自分に都合の悪いことを隠す
「アイスネルワイゼン」は、夜想曲「ツィゴイネルワイゼン」をもじった曲です。
どうしてもじったのか、結局聞きそびれてしまいました
とあるとおり、理由はわかりません。
主人公は32歳の女性で、ピアノ講師をしています。
以前は会社に所属し、大人にもピアノを教えていました。今はフリーです。
フリーになったものの、ピアノ講師だけの収入では生活できないので、母親からお金をもらっています。
主人公は、友人からバイトしないかと誘われます。
クリスマスイブにケアホームで行われる、歌手の伴奏のバイトです。
友人は、結婚記念日だから行けないと、その仕事を主人公に頼みます。
主人公は、歌手の伴奏のバイトを引き受けましたが、散々でした。
- 歌手に、慣れない車の運転をさせられる
- 歌手に、伴奏のダメ出しをされる
- 歌手に、帰りはバスで帰らされる
主人公は、バイトを紹介した友人に、愚痴ります。
車運転するなんて、ひとっことも言われてないんだけど
友人は、車の運転をするよう伝えたつもりでした。
しかし主人公は、「だましたんだよ」と譲りません。
主人公の怒りの矛先は、歌手から友人に変わります。
金の亡者だって言ったの! 今日だってマージン取って、しっかりお金抜いてんの、知ってたんだから
友人は、旅行したときのお土産を渡すとき、お金を取るような人間でした。
友人は主人公に言いかえします。
うちが金の亡者だったら、そっちはサイコパスだよ
友人は高校生のときの話をします。店で一緒で食事してた同級生が泣いたとき、主人公は泣いてる同級生をそのままに、隣の知らない男の人と話してました。
どっちもどっちだなと思いました。
お土産渡すときにお金を取るのもどうかと思いますし、一緒に食事してる同級生が泣いてるのをよそ眼に、知らない男と話すのもどうかと思います。
主人公のサイコパス感は、読んでて笑えました。
クリスマスイブのバイトを終えた主人公は、旧友に会いに行きます。
旧友の家には、夫と子どもがいます。
旧友の子どもはピアノを初めたばかりで、
よかったらなんだけど――
と旧友が、子どもにピアノを教えて欲しそうに、主人公に言うと、
あたしが教えろって?
と返します。強烈です。「教えろって?」という言い方に笑ってしまいました。もっと他に言い方あるだろうと。
教えろっていうか……、そう、そうなの。よかったらって思ったんだけど。やっぱり、難しいかな
旧友は頼みますが、主人公は無理だと断ります。
あたし友達に雇われたくないから
友人とのバイトの依頼の件があったからか、旧友からの頼みをぴしゃりと断ります。
「雇われたくないから」にも笑ってしまいました。
また、旧友の夫の上司が、離婚したことについて。
旧友の夫の上司は、妻の流産を供養するために、会社を長期間休んでお遍路参りをしました。
お遍路参りから帰ってくると、妻は、知らない男と不倫してました。
旧友は、浮気する気持ちがわかると言います。
どっちが悪いと聞かれた主人公は、
浮気相手は、奥さんが既婚者ってこと、知ってたのかな
この発言から、主人公が前の会社を辞めた理由は不倫の可能性があると思いました。
旧友から、会社を辞めた理由を聞かれた主人公が、
生徒と不倫して
と冗談のように言います。
もしかしたら主人公は、生徒が既婚者だとわからずに交際していたのかもしれません。
本作では、自分に都合の悪いことは言わない人たちが多いと感じました。
- 友人:紹介するバイトで、車の運転が必要なことを主人公に言わない
- 主人公:紹介されたバイトを、歌手から直接雇われたように母に話す
- 旧友:夫の上司の離婚について、上司の妻の不手際を主人公に言わない
- 旧友の夫:子どもの書いた言葉を、目の見えない妻(旧友)に教えない
- 主人公の元生徒:結婚してることを言わずに不倫?
自分のいないところでは、自分がどんなふうに言われてるか、わかりません。
自分のいないところでは、人は好きなように言ってるのかもしれません。
発言者を否定できる人間がいない以上、発言者は都合の悪いことを隠し、自由に話すことができてしまうという恐ろしさを感じました。
「アイスネルワイゼン」の曲の由来も、「ツィゴイネルワイゼン」をもじった理由を知っていながら、言いたくないから聞きそびれたことにしたのかもしれません。