タイトルの意味
最初は読みにくかったです。
- 誰が誰か、わからない
- 誰が何を言ってるのか、わからない
途中で読むのをやめようかと思いました。
私は新人賞受賞作を読む際には、
- 受賞作
- 選評
の順で読みます。
なぜ、こんな読みにくい作品が受賞したのかを知りたいと思いました。
受賞作を読んでる途中で、選評を読みました。
選考委員の奥泉光さんは、
口語のリズムに乗って心地よく読み進められるわけではなく、(中略)この妙な長さと滞る文章に、作者のただならぬ才気――とも呼びにくい独自の表現への意欲を感じた。
金原ひとみさんは、
饒舌口語体でとんでもなく読みにくいぞ……(中略)最初の数十ページを超えたところで唐突に波長が合い始めグッと解像度が増し
堀江敏幸さんは、
最初はとっつきにくいのだが、ノイズキャンセリングしても漏れてくる会話にこちらの四肢が痺れて、徐々に心地よくなってくる。
選考委員の方々も、最初は読むのに苦戦されてることがわかりました。
私が苦戦するのも当然だと、もう少し辛抱強く読んでみようと思いました。
金原さんのように、最初に数十ページでは波長が合いませんでしたが、主人公が怪しいバイトに巻き込まれ始めてから、面白みを感じました。
私の波長が作品に合ったというより、作者である大田さんの手腕だと思いました。
明らかに、読みやすく書いてくれてます。最初でわざと読者をふるい落としてるまでありそうだと、勘ぐってしまいました。
主人公は高校2年生で、部活には入ってません。
不登校気味でどんくさくて、バイトはクビになります。
クラスメイトがすでにいない教室に入ったら、一学年下の見知らぬ女子生徒がいます。
女子生徒の仲間には、主人公が小学校時代の野球クラブで、バッテリーを組んでいた女子がいました。
小学校のとき、主人公がキャッチャーで、幼なじみの女子がピッチャー。
試合で負けたことのない二人でしたが、二人とも野球を辞めました。
高校生の今、主人公は帰宅部で、幼なじみは薬物売買に手を染めてます。
主人公も、幼なじみの仕事を手伝うようになります。
最初は何も知らないまま巻き込まれてた主人公でしたが、危ないバイトに手を染めてると気づいてからも、続けます。
捕まったり、怪我すんのより、じっと部屋で身をひそめてる時間のがこわい。
主人公は、野球を辞めてから、じっと部屋で身をひそめてきたのかもしれません。
おんなじ秘密を抱え合った別々の人間が、おんなじ煙で時間や空間をいぶしながら身を潜め、嵐が通り過ぎるのを待っていた。僕もそんな輪の一員なのか、どうもいまいち自信を持てなくて
同じ場所にいるから仲間だと言っていいのか、そこまでではないのかという微妙な関係。
幼なじみは、薬物売買の仕事について言います。
今はもう金じゃないっていうか、やっぱ間接的に愛を蒔いてる感覚で、まぁ金はリスクあるからそのぶんはもらっとくけど。
薬の売買が、愛を蒔いてる感覚とは新鮮でした。
薬を通じて、人と人とを固くつなげてるんだという自負を感じます。
リスクがある分、仲間同士の絆も深まります。
後戻りできなくなったときの主人公の心境に共感できます。
学校でみんなが経験しないことを自分はこなしてる、って得意な気持ちに浸って、クラスの人らを動物を見るみたいにながめてた。(中略)僕は学生のフリしたリスクと戦う透明人間なのにこいつらは恋愛受験バイト部活交尾勉強、くだらない、って一瞬でもそんな優越を頼もしく思った自分が恥ずかしい。
みんながやってないことややれてないことを、自分だけができてるという優越、それによる転落や思い上がり、が伝わります。
薬物を題材にしながら、恋愛や性描写がないのが良かったです。
友達でも恋人でもない、仲間という関係性が描かれていて、うらやましさを覚えました。
また、「みどりいせき」というタイトルの意味はなんだろうと思いました。
金原ひとみさんは、
「緑遺跡……?」と困惑したタイトルも全く別の意味として解読できるようになった。
と、金原さんは解読したようですが、私にはわかりませんでした。
強引な推測をします。
- 緑遺跡(薬物栽培の跡)
- みどりい咳(薬物による咳)
1は、幼なじみの兄は農家(おそらく薬物栽培)をしています。その農家が潰される暗喩として、緑遺跡。
2は、咳をする描写が多く、薬物による咳だから、みどりぃ咳。
やはりわかりません。
途中で終わってる感があるので、続編を読みたいです。
本作自体が続編らしいので、前日譚も読みたいです。