ふたりでちょうど200%』町屋良平(著)の感想【やさしい言葉でむずかしい内容】

やさしい言葉でむずかしい内容 『ふたりでちょうど200%』はパラレルワールドっぽい短編集です。 収録作品は、 『カタストロフ』 『このパーティ気質がとうとい』 『ホモソーシャル・クラッカーを鳴らせよ』 『死亡のメソッド』 で、『ふたりでちょうど200%』…

『水と礫』藤原無雨(著)の感想【小説の外に広がる世界】(文藝賞受賞)

小説の外に広がる世界 磯﨑憲一郎さんは選評で、 小説とは、作者の思想信条や問題意識を披露する場ではないし、溜め込んだ苦悩を吐露するための媒体でもない、具体性を積み上げることで自らの外側に広がる世界を照らし出し、作品という形で現前させる言語芸…

『首里の馬』高山羽根子(著)の感想【にくじゃが まよう からしの答え】(芥川賞受賞、三島賞候補)

選評を読んで 吉田修一さんは芥川賞の選評で、 高山さんはおそらく「孤独な場所」というものが一体どんな場所なのか、その正体を、手を替え品を替え、執拗に真剣に、暴こうとする作家 と書いています。 確かに、『首里の馬』の登場人物はみな孤独な場所にい…

【芥川賞予想】第164回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2020年下半期)

第164回芥川賞候補作発表 2020年12月18日、芥川賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、2021年1月20日(水)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめ、受賞予想をいたします。 宇佐見りん『推し、燃ゆ』(文藝秋季号) 初の候補入りです。 前作『かか…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』村上春樹(著)の感想【トラウマは掘り返さなくていい】

トラウマは掘り返さなくていい 主人公(多崎つくる)は、高校時代の親友4人(男2人、女2人)に、絶縁されます。 大学2年生のときでした。 理由を明かされず、親友たちから連絡を閉ざされます。 その結果、主人公は、死ぬことばかりを考え、死の淵をさまよい…