酔いつぶれる小説家の日常
主人公は、兄と同居する小説家です。
年齢は30歳過ぎで、古川さん本人に近いですが、あくまで小説です。
主人公がなぜ日記を書くのかというと、
二日酔いのひどいとき、なにもできずに一日を漫然と送る言い訳として、「余は如何にして二日酔いとなりしか」を書き記しておこうと思い立ったのが、この日記の目的
です。
日記の内容は、
- 学生時代の友人に電話を掛け、酒を飲みながら話す
- 2019年から2020年にかけての日本の出来事
がメインです。
日記を書いている主人公は、自問します。
この文章はなんだろうか? これを、いま現在書いているやつは誰で、なにが目的で書かれているんだ?
それに自答します。
べつに意味もないじゃん! なんだよ、くどくどとつまらない独り言を書きやがって。
描かれる日常に、大きな出来事があるわけではありません。
ただ、主人公の「くどくどとつまらない独り言」が、先を読ませます。
例えば、実家の母が、なぜネコや夫の写真を送ってくるのかという疑問に対し、
家族だからだ。嫌なものも含めて家族をするため(中略)に、母は子供たちと共有する。
家族なんだから遠慮はいらないでしょ?といった感じです。
また、苦手な同僚が退職したのに、喜びをいまいち感じていない友人の心情に対し、
不在と出会ったときの困惑。たぶんこれだ。嫌っていたにせよ、怖れていたにせよ、その人物と関わっていたっていう時間は相手にも自分におなじだけ流れている。そのおなじであることが、ある日ぷっつりと途切れ、自分だけが取り残されて――この関わっていた人物の急な不在に出くわした瞬間の、どうして良いやらわからない感覚
と推測します。
急に辞められて、お別れの挨拶ができなかったら、残された側はどうしていいかわからず、戸惑います。
酔いつぶれ、日記を書きつづける主人公と、一緒に横たわるのは、この国です。
うんざりするニュースばかりなのだ。そしてこちらが日記を書こうが書くまいが、また酔いつぶれていようが蒲団でへたばっていようが、この国は相変わらず――あからさまに、でろりと、こっちと同様だらしなく横たわっている。
横たわる両者(主人公と日本)に対し、主人公はどうすることもできません。
ですが主人公は、悲壮感を抱いているというより、傍観しています。
夜になると酒を求め、話し相手を探し、家族から結婚をなんとなく催促されているのを、すべて他人事のように感じているように見えます。
- 友人たちが結婚していくことへの焦り
- 友人たちが社会人として働いていることへの焦り
から、逸脱しています。
そして翌朝、二日酔いでよっこらせと立ち上がる主人公の、日々の生活は、続いていきます。
調べた言葉
- 行状:日々の行い
- 立て板に水:よどみなくすらすらと話すことのたとえ
- 諫言(かんげん):目上の人をいさめることば
- もっけ:思いがけないこと
- しおしお:しょんぼり
- のべつ:ひっきりなしに
- 一知半解:少し知っているだけで十分理解していないこと
- 閑却:なおざりにしてほうっておくこと
- 捨て鉢:自信や希望をなくして、やけになること
- 敢然:思いきって行うさま
- 仕儀:物事の成り行き
- まだるっこしい:じれったいほどのろい
- 腹ごなし:運動などをして食べた物の消化を助けること
- 泉下(せんか):あの世
- 峻厳:きわめて厳しいこと
- しわぶき:せき
- 宣撫:君主・政府などの意志を伝えて、人の心をやわらげること