第170回芥川賞候補作発表
2023年12月14日(木)、芥川賞の候補5作品が発表されました。
受賞作の発表は、2024年1月17日(水)です。
以下、候補作と掲載誌をまとめ、受賞予想をいたします。
安堂ホセ『迷彩色の男』文藝秋季号
第168回の候補『ジャクソンひとり』に続き、2度目の候補です。
感想はこちらです。
川野芽生『Blue』すばる8月号
初の候補入りです。
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九段理江『東京都同情塔』新潮12月号
初の候補入りです。
『しをかくうま』で野間文芸新人賞を受賞しています。
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小砂川チト『猿の戴冠式』群像12月号
第167回の候補『家庭用安心坑夫』に続き、2度目の候補です。
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三木三奈『アイスネルワイゼン』文學界10月号
第163回の候補『アキちゃん』に続き、2度目の候補です。
感想はこちらです。
受賞予想
- 『迷彩色の男』×
- 『Blue』△
- 『東京都同情塔』△
- 『猿の戴冠式』○
- 『アイスネルワイゼン』△
『迷彩色の男』は、芥川賞候補になった『ジャクソンひとり』に、要素が似ています(ゲイ、黒人と日本人のハーフ、ハッテン場など)。
何度か芥川賞の候補に挙がった、千葉雅也さんの作品にも似ています。
『ジャクソンひとり』も千葉雅也さんの作品も落選しているので、『迷彩色の男』は芥川賞に向かない気がします。
『Blue』は「トランスジェンダーの物語」としてすばるに掲載された作品です。
身体的性別は男性、自分の認識する性別が女性という主人公が、自らの性別についてどう折り合いをつけるかという部分に、時代性(コロナ、リモート授業)も取り入れられており、面白く読みました。
映画「ムーンライト」や童話「人魚姫」が作品にかかっており、うまく構成された物語だと感じました。
逆に言うと、うまく仕組まれてるなという印象です。作中のパーツが、物語の構成要素として、書き手に作られた感を抱いてしまいました。
『東京都同情塔』は発想が面白いです。
- 新宿都心に、スカイツリー、東京タワーに次ぐ塔(刑務所)を建てる
- 入居できるのは「受刑者」だけでなく、「同情に値する人」
受刑者と同情される人々が、手錠なしで男女分けられずに過ごすという、明らかにカオスになりそうな状況なのに、カオスになっていません。
カオスな状況になってないなら、その強い理由が欲しかったです。非現実的(本当らしくない)と思ってしまいました。
『猿の戴冠式』は、一番読んで良かったと思った作品です。
- 人間の子どもと猿が言語教育を受ける(身体的表現をすると怒られる)
- 成長した子どもが、テレビを通じて猿に再会する
- 怒られていた身体的表現が救いになる
似ていると思った作品はありませんでしたし、自分で自分に冠を載せるというところが響きました。
『東京都同情塔』と同じく非現実的(人間と猿の意思疎通)なんですが、読み手に本当らしく感じさせるのがすごいです。
『アイスネルワイゼン』は声を出して笑いました。
友人から「サイコパス」と言われる主人公の言動や行動に、「それはないだろ」と突っ込みたくなります(悪い意味ではなく、いい意味です)。
候補作の中では読みやすいですし、わかりやすい作品だと思いました。
ただ、ラストがある必要性や、地名を隠してる部分(T)と隠してない部分(横浜)の違いなど、意図のわからない部分がありました。
以上から、『猿の戴冠式』の単独受賞と予想します。
前回までの芥川賞の予想結果
第169回:市川沙央『ハンチバック』はずれ
【芥川賞予想】第169回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2023年上半期)
第168回:井戸川射子『この世の喜びよ』、佐藤厚志『荒地の家族』予想できず
第168回芥川賞受賞作発表と、近年の受賞作で一番良かった作品
第167回:高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』はずれ
【芥川賞予想】第167回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2022年上半期)
第166回:砂川文次『ブラックボックス』当たり
【芥川賞予想】第166回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2021年下半期)
第165回:李琴峰『彼岸花が咲く島』当たり、石沢麻依『貝に続く場所にて』はずれ
【芥川賞予想】第165回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2021年上半期)
第164回:宇佐見りん『推し、燃ゆ』はずれ
【芥川賞予想】第164回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2020年下半期)
第163回:高山羽根子『首里の馬』当たり、遠野遥『破局』はずれ
【芥川賞予想】第163回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2020年上半期)
第162回:古川真人『背高泡立草』当たり
【芥川賞予想】第162回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2019年下半期)
第161回:今村夏子『むらさきのスカートの女』当たり