第171回芥川賞候補作発表
2024年6月13日(木)、芥川賞の候補5作品が発表されました。
受賞作の発表は、7月17日(水)です。
以下、候補作と掲載誌をまとめ、受賞予想をいたします。
朝比奈秋『サンショウウオの四十九日』新潮5月号
初の候補入りです。
『植物少女』で三島賞、『あなたの燃える左手で』で野間文芸新人賞を受賞しています。
感想はこちらです。
尾崎世界観『転の声』文學界6月号
第164回の候補『母影』に続き、2度目の候補です。
感想はこちらです。
坂崎かおる『海岸通り』文學界2月号
初の候補入りです。
感想はこちらです。
向坂くじら『いなくなくならなくならないで』文藝夏季号
初の候補入りです。
感想はこちらです。
松永K三蔵『バリ山行』群像3月号
初の候補入りです。
感想はこちらです。
受賞予想
- 『サンショウウオの四十九日』○
- 『転の声』△
- 『海岸通り』△
- 『いなくなくならなくならないで』×
- 『バリ山行』△
『サンショウウオの四十九日』は、今まで読んだことがないような小説でした。
結合双生児で、
- 意識は繋がってない
- 体は一つ
- 思考、感情、感覚は共有
そんな姉妹を描いてる小説、読んだことありません。
一見すると、特殊な顔を持った障がい者でも、「特殊な障がいを持って生まれた可哀そうな私」という作品でないのが良いです。
前々回の受賞作『ハンチバック』は、作者も障がいを持っておりますが、『サンショウウオの四十九日』の作者は、障がいの当事者ではありません。
当事者が書いたという理由で、『ハンチバック』が受賞できたわけではないでしょう。
ただ、当事者なのは、インパクトがあります。
『サンショウウオの四十九日』では、作者が同じ障がいでなくても、結合双生児の姉妹が実在するような印象を受けます。
作家の技量を感じさせます。
体は一つで、思考が共有されて、意識はかろうじて別にある様を、一人称視点の小説として、仕上げられてます。
『転の声』は、バンドボーカルの主人公が、転売でプレミアを高めていく様子が面白かったです。
ただ後半、転売から無観客ライブに話題がシフトするのが残念でした。
無観客ライブのプレミアを、私が理解できなかった可能性はありますが、余計に感じました。転売だけで成り上がっていくのはだめだったのでしょうか。
ラストのカオスな状況や、その取っ散らかったものがどうなるのかを、回収してないまま終わった感じがありました。
『海岸通り』は、謎の多い作品でした。
- 主人公は名前を聞かれるが、明かされない
- 主人公は欲しい名前があるらしいが、明かされない
- バス内のにおいについて、乗客が「変なにおい」「知ってるにおい」等と言うが、何のにおいか明かされない
謎が多い分、読者に想像させる点では面白みがありますが、書かれなさ過ぎてるような印象を受けました。
『いなくなくならなくならないで』は、死んだはずの友達が、迷惑な人間としか見えませんでした。
死んだと思ってた友人が生きてたら、今までどうしてたか聞きたいはずなのに、友人に気を遣って聞けません。
死んだはずの友人は謎な存在です。
背景がわからないまま、友人は主人公の一人暮らしの部屋や主人公の実家に居候します。迷惑な客にしか感じませんでした。
いなくならないで、でもいなくなってという主人公の葛藤を、読者の私は感じませんでした。
『バリ山行』は、候補作の中で、一番読んで良かったと思えた作品です。
通常の登山道を歩かないバリ登山。
危険なバリ登山に、「おもろいからだよ」と言って取り組む妻鹿(めが)さんに、憧れを抱きました。
読みながら、バリ登山について良いと思ったり、危険だから良くないと思ったり、思考が二転三転するのが、面白い読書体験でした。
そして、ラストに感動しました。
『バリ山行』は読後感が良く、受賞してほしいと思う作品でした。
受賞予想は、『サンショウウオの四十九日』の単独受賞です。
結果はこちらです。
前回までの芥川賞の予想結果
第170回:九段理江『東京都同情塔』はずれ
【芥川賞予想】第170回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2023年下半期)
第169回:市川沙央『ハンチバック』はずれ
【芥川賞予想】第169回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2023年上半期)
第168回:井戸川射子『この世の喜びよ』、佐藤厚志『荒地の家族』予想できず
第168回芥川賞受賞作発表と、近年の受賞作で一番良かった作品
第167回:高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』はずれ
【芥川賞予想】第167回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2022年上半期)
第166回:砂川文次『ブラックボックス』当たり
【芥川賞予想】第166回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2021年下半期)
第165回:李琴峰『彼岸花が咲く島』当たり、石沢麻依『貝に続く場所にて』はずれ
【芥川賞予想】第165回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2021年上半期)
第164回:宇佐見りん『推し、燃ゆ』はずれ
【芥川賞予想】第164回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2020年下半期)
第163回:高山羽根子『首里の馬』当たり、遠野遥『破局』はずれ
【芥川賞予想】第163回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2020年上半期)
第162回:古川真人『背高泡立草』当たり
【芥川賞予想】第162回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2019年下半期)
第161回:今村夏子『むらさきのスカートの女』当たり