いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『死亡のメソッド』町屋良平(著)の感想【芸能ゴシップ記者と死ぬ演技がうまい俳優】

芸能ゴシップ記者と死ぬ演技がうまい俳優

主人公はシステムの営業をしていましたが、鬱症状をきっかけに1年ちょっとで辞め、芸能ゴシップ記者になります。

芸能ゴシップ以外にも、

  • 俳優のエキストラ
  • YouTuber
  • ダンス

をしています。

主人公が俳優のエキストラをしていたら、主演俳優が小学校の同級生だとわかります。

同級生の主演俳優は、死ぬ演技がうまいです。

死ぬ演技の秘訣を聞く主人公に、同級生は言います。

カメラに撮られてないって想像しているだけだよ。そうすればメイクが馴染んで死体っぽくなっていくでしょ?

同級生は、カメラに撮られているときはいきいきし、撮られていないときには覇気がありません。はっきりと二面性を持った人間です。

だからカメラに撮られていないと思うことで、普段撮られていないときと同様、死んでいるようなのです。もはや演技ではなく、自然なのでしょう。

俳優の生死について、

俳優は画面に映っていないときには死んでいるか生きているかはわからない。映っているからたまたま生きてるってわかるけど、フェードアウトして、二度と映らないなら画面から外れた瞬間にころされてるかもしれなくてそれは観客にはわからない

観客にはわからない、画面から外れた俳優の生きている部分を切り取るのが、ゴシップだといえます。

主人公は、カメラに写っていない同級生の、さらなる裏の顔を知りません。

同級生が主人公に言います。

おまえのゴシップがいつかひとをころすよ。(中略)ゴシップが生前や死後の隔てを問わず存在しつづけることを、想像したことはある?

面白おかしく書かれるゴシップが、ときに芸能人を再起不能にします。それが真実の場合もあれば、虚構の場合もあるでしょう。画面に映っていない俳優同様、観客にはわかりません。わからない部分を、ゴシップ記者は埋め合わせて書き、読者は想像を膨らませて読みます

読者は、

皆自分にとって都合のよい物語に感情移入して擁護したりバッシングしたりした。(中略)書かれたテキストからその人間の好悪を判断する快楽だけが感染していき、芸能ゴシップから離れた世界に生きる人間の関心や悪意をもひとからひとへ間接的に呼び寄せてしまい

結果、芸能人を再起不能にします。

一見、ゴシップを悪いように書きながら、善悪で片づけていないところが、作品に好感を持てます。

主人公は、人を殺すゴシップを生業にしています。

現に、

直接的に活動停止、休止に追い込んだ有名人と資本が一件あり、間接的なそれが十七件あった。

活動停止、休止に追い込むゴシップが楽しみな読者も大勢いますから、なくなることはありません。

文藝 2020年秋季号

文藝 2020年秋季号

  • 発売日: 2020/07/07
  • メディア: 雑誌
 

調べた言葉

  • 気概:困難にくじけない強い意気
  • 感興(かんきょう):興味を感じること
  • 情操:知的作用や社会的価値を伴う、複雑な感情