海辺に住む高校生の夏休み
主人公は、浜辺の街に住んでいる、17歳の女子高生です。
付き合っている彼氏は、同じ高校で、近所に住む幼なじみです。彼に面と向かって「好きだから付き合って下さい」と言われ、主人公は恋に落ちました。
幼少期から殆ど毎日顔を合わせているのに、ある日に突然、一目惚れをするというのも、おかしなことだった。
主人公と彼氏は、
- 立ち入り禁止の灯台でお菓子を食べたり、
- 彼の飼っている柴犬を連れて海辺を散歩をしたり、
- 自転車でラーメンを食べに行ったりします。
健全な付き合いです。
最近、彼が体を触ってきますが、主人公はやんわり断っています。
高校生の夏休みを甘酸っぱく描く作品だと思っていました。
「海がふくれて」という柔らかい言葉の意味が、冒頭の、灯台→水平線→海岸奥へ指でたどるときの、
水平線の中心に指先が差し掛かる頃、海は僅かにふくらみを帯びている
から、きていると思ったからです。
ですが、そんな柔い小説ではありませんでした。
海が「ふくれる」のは、砂浜を歩いている主人公が、波の上がってくる位置に違和感を抱いたときです。
左右の黒い海面が、音もなくむくむくむくと内側から捲れ上がるようにしてふくらみ始めている。そのふくらみとふくらみがある地点で重なり、さらに巨大なふくらみとなる。そして突如、轟音と共に、黒い津波のような海が砂浜へ打ち寄せた。
波はどんどん上がってきて、逃げる主人公を追います。
左の足首をぐいと引っ張られた。波ではなく、人のような力だった。
波に引き込まれ命を落とした人間が、生きている主人公を引き込もうとしている感じです。
主人公の父は、9年前に海で行方不明になり、いまだ帰ってきていませんでした。
父に、死んでいて欲しいのかもしれない。生きているのか、死んでいるのか、分からない宙吊りの状態で過ごすくらいならば、いっそ死んでいて欲しいのかもしれない。
波から逃げる主人公は叫びます。
わたし、まだお父さんのところに行きたくないよ!
この叫びからわかるとおり、主人公は父の死を受け入れています。お父さんのところ=海の中=死だからです。
灯台に逃げ込んだ主人公は、辺りを見渡します。
ふくらみはときに何十メートルにも及び、それは人食い波に違いないが、しかし目前の悪夢の光景は自然現象には見えず、海の終わり、あるいは世界の終わりにしか見えない。
翌日、海で父の頭骨が発見されます。
9年越しで父の葬儀が行われますが、主人公は泣きません。
そして、拒んでいた彼氏の行為を受け入れます。
主人公は高校最後の夏休み、大人に成長したのでした。
調べた言葉
- 生傷(なまきず):新しい傷
- 白亜:白い壁
- しげしげ:じっと見つめるさま
- 朽木:腐った木
- 紺碧(こんぺき):黒みがかった濃い青色
- 伝馬(てんま)船:荷物や人を運ぶ小さな船
- のたくる:文字などを乱暴に書きつける